全消し
中学の同窓会へ向かう電車の中で、ぷよぷよの瀕死状態のときの音楽がずっと頭の中を流れている。近頃は本当に辛いことが多くて、朝起きても立ち上がるのに3時間かかった。ぷよぷよ瀕死状態の音楽が流れてきたのもそらそうやんなって感じで受け入れたのをきっかけに立ち上がり、シスコーンだけエサみたいに食べて着替えて出発した。
会場の最寄駅に着いて「おーい」と声がして振り向くと、エスカレーターを駆け上がってくるスーツの男の顔に見覚えがあった。大原。大原は2年のクラスメイトで、こいつさえいなければだった。頭の中の瀕死状態の音楽が1こ転調して速くなった。そのテンポと足並みを揃えて逃げたくなったのを堪えて、大原と横並びでいろいろ聞かれる質問に答えながら会場へと向かった。まるであのときの記憶が抜け落ちたように、まるで仲良しだったようにべらべら話しかけてくるそいつに何も本当のことは言わなかった。もしこいつにあのときみたいに土足で今の僕の領域に踏み入られたら正気が保てなくなりそうだったから。
「てかそういえばさ、お前と同じ名前の小説家?っているよな、なんか5年前くらいに賞とってた。」
瀕死音楽がさらに高く転調して速くなった。
「なんかお前もあんとき書いてたよな。あんま覚えてないけど読んだ記憶あるわ。」
頭がガンガンして諦めて目を閉じると、
緑
赤
のぷよぷよが降ってくるのが見えた。
「でも名前の郎だけあの、あきらの方の朗だったから、違うって分かって。」
「え、それって、読んだ?」
「え?あー読んでない読んでない。お前のだったら読んだんだけど。」
ホッとした拍子にまた目を閉じると、くるっ
赤緑
くるっ
赤
緑
と半回転し、着火した。口元はニヤリとし、しばらくこの様子を目を閉じたまま見ることにする。
えいっ
ファイヤー
アイスストーム
ダイヤキュート
ブレインダムド
ジュゲム
ぱよえ〜ん
ぱよえ〜ん
ぱよえ〜ん
ぱよえ〜ん
ぱよえ〜ん
ぱよえ〜ん
ぱよえ〜ん
ぱよえ〜ん
ぱよえ〜ん
ぱよえ〜ん
ぱよえ〜ん
ボロボロ涙を流しながら目を開ける。
「え!なに!いまドーン!って!?え!?なに!?またドーン!て!!えなんか音楽が!!え!?頭痛い頭痛い!!えーなになになになに!?」
大原は叫び喚きながらその場で最後の悪あがきのようにボックスを何周も「なになになになに」と踏み、そのまま正面から飛んできた巨大な怪鳥に連れ去られていった。
僕はその足で5分で会場に着き、大原が来てないことには誰も何も言っていなかった。「本、買って読んだよ」と言われるたびに怯えたが、そこから「あれって大原のことだよね」とは言われなかった。みんななりに罪悪感みたいなのがあったのかもしれない。僕としてはこれで全消しされたので、また小説を書いてみようと思う。