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洋楽の「邦題」名作(#6)         うつろな愛 CARLY SIMON

 何かの本で、「人間は13歳から15歳の時期(日本では中学生時代)に聴いていた音楽が、一生その人の 心のメロディ になる」といった研究結果がある、と知った。
 サルまっ盛りの中学時代が1970年代初期から中期だったのは、自分にとって幸運だった としか言いようがない。
 70年代前半は、歌謡曲黄金時代であったと同時に、フォークソングブーム。さらに洋楽についても、ポップスシングルヒット路線も興隆。ロックの世界では徐々に、シングルヒットよりはアルバムを作品として評価する風潮が強まっていた。
 「ジャンルは問わずに、売れるなら何でもあり」の昭和時代。

 ラジオの音楽番組も ごった煮状態で、ジャンルにはこだわらず、リクエストハガキが来れば、どんな曲でもオンエアしてくれた。

1曲目はアグネスチャンで「ひなげしの花」
2曲目はスージークアトロ「キャンザキャン」
3曲目は吉田拓郎「旅の宿」
4曲目はレッドツェッペリン「移民の歌」
ではまた来週!バイバーイ!

 この節操のなさはどうだ! EPレコードであればなんでもOKなのか。

 大人になってからいろんな資料を調べて、「そうか、あれはプログレだったんだな」とか「あの頃はオランダのバンドが流行っていたのか」とかを振り返るようになるんだけど、当時のサル中学生にとっては、何でもアリで、気に入った曲はフォークソングでも洋楽でもポールモーリア楽団でもお構いなしで、カセットテープに録音しては、毎日聴くのが日常であった。

 カーリーサイモンについても当時は、サルにとっては何も知識が無くて、「たぶんポールサイモンの妹か親戚だろ」と勝手に推測していた始末。

 ラジオからこの曲が流れてきたとき「あー、何か不思議な曲だな。フォークみたいだしロックみたいだし。」というのが第一印象。

 静かな曲のイントロのところで、何か「サバダバー」とかつぶやいてるのも印象的だった。
 当時のサル中学生男子にとって、「サバダバー」といえば大橋巨泉および藤本義一の「11PM(イレブンピーエム)」のテーマソングである。
 
 家族が寝たのを確認してから、このテレビ番組をボリュームゼロにして、こっそり観るのが サル男子の最大のスリルであった。

この辺の話は長くなるので、また別の機会に。

 カーリーサイモンの最大のヒット曲 YOU'RE SO VAIN  もまた、邦題が日本でのヒットに少なからず寄与した と私は信じている。

 1970年代初頭はシンガーソングライターのブームであり、キャロルキングやメラニー、ジョーンバエズ、ジュディコリンズ、男性ではジェームステーラー、ドンマクリーン、キャットスティーブンス等、フォークギター(あるいはピアノ)を弾きながら自作の歌を歌うミュージシャンが人気を博していた。
 日本では五輪真弓 や りりぃ がデビューしたのもこのころ。

 カーリーサイモンも「キャロルキングに続く新星女性シンガーソングライター」として紹介されていたように記憶する。

 エレクトラレコードとしては勝負どころだったと思われます。
担当の横山さん(仮名)も気合が入っていたはず。

部長「カーリーサイモン は 第2のキャロルキング として売り出すか 
    ら、横山君、頑張ってくれ。」
横山「そうですね。外見もモデルみたいにゴージャスですし、恋多き女性
    みたいなイメージで売り出そうかな、と思います。」
部長「新しいアルバムはアメリカで結構、売れてるんだよな。」
横山「 NO SECRETS  というアルバムです。最初のシングルは ユーアー
   ソーベイン です。」
部長「ノーシークレッツ はわかりやすいから、そのままでいこう。
   シングル盤のタイトルはどうする? それほど長ったらしいことはな
   いけど、ユーアーソーベイン って言われても、みんな意味わからな
   いだろ。」
横山「そうですね、この曲をまずはヒットさせないと。あとはいろいろ話題
   性はある人なので。」
部長「じゃあ、邦題は任せたから。期待してるよ。」

ところが、歌詞の内容は結構 辛辣 なのでした。

イントロのつぶやき 「サバダバー」 は SUN OF  A GUN   つまり、「ダメ男め!」とか「へタレ!」とかいう 罵り言葉です。

 オシャレ好きの超金持ちのボンボンと一時期交際していて、あっさり捨てられた女性が、セレブとしてふるまう男の様子を覗いながら、「あんたは自惚れ屋。中身のないスカスカな奴」と吐き捨てている。
 セレブが集まるパーティに現れたり、自家用飛行機でサラトガ競馬場へ飛んで、自分がオーナーである馬を応援する。友人の奥さんと浮気。
「あんたは自惚れ屋。中身のないスカスカな奴。この歌は自分のことを歌ってるって悦に入ってるんでしょ。」

 これ全部、カーリーサイモンの実体験を歌にしている、ということで当時「この相手の男は誰なんだ」ということで話題になりました。
話題作りは成功です。

 横山さんの苦悩。

 YOU ARE ーーだから、普通に「〇〇なあなた」でいきたいけれど、VAIN  って和製英語としては馴染みがないよな。
 「自惚れ屋のあなた」 ×  リズムも語感もイマイチ
 「スカスカのあなた」 ×  シリアスな感じがしない
 
自分を捨てた男への 恨みつらみ を綴った歌詞だから「あなた」というのも変だよな。
 「オマエうぬぼれるなよ」×  ニュアンスは近いが品が無い
 「恨みます」  ×    藤圭子か?

そもそも「うぬぼれ」ってラジオDJ からしたら言いにくい発音だよな。
言いにくいタイトルの曲はかけてもらえないかも。

 翌朝、横山さんは通勤電車の中で、英和辞書を調べていました。

vain  

①無駄な、無益な (=fruitless)

②むなしい、中身のない (=empty)

③虚栄心の強い、うぬぼれの強い (=conceited)

中身がない ということは「虚ろな(うつろな)」という言葉でもいけるか。

自分は「真実の愛」をもって身をささげたのに、相手にとってはただの遊びだった。
 
「虚ろな関係」 △  これいいいかも。でも日活ポルノ映画っぽいか。
「虚ろな愛」  〇  これでどうだ!
 漢字の読みが難しいので、ここはひらがなにして

「うつろな愛」 ◎   拍手!

Carly Simon - You're So Vain - YouTube

ミックジャガーがコーラス参加しているとか、この自惚れ屋とはそのミックジャガーのことじゃないのか、とか話題には事欠かず、無事に日本でも大ヒットをかっとばしたのでした。

 この歌の内容、かなり描写が具体的なので、そのまま韓国ドラマにして、最後にこの男がどん底に落ちるエンディングにしたら, 結構流行るんじゃないか、と思うのでした。
主人公は イビョンホン でよろしく。

 





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