涙どい
私には管が付いている。
両目の下瞼にびっちり沿った直径2mmの、流しそうめんの竹を半分に割ったようなレールが付いており、そのレールの中央部分から管が10cmほど鼻へ向かって斜め下に伸びており、左右からそれぞれ伸びてきた管はちょうど口と顎の間くらいでY字で合流し、1本の管となって足元まで伸びている。起立したときに地面に1cmだけちょうどつかないくらい。
なぜそんな管が付いているのか?何か病気?とデリカシーのない人は聞くが、合ってるようで合ってない。
生まれた日から付いているらしい。
人は産まれてくるときにオギャーオギャー泣いてるが、私は泣いていなかったらしい。というか気を失っていて、なんとかギリギリ蘇生できたらしい。蘇生したら泣き出して、数秒後にまた気を失ったらしい。また蘇生したら泣き出して数秒後に気を失ったらしい。さらに蘇生したら泣き出して気を失って蘇生したら泣き出して気を失って…
なんか調べたら、私の涙は毒らしい。
毒なので、雨どいを付けられた。
雨どいの付いている赤ちゃん。
横に寝させることはなく、ほぼ縦に寝させてたらしい。横にすると毒涙がこぼれて危ないので。もっとやりようはあっただろうと思うが、急ぎで雨どいを付けたのだろう。前例がないし、まぁ共感はできる。
当時、雨どいを伝った先には毒涙を溜めるプラスチック製の小瓶、ヤクルトの容器のようなものが付いていて、オムツを替えるペースで中だけ捨てていたらしい。
今はそういう受け止め容器は付いていない。成長するにつれて管の長さも伸びていき、自転車の補助輪が外れる頃に容器も外した。自分の意志で外した。ダセェから。そんなんぶら下げてたらダセェから足元から垂れ流し。というか滅多に泣かないし。泣かない女になった。でもいつ泣くかわからない。対人間関係においては泣かないのだが、ドラマ映画音楽漫画そういうインプット系のときは人一倍涙もろい。家で泣いている。家では分厚いタオルを股の間に置いている。外は垂れ流しだが、まぁ大丈夫だろうと映画館に挑戦したら事実上の出禁になった。病気のような外見からはっきり出禁とは言われてないが、足元をびしょびしょにしたらもう行けない。クレヨンしんちゃんの映画なんて見るんじゃなかった。新しいクレヨンしんちゃんの映画で泣くわけないと思ったのが失敗だった。
あと私しかないライフハックがあって、漫画とかで泣いたついでにベランダに出て窓の下のレールに沿って毒涙をスーッと伝わすことで害虫の侵入を防げる。効果は『ゴキブリがいなくなるスプレー』よりも倍長い2ヶ月はあると思う。引っ越してきたときは毎日のように出てたけど、これをやるようになってから本当に出なくなった。毒涙女のウワサがゴキブリたちの間で広まっていると思う。毒蜘蛛だって私の毒に涙するであろう。
ふとたまに、死にたくなるときがある。生きていると死にたくなるときがある人並みに。
でも私、いつだって死ねるんです。雨どいを引き剥がしてペロってすればいい。いつでもいいんだったら、今日じゃなくてもいいんですね。