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ふとしたときに、いつも思い出すあの貼り紙のこと。

生きていれば、色んなことがある。嬉しいこともあれば、悲しいこともある。そのどちらかが続くと、ちょっぴり不安になったりもする。そんなことを繰り返して、あっという間に日々は過ぎていく。

その道の途中、ふとしたときに、いつも思い出す貼り紙がある。
それは、数年前の夏に訪れた温泉旅館の廊下に貼ってあった。

「○○温泉で働いてみませんか? 従業員、アルバイト大募集!!」

創英角ポップ体で書かれたこの文字を、わたしははっきりと思い出すことができる。その見出しの下には、外国人と一緒に働くことになるからよい交流になるということ、英会話やその他の言語も教室を開くので無料で勉強できるということ、たくさんの友人が作れること、旅館の機材を使って音楽の練習・更には披露する機会があること、自然がいっぱいの場所なので健康の回復になること、もちろん温泉に入り放題なこと、住居費・食費・光熱費などは全て会社が負担すること、個人的な問題を抱えていてもカウンセラーに相談できること……とにかくたくさんのことが書かれていた。友人と訪れていたわたしも思わず笑ってしまうくらい、お節介なくらい、ぎっしりと書かれた文字たち。一般的な求人とはまったく違う、まるで "なにかある" 人に向けて書かれているようだった。

わたしはそれをiPhoneに収めた。今すぐ働きたいと思ったわけではなかったが、どこかでお守りのようにその貼り紙の写真を撮った。そのときは半分笑っていた気もするけれど、もう半分は本気だった。「なにかあったらここに来よう」と強く思ったのだ。

あれから数年が経ち、わたしは再びあの旅館を訪れてはいないけれど、数ヶ月に1回は、このことを思い出しては生活を送っている。うまくいかないなぁ、なんでこうなるかなぁ、そうじゃないのになぁ、なんて考える度に、いやいや、まだまだこんなものじゃないだろうと自分を奮い立たせては、大丈夫、何かあったら、あの貼り紙のところに連絡すればいい。仕事を舐めているような、とても失礼な発言なのかもしれないが、そう思いながら戦ってきた。

大丈夫、○○温泉がついてる。

いつからか、自然にこう考えるようになった。その存在のおかげで、今のわたしはいくらか強くなることができている。この感謝を伝える為にも、またあの宿を訪れたいと思う。あのときは一番安いプランで泊まったからか、さながら林間学校のような部屋だったけれど、次は少し違うお部屋に泊まれるだろうか。否、泊まるのだ。

最後になりますが、この宿は本当に泉質が素晴らしかった。硫黄の匂いが大好きな人に大変オススメしますが、この宿がどこなのかは、ご想像にお任せすることにしますね。

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