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帰省

「とりあえずバット下ろして」

 「ほんまのこと言ってください」

「いやだから、2034年から来たあなたです」

 「出ていってください!怖いから!」

「いや見てほら!顔も髪型も一緒やん!」

 「いや、似てますけど、あれですか?親戚かなんかですか?」

「完熟トマト新聞、鉄拳の丸写し」

 「丸写しちゃうわ!キャラはトマトとかにしてるし!」

「サービスパンダのバーナードウォンツェイじいさんのネタをまんま紙芝居にして小4のお別れ会で披露した」

 「いやけっこう足したし!後半オリジナルで足したし!」

「話聞いてくれる?」

 「なんですか?2034年からなにしに来たんですか?」

「まぁ、いま44なんやけど」

 「44!」

「このままやったら芸人になって売れへん人生になんねん」

 「えっ芸人なん!?すごっ」

「芸人になったあかんで」

 「えー、でもみんな芸人になれるって言ってるで」

「あかんあかん」

 「え、それを言いにきたん?」

「まぁ、そうなんやけど、今日がそのターニングポイントで」

 「ターニングポイントってなんやっけ?」

「まぁ、とにかくあと数分で、青年団のスカウトが来るから、青年団に入ること」

 「え、青年団って、祭りのあれ?」

「そう」

 「えーイヤやって!断る」

「断ったら、芸人になって売れへんで」

 「いや関係ないやろ、断って、芸人にならんわじゃあ」

「あかん、断ったら芸人になる」

 「なんでやねん、ならん言うてるやん」

「僕もならんと思ってたけど、なんか就活とか一回きりの人生やしとか考えてたらなんかなっててん」

 「ならんって言うてるやん、そんななりたないし」

「そう!なりたいって思ってなかってん!でも気が付いたらなってて、やめれんくなってんねん!そこに強い意志はなかってん!」

 「うっさいってちょっと」

「とにかく、青年団に入って、地元で幸せに暮らすこと」

ピンポーン

「来た、断んなよ」

 「えーめっちゃイヤやそんな人生」


「おかえり、長かったな」

 「断った」

「なんでやねん!」

 「イヤやもんだって!それやったら芸人になって売れるし」

「売れへんから!舐めんな!」

 「努力が足りんかったんやろ」

「努力でどうにかなる感じちゃうねんマジで」

 「そうなん?」

「もうええわ、帰る」

 「帰るん」

「うん」

 「ちょ何してんの?」

冷蔵庫から、薄い箱のアーモンドチョコ、きのこの山たけのこの里のアソート、冷凍ラーメン、ハーゲンダッツ5個。

ダイニングの収納から、サッポロ一番みそラーメン・塩らーめん3袋ずつ、日清グータの雲呑坦々麺とあともう1つ別の味2つ、綿棒200本入り×2、マスクごっそり。

食品棚から、風邪薬とか頭痛薬とかごっそり、インスタントコーヒー2つ。

別の食品棚から、レトルトカレー4袋、味付けのり、とんかつソース。

「ティッシュある?」

 「え?」

「箱のティッシュ、トイレットペーパーも」

 「2階にあるけど」

「自分の部屋?」

 「うん、てかもう持って帰る気のカバンやん」

リビングの窓から見える庭に、車が帰ってくるのが見える。

「あー、、もう行くわ」

 「おとんと会わんの?」

「ややこいやろ、じゃ」

 「シェリーは?」

「あー会った会った」

 「そうなん」

「犬小屋があのー、繋がってるから、未来と」

 「え?」

「シェリーが犬小屋に入らんように見張っといて。シェリーが犬小屋に入ってたら時空が繋がらんから」

 「なにそのルール、じゃあ散歩いくわついでに」

「うんやばい!早く!」

ワン!ワン!ワン!

小6の自分が44の僕に吠え続けるシェリーの首輪にリードをつける。

その隙に車のトランクにやるようにパンパンの手提げバッグを先に犬小屋に放り込み、パンパンのでかリュックを背負ったまま犬小屋に乗り込んで2034年に帰った。

おとんの「誰や」を置き去りにして。



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完熟トマト新聞
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