十本目 『自分の柔道スタイルについて考える(後編)』
さあやってまいりましたDJM記念すべき第十本目!!
気がつけば最初の記事を書いてから半年が経っていましたね。
なんというスローペース。笑
まあ気楽に自分のペースで更新していきます。
前回は「自分の柔道スタイルはどうのようなものか?」を考えるために、自分の柔道のコンセプト、各方向への投げ技、組手・状況別の序列を書き出すという作業を行いました。
↓詳しくは前回の記事を参照してください↓
今回の後編ではこれらの要素を組み合わせて、さらに細かく自分の柔道を図解して考察していくという作業になります。はじめに謝っておきますが、かなり長いです。笑
前回の記事を読んでくださった方も、まだ読んでないという方もぜひこの前後編に目を通してみてください。海外で指導したいという方、特にドイツでと考えている方には必要な思考になるかもしれません。保証はできませんが…笑
それではまいりましょう!「はじめ!」
多角的視点で自分の柔道を見る
まずはじめに前回書き出した自分の投げ技と、柔道のコンセプトを基に考えた組手・状況の序列はそれぞれ自分の柔道を違う角度から見ているものと仮定します。
投げ技の表を自分の柔道を上から見たもので面積を作る部分とし、組手・状況の序列を自分の柔道を横から見たもので高低差を作る部分とした時、次のような直方体を作ることができます。
今回はこのビルのような直方体を基に、自分の柔道スタイルの可視化についての僕の見解を解説していきます。
より高い階層へ!
当たり前のことですが、乱取りや試合では、自分の持っている組手や今いる状況が常に変化していきます。これは選手それぞれが違ったコンセプトを持っており、お互いがお互いに有利な組手や状況を作ろうとするからです。
この自分を上層へと導き、相手を下層へと追い込む作業こそが試合の流れを作るための非常に重要な要素であり、だからこそ多くの柔道家達は組手の重要性を説いているのだと考えられます。
自分の得意技を決めるために今の状況をより良くしたい、少し不利な状況をなんとかしたい時などには、組手、体捌き、足技、フェイントなどの様々な技術を駆使して戦況を好転させることができます。
例えば奥襟を叩かれて引きつけらた場合、その叩かれた奥襟をずらして自分の引き手で切ることができれば、逆に自分が優位な2-1のヒエラルキーの最上階層にいけますし、叩かれた奥襟をずらすためのスペースがなければ、引き手で脇を取ってまずは相手との距離をとって体捌きに腕や上半身のいなしを加えた動きで組手を切ることも可能です。
腰や帯を外から持ってきて密着してくる相手にも、この引き手で脇や襟を持つ組手は距離を取って自分の肩を活かすのに使えます。他にも腰に回してきた腕を逆に引き手で外から抱え込んで体全体で圧をかけながら切ることもできます。そうするとまた引き手と釣り手を両方持った自分優位の組手になります。
相手がクロスグリップを狙ってくる場合には引き手で帯をとって距離と体の向きをコントロールしながら大内刈りに切り返したり、帯/背中を叩いてくる相手の釣り手を取りつつ左自護体で自分の釣り手を相手の引き手から切り離して後ろについたり、奥襟に持ち直して2-1の状況を作ることもできます。
次にお互いに袖と前襟を持った状態や、両袖を絞り合った2-2の状態では、自分の釣り手を相手の引き手から切り離すことで、自分の引き手で相手の釣り手をコントロールしながら奥襟を叩くこともできますし、もう一度前襟を持ち直して相手に引き手を持たせないように腕を動かしながら2-1の状況で技に入るなどの選択肢があります。
上記の例を図に書くとこんな感じでしょうか。
自分に不利な状況では最低でも一つは対策が欲しいところです。一つでも上層の自分のコントロール度合いが高い状況に持ち込むには、そして自分が目標とする形から得意技で投げるにはどうするか、常に試行錯誤しながら練習をすることが重要ですね。
学生時代、指導者の方からよく聞いた、「組手を妥協するな!」という言葉は試行錯誤を怠るなということを意味していたのかなあと今になって思います。ただ闇雲に量をこなすのではなく、少しずつ組手や攻撃に変化を加えながら相手の反応を見て考えながらの乱取りは多くの発見や成長をもたらすと信じています。
と言ったところで次は階層ごとの技について考えていきます。
階層ごとの主要な技を考える
今回この階層を立体にしたことには理由があります。それは状況によって、その技が持つ役割、技の入り方・投げ方、ひいてはその技が使えるかどうかなど、様々な条件が変わってくるからです。
例えば内股で考えた場合、組手の位置と飛び込む距離の関係性から、上から三段階目まではある程度技の威力・効果を発揮することができます。しかし真ん中から下に行くにつれて返し技や透かし技のリスクも上がり、内股をかけることが難しくなるという感覚があります。
それどころか右の相四つで、完全に相手の組手で密着された状態では、内股などの前方向への回転系の技をかけることはただの自殺行為になりえます。なのでその状況に適した別の方向への投げ技を使ったりします。
このような条件から、脇を持った状況や、お互い極端な右姿勢で袖と襟を持っている場合などは足技で遠い方の足に注意をそらしての大外刈り/掛けを中心とした戦術をとります。
脇と前襟を持った場合↓
(*各状況によって使用が困難な技は半透明になっています)
この場合、脇を持った引き手で相手の体の向きをコントロールできるので正面から大内刈で相手の後脚を攻撃しつつ、重心が前脚に乗った瞬間を大外刈で攻撃したり、支釣込足で重心を左前方に崩しての戻り際に大外狩りで攻撃したりします。
お互いが両手で袖・前襟を持った極端な右姿勢になる場合↓
この状況では、極端な右姿勢でお互い体が密着しているので小外掛けや膝車などの重心を引き手側に置きながらかけられる技で相手の後脚を攻撃しつつ、相手の重心が前脚に移る瞬間に大外掛/狩で攻撃します。感覚的には引き手側のかなり横方向に投げるイメージです。ダイレクトに後ろに投げようとすると相手の体が前傾姿勢の分、返される危険性があるので。
クロスグリップに持ち込まれた状態↓
この場合、密着したままの状態ではそのまま巻き込みや釣り込み腰のような形で体を浴びせられるか、帯取返などで投げられる危険性があるので、引き手で腰(帯)を持って相手との距離を保ちつつ正面に回り込んで(相手の腰を正面に向けるように開いて)の大内刈が主力の技になります。
この時の技表を見てもらうとわかるように、入れる技がかなり絞られています。なにより、内股や背負投などの右の前技が入れない、つまり投げる方向の選択肢が減らされているので相手も次にどんな攻撃が来るのか予測しやすくなるので、対処もされやすくなります。(もっと下層に行くとさらに攻撃パターンが絞られます。)
そしてなぜか急に裏投という選択肢が出てきました。これはクロスグリップで帯を持たれて完全に引きつけられた、または肩口をコントロールされた場合に出さざるを得ない技になります。これは相手の作戦に嵌って掛けさせられた技になるのでこうなると9割方は投げられるか、耐えれたとしても寝技への移行でやられることがほとんどです。
体感が強くてインファイトが得意な選手だと、逆に自分からこの状況を作って相手が巻き込もうとしたところに合わせて裏投や谷落で投げることを戦術に入れることができますが、僕にとっては非常に苦手な状況と言えます。
つまり言い換えると、自分が克服するべき弱点がはっきりとわかるわけです。なのでそんな状況を打破する技術や戦術を身につけることが今後の課題として挙げられます。
このように客観的かつ具体的に自分を分析できるのが、この多角的視点を持った柔道スタイルの考察・分析のメリットかなと書いてて思いました。
技の役割を時間軸で考える!
「技の役割を時間軸で考えるとはどういうこと?」
と思われる方もいるかもいるかもしれませんが、これは短期的な時間軸での技の役割と長期的な時間軸での技の役割を別で考えるということです。
『短期的な時間軸での技の役割』
先ほど大外刈の例で挙げたように、状況によってそれぞれ適した技というものがあります。一つの技で全ての状況を打開するということは非常に難しい話で、その時々で理にかなった技を選択し変化・対応することが望ましいと考えます。
なので短期的な時間軸での技の役割というのは、今ある状況で威力を発揮する、もしくは今ある不利な状況を打破するなどが挙げられます。
相手が執拗に極端な右姿勢になるならその出ている足を攻撃する大外や、前に出ている重心をさらに前方に崩すための支釣込足などはその状況に合った攻め方になります。
もしくは相手が肩口からクロスグリップを狙って引きつけようとしているならば、引き手で帯を持って距離を取りながら大内刈で試合を組み立てることで、巻込などの密着してかける技を防ぎ、肩襟の指導を誘発するための良い打開策になります。
このような技の役割を短期的な時間軸の技の役割と定義します。
『長期的な時間軸での技の役割』
では長期的な時間軸での技の役割とは何か。ここでは試合全体の経過をx軸、最も理想的な状況を第6段階、逆に最もピンチな状況を第0段階とし、その階層(状況)の推移をy軸として、各時間帯で仕掛けた技が、後に試合が進むにつれてどのような影響や効果を与えるかを考えます。
例えばある試合で以下のように時間毎に状況が変わったとします。
そして各時間帯、各状況でグラフ上にあるように技を使用したとします。この時に仕掛けた技は自分にとっては各状況に応じて理にかなっているものであり、それぞれが短期的な時間軸で役割を果たしていると言えます。
そしてここから考えるのは、最後にGSで内股で投げるまでにどれほどのロジックを積み重ねてきいるのか、布石を打っているのかということです。
念のため書いておきますが、基本的には状況毎でかける技は相手を投げることを目的として使用しています。ただし完璧に相手の組手になってしまいどうしてもその状況から逃れるために仕掛ける消極的な技など状況によってはそうでない場合もあります。
投げることを目的と書きましたが、実力が拮抗している場合など、なかなか簡単には技が決まらないことがほとんどです。そこで考えるべきは、投げようと試みたが、決まらなかった技に意味を持たせることです。
先ほどのグラフのような試合展開で考えた場合、試合開始後1分30秒に一度自分の組手になって内股を仕掛けましたが決まりませんでした。そこから相手も戦術を奥襟や腰をかかえてのインファイトに切り替えてきます。そのときにタイミングを見て潜り込んでの担ぎ技や執拗な寝技などで攻めます。これにより相手に対して近づくと潰されて寝技で削られる、などの印象を植え付けます。
この印象を与えることができれば相手の密着する戦い方にも迷いが生まれることあるかもしれませんし、もう一度距離を保った自分優位な戦術で試合を進めることができます。
そこからは相手も時折クロスグリップやインファイトを仕掛けることもありますが、腰や脇を持った自分の組手でうまく間合いを取り、さらには《大外↔︎膝車》の連携や後ろに投げる技をかけることで、主体となる技・戦略が変わっているような印象を与えることができます。
そしてこの印象が相手の脳裏に残像としてちらつくことで、同じ6段階の組手でも少し相手の姿勢や足の位置などに変化が生まれます。大外の攻撃の印象が強くなれば、相手は少し腰の引けた姿勢になったり、重心が前に来たり、右足もあまり前には出せなくなり、より正面に近い角度の体の開きになり、内股に入りやすくなる可能性が出てきます。
これはほんの小さな変化かもしれませんが、この変化が技の出来には大きな影響をもたらすものです。
長くなりましたが、このようなマクロ的な視点での技の効果のことを長期的時間軸での技の役割と僕は考えています。もちろん一つ一つの技や行動をその時々で全力で実行し意味を持たせるミクロ的視点も必要です。しかしたとえ不発に終わったとしても、その技が相手にとって何か不安や危険を覚えたりするようなアクションであれば後に大きな影響を与えます。
言葉で言うのは簡単かもしれませんが、この可能性というかマクロ的視点の前提を頭に入れていなければ、その起こりうる小さな変化に気づくことができないかもしれません。
組手・状況に序列を作った理由
長々と書きましたが、ようやくまとめの段階にいけそうです。
今回自分の柔道スタイルを考えるにあたって、自分の組手や状況というものにヒエラルキーを作った理由が、この長期的時間軸の技の役割をより明確に視覚化するためです。
短期的な時間軸でだけ、つまりミクロ的視点でしか技を見れないとまとまりや一貫性のないブツ切りな柔道になってしまい、その後の試合の組み立てに非常に苦労します。
しかしはじめに自分にとっての最高の状況というものを頭に置いて試合や乱取りをすると、そこに至るまでの全ての行動に意味や意義を見出すことができます。
このように状況ごとで変化可能でありながらも、自分の柔道に一貫性を持つ選手こそが一流なのだと僕は考えます。
後編の最後に
近年、様々な状況ごとの練習方法などが生み出され、特にヨーロッパでは広く取り入れられている気がします。状況別技練習とでも言いましょうか。これはミクロ的視点での練習方法です。
しかし先ほど述べたマクロ的な感覚のほとんどは乱取りによって得られると考えられます。というのも対戦相手やその時々で、この先起こりうる状況は常に一定ではないからです。力加減から、重心の拠り所、足の位置、体の角度、組手の位置など寸分違わずまったく同じ状況にはなるなんてことは二度とないからです。
だからこそどんな変化にも対応できるだけの経験が必要不可欠になります。そしてトップ選手達はこのことを知識としてか、感覚的にか理解し、普段の稽古から常に思考を巡らせ乱取りをしてるんだと思います。
今回で挙げたものはあくまで例としてのもので、ほんの一握りの技術や戦術です。他にも何百、何千それこそ何万と選手の数だけ試合の展開方法はあります。なのでいかに普段の稽古で様々な選手相手にどのような状況であっても自分の組手を作り、相手を投げるための無数のロジックを考え、その技術を磨いてきたのかが、その後の成長・成果に多大な影響を及ぼすのではないでしょうか。
今回も長く拙い文章ではありましたが読んでいただきありがとうございました。この記事が皆様の柔道人生を少しでも豊かにできるものであれば大変嬉しく思います。
これはあくまで僕の主観による考え方です。皆様もご意見・ご感想などあればまた書いてください。
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