見出し画像

なぜ住民票が必要なのか?

賃貸の契約も年々と契約の手続きと添付書類の簡略化が進んできました。
連帯保証人も保証会社に代替されることで印鑑登録証明の準備も不要で、収入証明の提出も省略が進んできています。
その流れで住民票も添付の省略が増えてきました。

僕はこの独居の入居者の場合は住民票をできるだけ貰っておきたいと考えています。
その理由は孤独死が起きた場合の後処理にあります。
家賃滞納があっても今どきは保証会社がなんとかしてくれます。

が、保証会社によりますが、亡くなるまでの家賃は保証しますが賃貸借契約を合法的に終わらせる為の手続きまでは至りません。
相続人を手繰り寄せ、相続人から解約を取り付けるか全員の相続放棄まで追いかけるか、、どこまでやるのかは賃貸人と管理会社によることでしょう。。

相続の一般的な相続人確定の作業は次の通りです。

1.死亡届の提出
2.住民票の除票に記載の本籍地で最後の戸籍を取る
3.最後の戸籍から出生まで戸籍を遡って取得する
4.取得した戸籍から相続人を見つけ、相続人の現在までの戸籍と住民票を取得する

4の作業で相続人が確定します。

人は残念ながらいつか亡くなります。それは僕も、この記事を読んでいるあなたもそうです。貸室内・貸室外を問わず、独居の方で親族と疎遠で緊急連絡先も知人だった場合どうなるでしょうか。

まず、死亡届を誰が出すのか!?問題が起きます。
死亡届の届出人欄を見てみましょう。

死亡届の「届出人」の欄

9〜13はさておいておきますが、1〜3は"独居&親族と疎遠"の方の場合は当てはまりません。つまり

4.家主
5.地主
6.家屋管理人
7.土地管理人
8.公設所の長

この5つの中の誰かが死亡届を出すこととなります。
この中の"8.公設所の長"は公立の病院や警察署が考えられます。
具合が悪くなり、公立の病院で息を引き取ったとなれば、その病院長が死亡届を出すことが可能です。
"6.家屋管理人"には私立の病院も含まれますので出すことも可能です。
が、6の"家屋管理人としての私立の病院"に拒まれた時には4~7のいわゆる「大家さんか不動産管理会社」となることでしょう。

さて、もう一度この書式を見てみましょう。

賃借人とはいえ他人の死亡届を出すのに、届出人の本籍地と署名が必要になります。しかも管理会社の場合は代表取締役本人の住所と本籍の記載です。
なかなかにハードルが高い話です。

というわけで、以前に警察曰く「親族に死亡届の提出を断られてしまった」人のケースでは、病院も届け出を拒み、当社に鉢が回って来ましたが当社も断りました。
管理会社として断ったものを大家さんにお願いできる神経の図太さはありません。
結論どうしたかというと、市区町村の長に死亡届を出していただくこととなりました。ここまであ~だこ~だやっている期間は2ヶ月ほど。

死亡届が速やかに提出されないとどうなるかというと、戸籍上はまだ存命なのです。

警察は民事不介入なので、相続人へ初回は繋ぎを試みてはくれますが、拒まれてしまったら手を引きます。
警察を介さずに相続人とやり取りをするには相続人の調査が必要となります。

ここから住民票(本籍記載)がないことからの不都合が生じます。
まず、故人が住民票をどこに置いているのか?
これは住民票の提出がされていなければ分かりません。
更新手続きなどで運転免許証を提出させていて、賃貸物件と住所同一なら分かりますが。

相続人の調査は戸籍調査です。最終の戸籍から出生まで遡り、そこから相続人を見つけて、相続人が存命でどこにいるのかを戸籍謄本(最後は住民票)で追いかけます。このスタートになるのが亡くなったご本人の戸籍の取得です。

家主・管理会社は亡くなった本人から見て第三者になります。
第三者が戸籍を自由に取得できたら大問題ですので、その請求は次のように決められています。

住民票や戸籍の証明の第三者請求について
法人等の第三者が住民票や戸籍の証明を交付請求できるのは、住民基本台帳法第12条の3第1項及び戸籍法第10条の2第1項に基づき、以下の場合となります。自己の権利を行使し、又は自己の義務を実施するために住民票の記載事項を確認する必要がある場合
国又は地方公共団体の機関に提出する必要がある場合
その他、住民票の記載事項を利用する正当な理由がある場合

住民基本台帳法第12条の3第1項の正当な理由にあたるものの例
債権者が債権回収のために債務者本人の住民票を請求する場合
生命保険会社が生命保険金の支払いのために所在のわからない契約者の住民票を請求する場合

戸籍法第10条の2第1項の正当な理由にあたるものの例
公証役場で遺言書を作成するにあたり、相続人に指定する兄弟の戸籍謄本を提出する必要がある場合
生命保険会社が保険金受取人である法定相続人の特定のために請求する場合

東京都豊島区総合窓口証明課グループ

まず、僕の実例でつまずいたのは"戸籍法第10条の2第1項"を根拠とした請求です。戸籍上は存命なので相続人の特定の為に必要と言っても、役所は相続手続きを理由には請求に応じません。

次に"住民基本台帳法第12条の3第1項"を根拠に請求しようとしましたが、滞納もないので"自己の権利を行使し、又は自己の義務を履行するため"と言っても理由がない。相続人調査の為と言っても「それなら死亡届出してくださいよ」と言われてしまい、堂々巡りに。。
結局、死亡届を誰が出すのか問題に舞い戻り、役所の重い腰が上がるのを待ちました。

そして、一番気の毒なのがご遺体です。
人を葬るには火葬許可証が必要です。生きている人を火葬することはあり得ませんから、死亡届と同時(か、その後)に手続きをして許可を得ます。
まず死亡届ありきなのです。

このケースの場合、何が起きたかというと2ヶ月間ご遺体は葬儀会社の遺体安置施設でずっと冷蔵されていました。。

当社ないし家主が死亡届を出せば済む話ではありましたが、除籍謄本に届出人は残りますから気軽に出せるものではありません。
ちなみに死亡届の届出人を規定した戸籍法第87条には次のように記載されています。

第八十七条 次の者は、その順序に従つて、死亡の届出をしなければならない。ただし、順序にかかわらず届出をすることができる。
第一 同居の親族
第二 その他の同居者
第三 家主、地主又は家屋若しくは土地の管理人
2 死亡の届出は、同居の親族以外の親族、後見人、保佐人、補助人、任意後見人及び任意後見受任者も、これをすることができる。

e-GOV 法令検索 戸籍法

これを見て「なんだ親族には義務があるんだから親族に出させればいいじゃない」と思った人は不動産仲介・管理会社で働くセンスがないのでそっと画面を閉じてください。
世の中には「法律でこうなっています」と説明をしたところで「だから何?これ以上、何を言われても困ります」と全く話にならない人が多々いるのです。
特に、親族と疎遠になっている独居の人の時点で察しなければなりません。

さて、話が長くなりましたが最初から本籍地を掴んでいれば、戸籍謄本の申請もしやすくなり相続人探しがスムーズなるのです。
(本当は死亡届をさっさと出せばいいんだけど)

相続人を探したら、死亡届を出していただくことと、相続放棄をするのか否かの意思を確認し、相続放棄をするのならばさっさとやってもらい、相続放棄受理通知書の写しの提出くらいまでは付き合って貰いましょう。
この先は別途賃貸借契約の終わらせ方の話になりますので割愛します。

というわけで、僕の「なぜ住民票(本籍記載)が必要なのか論」は以上となります。
法律の専門家ではありませんので、多少の間違いがありましらそっとご指摘いただければと思います。
また、市区町村によって窓口の応対が異なる場合は多分にしてあります。
この内容は参考程度にしていただければ幸いです。
長文となりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。

いいなと思ったら応援しよう!