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【感想】観劇三昧『池袋ポップアップ劇場season2』Vol.1

原石の煌めきだらけじゃないか!

観劇三昧で新着動画のリストを見ていたら、ふと面白そうな演目を見つけた。
「観劇三昧」と「ミクサライブ東京」という施設が主催で、毎週水曜日に20分×4劇団の舞台作品が観られるという企画のようだ。
さっそく観てみることに。

結論を言うと、「日本小劇場界の可能性」を感じた
4作品とも、センスに満ちたアイデアを作品に落とし込み、なおかつ表現方法も巧みだった。
こんな猛者たちが「アマチュア」としてくすぶっている(失礼)なんてもったいない!と思わされる

まずは各演目ごとの良かった点を述べていく。

1.こちらスーパーうさぎ帝国「あああっっ!!という間に」

なんだか危険な匂いのする(失礼)タイトルだが、物語の切り口は興味深いものだった。
1人の女性が死に際で見た人生の走馬灯を見るが、謎の男女が現れて、その内容をもっと劇的なものに捏造しようとする。
どこへ向かっていくのかわからないストーリーだが、どうも出てくる思い出の要素が古い。途中で、主人公の女性は80代のおばあちゃんであるということが明かされ、周りにいた男女はどうやら身内らしい。が、結局どういう設定だったのかわからなかった。
(私の理解力が乏しかっただけなのであしからず)

ハイテンポで最後まで一気に観せてくれる

みんな客席に背を向けず、前を向いて目いっぱい大きな表情と仕草で台詞を言ってくれる。
非常に聞き取りやすくわかりやすいが、このような「いかにも演劇」って感じの芝居は、果たして演劇初心者には受け入れられるのだろうか。疑問である。
しかし、見やすい演劇ではあった。
コテコテの「演技」って感じの芝居だが、絶妙なところでリアルな芝居を混ぜてきて、思わず笑ってしまう。これはズルい。
特に主演の女性の「抜き感」は上手かった。やはり自然な演技のほうが見てて笑えるのだ。

コントらしい気楽さと、演劇らしい重いテーマの共存。

主人公の自覚のない認知症を思わせる台詞が、サラッと入ってくるのは良かった。
認知症当事者が感じているであろう不安が、主観的な視点で描かれるのにはドキッとする。
この芝居はおふざけのように見えて、こういうドキッとする要素を含んでいるから侮れない。

思い出を捏造していくうちに、時の流れの速さに翻弄される主人公。きっとリアルでも、同じことを感じたのだろう。
この女性の見ている風景はフィクションの人生体験だが、同時に世の中の全ての人が体験するリアルな人生も描いている。
何気なく観ていたが、なかなかに深いテーマを描いている本作に驚かされた。

2.日本のラジオ「西友にて」

私は数年間、東京の阿佐ヶ谷に住んでいたことがあるが、JR阿佐ヶ谷駅の目の前にあるスーパーが「西友」だった。
その経験がなかったら、きっとこのタイトルの意味がわからなかっただろう。

抜群の空気感! 演出が細部まで行き届いた秀逸コメディ

まず台詞の導入からバッチリだ。青菜を探す少女から、一体どんなストーリ―が展開するのか非常に興味をそそられる。
「陳列された野菜のどこからどこまでが青菜かわからない」なんて、天才にしか思いつかない発想だ。
会話は静かに淡々と進んでいく。セットもなく、どことなくラーメンズのコントを彷彿とさせる。

それまでの展開を次々と覆していく台詞回しが上手すぎる

役者の仕草にいたるまで、実に細かいところまで演出が施されているのが伝わってくる。一旦よけた牛乳寒天を再び戻す仕草とか、絶対笑ってまうやろ。
2人の役者が、自分の置かれた状況と相手の台詞をきちんと受け止めてリアクションができている。だから笑えるのだ。
当たり前のことだが、これができている劇団は決して多くない。

脚本がとにかく上手い!

会話は全編にわたって知的で、笑いのセンスに溢れている。
青菜を買うか買わないかというくだらないストーリーなのに、めちゃくちゃ見応えがある。
青菜という切り口から、話がどんどん広がっていくのかと思いきや、どんどん深く沈んでいく。これは良い意味で裏切られた
この何でもない滑稽な話に、大きなオチなど要らないのだ。
だからラストも、あの終わり方でいいんだと思う。

3.くによし組「カズコとサキコ」

軽妙でコミカルな会話に、ずっと漂うホラー感。

またコメディか、と思って鑑賞しはじめたが、始まってすぐにこの作品の非常性に気付いた。
夕食前に親子が話しているだけの何気ないシーンなのだが、ただならぬ緊張感が漂っている。
むしろホラー作品に近いと言えるかもしれない。

役者の唯一無二の個性が、作品世界を後押ししている。

娘役の俳優が非常にいい。最初は小学生くらいの息子の役かと思ったけど、なんと成人女性の役だったのには驚いた。
しかし、あの独特な声色と雰囲気が、作品をあくまでコメディ調にしてくれている。
母親との会話も絶妙にちぐはぐで面白いし、父親に関する情報が説明台詞になっていないのもいい。
父の存在について核心に触れられることはなかったが、徐々に明らかになってくる「父」の異常性には、思わず息を呑んだ。
上手く説明できないが、とにかく怖く、不思議な感触を残された。

笑えない状況を描きながら笑わせてくる。

正直、20分という枠で観るにはもったいないくらいの重厚な内容だった。
サンタ帽がしおれただけでこんなにも会話が広がるのも凄いし、気になる台詞もたくさん出てきた。
「カーテン開けといて。明かりが見えてたほうがいいだろうから」
「ずっと行きたかった山口」
「お父さんの体質」
「べちょべちょ」
これらが意味するところは何なのか。
結局その謎は残ったままだが、この作品に関しては、それでいいような気もする。もしかしたら、20分という尺だからそう感じたのかもしれない。

この作品は軽くて明るい会話の随所に、相手を気遣う切ない想いが含まれている。役者の出す空気感も素晴らしいが、何より脚本の秀逸さが光っている。
今回観た4本の中で、最も演劇的に興味深い作品だった。

4.ザ・プレイボーイズ「やりたかったマイ・フェア・ボディ」

これまた異色な作品だ。短編のオムニバス作品となると、作・演出家としては冒険したくなる気持ちは十分にわかる。
普段の本公演ではできないような、実験的な試みをしてみたくなるのだ。しかし、それにしても遊び過ぎている。(褒めてます)
そのおふざけぶりは、他の3劇団とはベクトルも全く異なっている。

「おなか・すいたろう」が気になり過ぎる

どうやら彼らは、「マイ・フェア・ボディ」という演目を予定していたようだ。しかし主演の「おなか・すいたろう」という俳優が出演不可になったことで、上演を断念する運びとなり、他の出演者が舞台上で謝罪をする。
謝罪が進む中で、出演者たちのわだかまりやいざこざが徐々に出てくるのが面白い。このへんは劇団あるあるだ。
観客は、予定されていた演目がどれだけ面白い内容だったのかを想像しながら、彼らの謝罪を聞くことになる。非常に面白い設定だ。
役者たちの演技も自然でとても良い。こういうテイストの芝居を男性俳優が大勢で演じると、なぜだか面白い
今回のオムニバス企画において、他の3劇団とは全く違う観せ方をしてくれた彼らの試みは、着眼点が非常に秀逸だった。

4劇団いずれもハイレベル

このことだけは、ハッキリと伝えておこうと思う。
入場料がいくらかは知らないが、一回の観劇でここまでハイレベルな短編が見られるイベントはそうそう無いだろう。
さすが東京である。
こんな人たちがシノギを削っている世界を、是非もっと「一般層」の人たちに知ってもらいたいものだ。
これほどのクオリティの演劇が池袋の商業施設で毎週上演されているなんて、素晴らしい文化だと思う。
だからこそ、参加劇団に今一度見直してほしいのは、「演劇慣れしていない客層が、受け入れやすい作風かどうか」ということだ。
演劇慣れした我々が捻った作品に笑えるのは当然だが、演劇初心者でも楽しめる作品なのかというと、また違った評価が下りそうである。

ここから先は、作品ごとの辛口な意見を綴っていこうと思う。

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