vol.1 『Coaching』
第一回目のテーマは『Coaching』です。
このマガジンでは🇩🇪ケルントレーナーアカデミーの授業内容のアウトプット・復習のために要約しているだけなので、言葉足らずな部分や少し内容として十分ではないものがあるかもしれませんが悪しからず。
コーチとトレーナーの定義
日本の柔道界では一般的に指導者のことをコーチ、そして柔道以外の指導(身体機能や筋力の強化指導など)を行う人をトレーナーと呼んでおり、指導する内容でその役割を分けている印象があります。(違ったらご指摘ください)
しかしドイツでは、指導の内容で役割を分けているのではなく、それぞれが何を提供するかによってその定義が決められているので、指導者はトレーナーでありコーチでもあると言われています。ではその定義とは何か。
『トレーナーは成長を提供し、コーチは展開を提供する』
つまりアスリートが大成するための道筋を立て、ガイドするのがトレーナー、アスリートが新しい解決策を見出すことができるような枠組みをデザインするのがコーチとなります。
柔道の指導者で例えると、選手のトレーニング計画や試合計画、練習内容の決定、計画に沿ったトレーニングの指揮をとるなどはトレーナーとしての役割であり、試合中もしくは前後の助言、乱取り中のアドバイスや乱取り後のフィードバックなどはコーチとしての役割だと定義できます。
ドイツの柔道の指導者にはこのトレーニングやパフォーマンスの発展のシステムを構造化する能力が求められることから、すべての指導者に◯◯コーチではなく、◯◯トレーナーという名称がついているのだと考えれらます。(ナショナルコーチ=Bundestrainer、クラブチームコーチ=Vereinstrainer等)
トレーニングとコーチングの違い
ここでコーチとトレーナーの役割の違いをもう少しわかりやすくするために、コーチングとトレーニングの定義についてまとめてみます。
このようにそれぞれの定義を比べてみると、トレーナーには専門競技での基盤・土台となる肉体的・精神的前提条件を構築し最適化することが求められて、コーチにはそのポテンシャル(最適化された前提条件)を最大限引き出すことが求められるのだと考えられます。
信頼関係
先の定義の比較では、重要な要素として信頼という言葉が出てきます。
そしてその信頼を構築するためにはアスリートと指導者の間でのコミュニケーションが必要不可欠です。
大会でコーチングをしてくれる指導者が自分の普段のトレーニングの面倒を見ているトレーナーでもある場合はその信頼関係はすでに盤石なものになっていると思われるのでそこまで大きな問題はないのですが、ナショナルチームからの招集がかかった大会などでは【普段指導をしている人≠試合でコーチングする人】という状況がおこります。
その場合には、コーチとしてアスリートとコミュニケーションを取ることはもちろんですが、そのアスリートの指導者とのコミュニケーションも非常に重要な要素となります。
指導者⇄コーチ間での情報共有でアスリートのことをよりよく知ることで、アスリートとコミュニケーションを取るためのツール(情報)が手に入るので、信頼関係の向上のためのツールの使用が可能になります。
コミュニケーションの注意点
また、コミュニケーションにおいて多くのコーチが犯してしまいがちなミスは、アスリートとのコミュニケーションの成否を自分で決めてしまうと言うことです。コミュニケーションやコーチングがうまくいったかどうかは、その情報の送信者(=コーチ)ではなく受信者(=アスリート)が決めることです。
自分では正確に情報を伝えたと思っていても十人十色それぞれ違った解釈をしていおり、自分の思っていることがうまく伝わっていない可能性が十分にあります。
例として、アカデミーの授業中におこなった興味深い実験の紹介をします。
教授から「A4の用紙にサッと大きな星を描いてください」という10秒もあれば簡単に終わるような課題が出されました。生徒はそれぞれ星を書いて誰にも見えないように提出しました。
自分は①を描いたのですがみんなも、①か②を描くだろうなと思っていました。しかし蓋を開けてみれば、その形は様々で、こんなにも人によって基準が違うものなのかとハッとさせられました。
だからこそ信頼を構築するためにも普段からアスリートと指導者との間には綿密なコミュニケーションが必要であり、お互いの考え方やメッセージの意味を共有する必要があります。
コーチング要素
続いて試合中のコーチングに必要となる要素の基本的枠組みについての解説です。コーチングは関係性・時間・感情・言語・構造・内容の6つの要素で構成されています。
柔道の試合でのコーチングを例として挙げてみます。
以上のことを踏まえて試合のコーチをする必要があると考えられます。
なので現在のIJF試合審判規定のように「待て」の時間のみ助言が許されるシステムは自分のメッセージについて考え、選別するためのいい機会になっていると思います。(いつ、何を、如何に簡潔に正確にどのトーン・速度で伝えるかなど)
試合中に指示を出し続けても、アスリートの情報処理の許容範囲は決まっているので、その情報を全て処理しきれず、それが集中力を拡散させパフォーマンスの低下につながる可能性もあります。
ここでは今の自分の指導者としての立場を例として挙げていますが、担当する年代によってアスリートとの関係性は変わってきます。小・中学生の指導者は、選手にとって支援をしてくれる人であるのは間違い無いのですが、担当の年齢が下がるほどコーチとしての役割よりも教育者としての割合がかなり大きくなります。
そうなると伝える内容も関係性に応じて変化してくると思うので、自分の担当するアスリートに応じたコーチングが必要になります。その点は指導者が考え各々の最適解を探す必要があります。
メッセージの方向性
最後にコーチングをしている際の自分のメッセージの方向性について考えます。
この方向性というのは、自分のメッセージが過去or未来の横軸と解決思考or問題思考の縦軸のマトリックス図ではどこに位置するのかということです。
試合中のアスリートにとって必要なのは過去の問題ではなく、未来への解決方法になります。
選手に向かって、「あれができていない、これができていない」と伝えても何の解決にもなりません。むしろその問題を解決するために何をするべきか?をコーチは試合中に伝える必要があります。問題の指摘は試合中以外で伝え、取り組ませればいいわけです。
このメッセージの方向性もアスリートのパフォーマンスに影響を与えるので、指導者は自分のコーチングのメッセージがどこに位置するかを改めて把握する必要があります。
終わりに
今回の授業では、指導者とアスリート両方の立場の視点を持ちながら、立体的・複合的にコーチングというものを考える良いきっかけになりました。
コーチングに関する皆さんの異なった意見もあれば、ぜひお聞かせください。
また今後もスポーツに関する勉強した内容を発信していければと思います。ありがとうございました。
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