【感想】ポケット企画 第8回公演「おきて」
非常に世界観が統一された作品で、安心して見ていられるクオリティ。
小劇場の芝居を見るのはギャンブルだ。本当に目も当てられない質の作品に当たることが多いなか、このポケット企画さんの作品は冒頭からその不安を払拭してくれた。
まず、導入の会話にセンスが表れている。
すぐに説明台詞を始められると「ウ○コ脚本だな」と思うが、キチンと遠いイメージの会話から入り、徐々に物語の設定に触れていく。そんな当たり前のことが出来ていない芝居は多い。
なぜだか聞いていられる会話。
噛み合っていないようで噛み合っている、不思議な感触のやり取りが心地いい。
観客は、芝居が展開していくにつれて、徐々に人物たちの関係性を知っていくことになる。彼らがどこに向かっていて、どんな問題を抱えているのか、絶妙に焦らされながら理解させてくれる感じが絶妙に上手いと思った。
(とはいえ収録音声が小さすぎて、ボリュームMAXにしても結構な部分のセリフが聞き取れなかった。これは映像収録の機材の問題だから仕方ないが)
この芝居は多くの場面転換があるが、どの転換も無理してないのがまたいい。明かりのもとで「見せる転換」をしてくれるから、観客も飽きないし、何より役者も安心して移動が行なえたことだろう。
この記事を読んでいる人ならわかると思うが、照明を浴びていた状態から暗転して袖にハケる時の恐怖は異常だ。
世の中にあまた居る、バカの一つ覚えみたいに無意味な暗転を多用する演出家は、夢を諦めて地元に帰っていただきたい。
話を戻そう。
選曲のセンスも抜群だと思う。
あざと過ぎないし、クラシックや讃美歌のような曲で統一性もある。
役者が感情の機微を見せるところでBGMに頼らないところも好きだ。
音楽について一つ気になったのは、ウキちゃんと友人がみかんを食べるシーン。ここで長尺の無言が続き、「なんかあったんでしょ?」と入る流れが非常に素晴らしいのだが、ここはBGMがないほうが絶対に生きると思った。
物語は良い意味で淡々としていて、登場人物たちが抱える思いもバラバラなのに、なぜかクライマックスに向けて一つの感情へ収束していく感じは気持ちよかった。
脚本と演者の力があってこそ出せる空気感だと思う。
「人は死なない」という台詞も、なぜか心に残った。
全体を通して、見ていて気持ちのいい作品だったと思う。演劇耐性のない人でもギリギリ見れるレベルにしてくれているし、演劇好きには刺さるところもある作風だと感じた。
何より、不思議な世界観と後味を持つフワッとした作風なのに、きちんと作者のメッセージが伝わってくるのが良い。
「伝わる人にだけ伝わればいい」みたいなスタンスの演劇ほどつまらないものはない。
そんな演劇はウ○コだよ。私はそう思う。無料でやるならいいけどね。
とにかく、素敵な空間を観せてもらった。
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