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洋楽の「邦題」名作(#5)    B.T.O「恋のめまい」

 アーチスト名クイズで、「Bときて、Tとくれば、次は何?」と聞かれたら99パーセントの人が「S」と答えるだろう。それが令和の常識である。
 コアなKPOPファンだと「BTOB」と答えるかも。

 ところが、私の場合、BTとくれば、次は「O」なんだな。
でも BTO って口に出してしまうと、「ビーティーオー?何ですかそれ?」と逆に質問されてしまうだろうから、そこでいちいち説明するのも面倒なんで「BTS」と答える のが大人のたしなみ、というものです。

 B.T.O とは、BACHMAN TURNER OVERDRIVE という1970年代中期に活動したカナダのロックバンド。
 AMERICAN WOMAN で有名な ゲスフー のランディバックマンが1973年に結成したストレートなロックサウンドのバンドだ。

 このころ日本で支持されていたストレートなサウンドのロックバンドといえば BAD COMPANY と GRAND FUNK RAILROAD が2強。
どちらのバンドリーダーも(ポールロジャース、マークファーナー)かつての「情念」とか「狂気」とかのネガティブなイメージからの脱却に成功して、明るいストレートなロック全開で、世間の人気を得ていた。

 そんな状況でデビューしたBTOだが、本国カナダとアメリカでは人気を博しても、日本では当初、さっぱり売れなかった。

 1970年代前半、日本で海外のアーチストがセールスを伸ばすためには、とにかく最初のシングルヒットが不可欠なのであった。

 まだまだ、洋楽の世界はシングルヒット志向が強かったのである。

 スージークアトロの「CAN THE CAN」
 バッドカンパニー の 「キャントゲットイナフ」
 クィーン の「キラークィーン」
 アリスクーパー 「スクールズアウト」

ますはシングルヒットをかまして知名度と話題性を上げておいて、そこでファンになった人たちにアルバムを買わせる戦略。

 BTO は、最初の2枚のアルバムからヒット曲を出すことはなかった。かといって、プログレッシヴバンドみたいにアルバム自体がトータルに作品として評価される、なんてこともない。
ひたすらストレートロックな楽曲が順不同で並んでいるだけのアルバム。
メッセージ性も特になし。

 おまけに、「カナダ」出身、ルックスはアピール度ほぼゼロ。

 マーキュリーレコード日本支部の当時の担当者(仮に佐川さんとしておく)も頭を抱えていたに違いない。

部長「佐川君、BTOは売れそうかね?」
佐川「いやもう、きついっす。セールスポイントが皆無ですから。」
部長「ゲスフーは日本で流行ったから、そこをもっと強調したらいいんじゃないの?」
佐川「とにかくルックス的に 若い女子にアピールしないんですよ。中途半端にグラムロックみたいなテカテカの衣装着ますしね。イギリスのスレイドが日本で売れないのと同じ感じですね。」
部長「とにかく、ヒット曲が欲しいよな。アメリカでの次のシングル予定は何なんだ?」
佐川「3枚目のアルバムがまもなくリリースなんですが、ユーエイントシーンナッシングイェット という曲です。」
部長「うーーん、それなあ。意味わからんなあ。邦題つけないとだめだな。佐川君、君に邦題はまかせるから、頑張ってくれたまえ。時間ないけど。よろしくね。今度も売れなかったら担当はずさせてもらうよ。」

佐川君の苦悩はいかばかりであったか。

 You ain't seen nothing yet   あんたはまだ何もわかっていない

 これは、魔性の女にズブズブに惚れてしまった若造に対して、魔性の女がはなつセリフです。もしかしたら夜のプロフェッショナルの方かもしれません。
 それで、体調を崩したのか(下半身の病気かも?)、精神的にやられたのか、彼は医者へいきます。
すると医者が「どんな恋でもそれは素敵な恋ですよ」と言ってくれた。

でも魔性の女は「あんたはまだ何も知らないでしょ。学校へ戻ってもっとお勉強がんばりなさい」
 要するに、もてあそばれた末に捨てられるわけね。

さてどうする。邦題。

 恋の病からドクターにかかる というのはこれまでに結構あるからなあ。
 「恋の診断書」とか。

 「残酷青年白書」 ×  怖すぎ
 「暴走チェリーボーイ」 × 下品すぎ
 
 FMラジオで曲をかけてもらうのが目的だから、「恋の○○」というのが無難だな。
 医者に行った、という歌詞があるから、〇〇に何かの診断名を入れておけばいいんじゃないか。
 そうか、「seen」という語があるからには、眼科関係の病名がいいよな。

 「恋の白内障」 × 老人ホーム内での三角関係騒ぎみたい 
 「恋の乱視」  × いちいち説明を求められそう
 「恋の目のカスミ」 × ブルーベリーが効きます
 「恋のドライアイ」 × この時代はまだPC存在しないです
 「恋の眼圧」 ×  これも説明しないといけないので面倒 
 「恋は盲目」 △  blind という語が歌詞に無いからなあ

 徹夜で考えてもいい案が出てこない。
 気が付けば朝方。ソファーから立ち上がると寝不足で頭はクラクラ。

 その時です。「あー、めまいがする。あっ、めまい はどうだ。」

 「恋のめまい」 ◎  拍手!

Bachman Turner Overdrive / You Ain't Seen Nothing Yet 「恋のめまい」 - YouTube

 さて、「恋のめまい」はFM番組でも多く流れて、けっこうなヒットになりました。サビの部分で、「べべべべべーいべ」と、 わざとどもりながら歌うのが話題になってましたね。(今の時代ではありえません)

 続けて同じアルバムからの第2弾シングル「ハイウェイをぶっ飛ばせ!」も、佐川さん絶好調! 邦題のセンスもバッチリで、スマッシュヒット。

Bachman Turner Overdrive ~ Roll On Down The Highway ~ 1974 ~ HD YouTube flv - YouTube

 佐川さんの苦労が報われたのです。

 BTO はその むさくるしいルックス ゆえに女性ファンは多くはなかったが、ロック少年には大いに支持されました。
 でもそのサウンドは早くも 次のアルバムあたりからソフト路線に変化。迷走していってしまったので、人気も徐々に尻つぼみ。

結局、レジェンドにはなれなかったB.T.O。

 AC/DC、ステイタスクォー、スレイド、ZZTOP  なんかは、何十年たっても変わらず、同じサウンドだ。
 金太郎飴の如く演奏し続ける根性と信念を兼ね備えたロックバンドのみが レジェンド の称号を手にするのですね。

 私のお勧めは 上記の2曲。「恋のめまい」と「ROLL ON DOWN THE HIGHWAY」
はっきり言って BTO は、この2曲だけで十分でございます。
 この2曲をエンドレスでくりかえしリピート再生するだけで、ドライブが快適になること間違いなしです。渋滞時には聴かない方がいいと思います。

ところで、ランディバックマンの息子さん、タルバックマン もミュージシャンです。 SHE IS SO HIGH  という素晴らしい曲があります。曲作りの才能が遺伝してますぞ。お薦めします。

Tal Bachman - She's So High (Official Video) - YouTube



 
 
 

 
  

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