大日本人の感想を脳内に直接語りかけてくる犬
「誰?」
「リアクションしちゃダメ。僕が君の脳内に直接語りかけていることを、誰にも悟られてはいけないんだ」
(…なに?誰?)
「自己紹介がまだだったね。僕は地球外生命体のクルピル」
(ピルクル…)
「前のパートナーもそう思っていたね」
(前のパートナー?)
「まぁ細かい話は置いといて、とりあえずいま、君が連れている獣の体を借りて、君の脳内に話しかけているんだ」
(けものって…)
「あぁ、犬、っていうらしいね。君の半径5m以内にいないと声が届かないんだ。だから君の友達の体をお借りしているよ」
(あ、で、なんの用ですか?)
「それなんだけど、僕は地球人の思考を調査をしているんだ」
(しこう?)
「なにを考えて生きているかだね。どうせ死ぬのになにを考えて生きているんだろうっていう研究さ」
(え、地球侵略するとか?)
「侵略なんてしないよ。ただの研究。興味さ」
(あぁ)
「大日本人って見た?」
(だいにほんじん…まっちゃんの?)
「まっちゃん?」
(まっちゃんの映画でしょ?一作目の)
「あー、そうそう、それなんだけど、見た?」
(見たよ、映画館で)
「じゃあ話は早いね。ネタバレがあるから要確認だったんだ」
(あぁ、で、それがなに?)
※以下、『大日本人』のネタバレあり。
「映画の最後の最後の最後の方なんだけどさ」
(うん)
「"ここからは実写でご覧ください"みたいなテロップが画面いっぱいに出たじゃん」
(うん)
「あのテロップって絶対いらないよね」
(うん)
「僕はね、良いと思うんだ。そこまでCGでやっていて、急に実写になるのは、面白いと思うんだ。でもさ、でもだよ?僕はそのテロップが出る以前のシーンもずーーっとCGを実写として見てたからさ。…大丈夫意味わかる?」
(わかるよ)
「だからさ、CGっていうのはその映画の中の世界では日常であって、実写じゃん。そういう暗黙の了解というか、その約束関係があって楽しんでたわけで。そこになんか急に"ここからは実写でご覧ください"ってテロップを出されても、正直ごめんね、(舐めないで)って思ったんだ」
(うん)
「別に急にCGが実写になったことを嫌がってるわけじゃないんだ」
(そうそうそれはわかってるよ)
「なんか他の地球人の映画通みたいな感想ブログでさ、『予算が尽きたのか実写に切り替わって…』みたいなこと書いてる人がいてマジでこんな感性の人を相手にしなきゃいけないのかって思ったんだけど、まぁそれはどうでもよくて」
(そうだね)
「なにが言いたいかっていうと、僕の感想はね、あのテロップさえなければ、完璧だったわけ」
(うん)
「細かい矛盾点とかを指摘してる感想もあるよ全体を通して、でもわりとそういうのは僕はどうでもよくて、なんの説明もなくCG演出が実写演出になったら、サイコーにカッコよかったと思うんだ」
(うん)
「(え?なんで急に実写になったの?)って思う感性の人なんかほったらかしにしてさ、だってCG演出が実写演出に急に切り替わったとしても、僕はどちらもその『映画の中の世界の本当の出来事』としてなんの違和感もなく受け入れてカラッと笑うんだよ」
(うん)
「なに?ってことはじゃあ僕は(実写になったの意味わかんない…)って思う人口を減らすために、僕のカラッと笑えたであろう未来を生贄に出されたってこと?ちょっと言いたいことが伝わりにくいかもしれないけど」
(いやすごいわかるよ)
「あのテロップが出た瞬間に、何かが音を立てて崩れ落ちたんだよね」
(いや、そうそう、ほんとそう)
「じゃあ、次は君の意見を聞かせてもらっていい?地球人の思考を知りたいんだ」
(あ、いま言ったのと全く同じ)
「そっか、じゃあもう行くね」
(うん)
「おっとその前に、お手洗いをお借りしていいかな?」
(あ、そのへんにしていいよ)
シャ~
「じゃ、ありがとう!」
(バイバイ)
「ワン!ワン!」