ベモジロウ王国

「いやぁ〜、参りましたよぉ〜」

『クシャクシャ笑顔で武勇伝を語るのは、若くして動物王国を立ち上げ、東京大学名誉教授も勤められ、さらには昨年、人間国宝にも認定されました、ベモジロウさんにございます』

どっから発声してるんだというネチッこい男声の高音ナレーションが聞こえる。

枕元のスマホには5:30とある。

テレビつけっぱで爆睡してしまった。

もちろんまだまだ寝よう。

「ひと噛みですよぉ、ひと噛みぃ、一瞬の出来事でしたぁあれはぁ、ただ戯れてただけなんですよぉ最初はぁ、こっちから耳や鼻や頬肉を噛んであげるとですねぇ、仲間だと思って戯れてくるんですねぇ可愛いですよぉほんとぉ、目が覚めたら病室にいましてねぇ、病室っていうのも内縁の妻が教えてくれたからわかったもののぉ、最初はなんか白い手すりぃ？みたいなのが見えてぇ、近距離ですけどもねぇ、ここは病院よって聞いてじゃあこれはベッドの手すりかとぉ、気付いたわけですねぇ、枕元の手すりですねぇ、本来は頭を枕に置いているわけですけどもぉ、その置く頭がないっていう話ぃ、ヒャハハァ、笑えるでしょぉ？」

『悲惨な事件も笑い話に変える、さすがはベモジロウさん。そんなベモジロウさんの噛みちぎられた頭部は現在、ベモジロウ王国の入場ゲートにて皆さんをお出迎え…』

二度寝のさなか、薄目でテレビ画面に目をやると、2mほどの縦長の赤と黄色を基調としたカラフルな土台の上に立方体のガラスケースが乗っていて中にクシャクシャ笑顔のクシャクシャ白髪のじいさんの生首が保管されており、その脇を家族連れが次々と通っていく映像が流れている。

「………笑えるでしょぉ？………笑えるでしょぉ？………笑えるでしょぉ？」

3秒スパンで笑顔のまま硬直している生首から録音肉声が流れている。

「先生が頑張ってくれましてねぇ、目がですねぇ、首の断面についていてぇ、あ、見ますかぁ？鼻も口もついてるんですよぉ、あの入場ゲートについてる目と鼻と口はぜんぶレプリカでねぇ、こっちが本物なんですねぇ、すごいでしょぉ」

カメラが首の断面にズームアップした。

あしたのジョーのような体勢で首をカメラに水平に向けていて、断面と言っても皮膚が自然治癒で張ったのか移植されたのか、真っ赤ではなくベージュで、そこに目と鼻と口が顔と同じ配置でついている。耳は両側部についている。意外と下地がベージュであることが一番キモく生理的な拒絶反応を示し、えずいてしまった。

「…笑えるでしょぉ？」

「ウェエエエ！！！」

ギリギリ耐えていたのに、口がパクパクしたところで崩壊してしまった。

気合いを入れて起き上がってその勢いのままティッシュシャッシャッシャッファブリーズシュッシュッシュッ暖かくなってきて花粉も嫌なのでステップ台2つとサーキュレーターの首振りを駆使して布団を部屋干しした。

寝る場所を失った朝5:40、何をしようか途方に暮れている。