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#1 シャイガール、本屋でお取り寄せをする。
本屋好きの小学生
小学生の頃、本屋さんに通うのが大好きだった。
読みたい文庫本を探しては、お小遣いの残金とにらめっこしながら計画を立てる。お小遣いが貯まったら「次はこれを読もう」と目星をつけるのだ。
5〜600円の文庫本でさえ、小学生にとっては高価なもの。お金が貯まるまで、頭の中でその本をロックオンする日々。
そしてついに貯金が貯まり、財布を握りしめて本屋さんへ!
しかし‥
ロックオンした本が…ない!
悩めるシャイガール
僕はマイナーな本が大好きな子どもだったので、常に本屋さんで目立つような本ではなく、出版されてから数か月で店頭から消えてしまうような本を好んでいた。そのため、読みたいと目星を付けても、いざ買えるタイミングにはもう置いていないことが多かった。
「店員さんに在庫を聞きたい…!」
けれど、シャイガールはここで10分ほどモジモジする。
文庫の棚と、レジ付近とを何度も行き来する。
10分後。
「ザ…ザザザ…在庫を…ササ…探してほしいのですが…」
「著者名や題名をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
超優しい店員さんの一言で、少しだけ肩の力が抜ける。
作者やタイトル、出版社の情報はしっかり覚えているので、初動以降は案外スムーズに話せた。話し終えると店員さんは「在庫を探してきますね」と言ってバックヤードへ向かう。
「在庫もありませんでした。」
悩めるシャイガール2
もちろん、在庫があってそのままお会計ということも少なくなかったけれど、ないことも多かった。
「お取り寄せもできますが、どうされますか?」
「いえ…大丈夫です…」
まだまだ自意識過剰な小学生。店員さんはとても優しかったが、気後れしてしまった。
今なら何の戸惑いもなく「お願いします!」と言えるけれど、自意識過剰な僕は、「こんな私の文庫本一冊のために、お取り寄せなんてお願いしていいのだろうか…」と、申し訳なさを感じていた。
そんな自分のためだけに世界動いてないから安心しな、若かりし僕よ。
そして、文庫本の棚に戻り、再び悶々とする。多分30分は悶々としていただろう。
だって、その本を買う気満々で本屋さんに来たのだから。時間と共に、どうしてもその本を手にしたいという気持ちがどんどん膨らむ。
(やっぱりどうしても欲しい…今からまた店員さんにお取り寄せを頼もう…でもさっき断ったばかり…さっき言えよって思われる…なんであの時お取り寄せをお願いしなかったんだ…バカバカバカバカ!日を改めて取り寄せの申し込みに来るべきか…?でも早く欲しい…!)
頭の中はこんな具合。脳内ウィーン会議も夢ではない。
いざ、お取り寄せ
そして30分後。
「オオオ…お取り寄せを…お願いしたいのですが…」
欲求には勝てなかった。
必要事項を紙に書く。
「◯日後に届きますので、またお受け取りにお越しくださいね」と控えを渡しながら優しく教えてくれる店員さん。お取り寄せを担当してくれた店員さんと、在庫を聞いた店員さんが同じ方だったかどうかは、今となっては覚えていないけれど、通っていた本屋の店員さんがみんな優しかったことはしっかり覚えている。
それから数日間、控えを眺めながら喉から手が出るほど欲しかった本を待つ。この時の気持ちは、今でも忘れられない。実はその本を発見したのは幻で、この控えを持っている状況も夢なのかもしれない。目が覚めて、なーんだ、やっぱりあの本はなかったんだ、と落胆するかもしれない。半信半疑。
そんなフワフワした気持ち。数日が、数ヶ月に感じるこの感覚。
そしてついに本を受け取れる当日、控えと財布を握りしめて本屋へ向かう。
現物が目の前に現れた瞬間の感動。
(そう!この表紙!!やっぱり存在してた!!)
頑張って店員さんに在庫を聞いて、取り寄せをお願いして、届くまで待って、やっと手に入れた本。この体験と感動は、今でも忘れられない大切な思い出。
逆タイパ
今では、本屋さんに置いていない本はネットで簡単に探せて、すぐにポチれば翌日には届く時代。
ケータイもまだ持っていなかったあの頃。通販なんて自分の力ではできなかった。読みたい本の情報を得るために、本屋さんへ行って新刊コーナーをまずチェック。それから贔屓にしていた角川文庫の棚をくまなく探して、さらには買えはしないけれど単行本の棚を眺めて、いずれ文庫化される作品を先にチェックしておく。
なんでも簡単に手に入る今という時代。そして、大人になった今。あの頃の本屋さんでの体験は、もうできないのだろうなぁ、とふと思い返す。
小噺
何度かお取り寄せは経験したので、この大冒険のような思いをして手に入れた本はかどうかも定かではないけど、
取り寄せて手に入れて感動して何度も何度も読み直した思い入れのある本を紹介しておく。
伴名練 『少女禁区』
今では中々手に入らない代物のようだ。
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