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#4 恵方巻きが歯に挟まった
今年の節分は2月2日。
毎年恵方巻きを食べながら、必ず考えてしまうことを、つらつらと書き連ねておこうと思う。
恵方巻きは、食べ終わるまでしゃべってはいけないとされているが、最後のご飯の塊を飲み込んだ後、米粒が歯に挟まっている状態は、食べ終わったとみなしていいのか。それともまだ「食事中」と認定されるのか。しゃべったらアウトなのか。
そもそも、食べている間にしゃべってしまったら、「幸運が来ない」だけなのか、それとも「悪運が来る」のか。プラスがゼロになるだけならまだいいが、マイナスになるとしたらかなり状況が変わってくる。
仮に米粒が歯に挟まっている間は食べている途中認定だとして、そしてさらに恵方巻きを食べている間にしゃべると“悪運がくる”としたら、これは相当シビアなイベントである。
もしも「歯に米粒が挟まっている間はまだ食事中」だとすると、食べ終わって歯磨きをするまでしゃべれないのか。
そして、歯磨きをしている最中に違う方角を向いてしまったら、恵方巻きイベントから脱落したとみなされるのか。
だったら、恵方巻きを食べる前に歯磨きセットもスタンバイしておくべきなのか。
さらに、歯磨きで米粒が取れたとして、その米粒の残骸は「食べた」ことにして良いのか。
もしも排水溝ネットに流れてしまったら、その年の幸運は諦めるしかないのか。
そうなると、もはや「米粒を歯に詰まらせずに食べるゲーム」だ。
食べる方角は今年は西南西だったけれど、何度くらいの誤差まで許されるのか。
誤差が大きいと幸運が来ないだけなのか、それとも悪運が来てしまうのか。
方角を向くというのは、身体を向けることなのか、顔だけ向けていればいいのか、それとも両方か。
今ここで首を90度捻ったら、方角から逸れた認定を受けるのか。
それだと一緒に食べている友人や家族と、微笑み合うこともできない。
気になることはまだある。
くしゃみで出た声はセーフなのか。
恵方巻きを食べている間に、お吸い物や他のおかずを挟んでもいいのか。
小さい頃、市販の恵方巻き一本というサイズは食べ切るには少し大変で、あらかじめ半分に切ってもらっていたけれど、それは大丈夫だったのか。途中断念したとみなされてはいないか。
そもそも、恵方巻きはどういうルーツで生まれたのか。
一本を食べきろうとして途中で断念するのは意志が弱いとみなされて悪運がやってくるが、はじめから「自分にとってちょうど良い半分サイズ」を目標にし、それを喋らずに食べきるというルールを設定したなら、神様もきっと許してくれるはずだ。
幼き僕は、そう自分に言い聞かせながら、黙々と恵方巻きを食べていた。