名前が知られていないけど美味しい魚 その4 オヒョウ
魚には「エンガワ」と呼ばれる部位があります。
背ビレや尾ビレの付け根にある帯状の筋肉のことです。
とくにヒラメやカレイのような側扁形の魚に発達しています。
日本家屋の「縁側」に形状が似ているので名づけられました。
魚のヒレを動かす筋肉の部分ですから身が締まっています。
コリコリした食感と適度に脂の乗った旨みが魅力です。
エンガワは握り寿司でも人気のネタです。
緑の大葉に純白のエンガワは鮮やかに映えます。
ひと炙りすると脂の旨みが活性化されて美味しくなります。
軍艦に乗せて小ネギを散らしても美味しくなります。
こんなにも美味しいエンガワなのですが、残念なことに
一匹の魚から取れるエンガワは限られています。
いっそ巨大なエンガワを持つ魚がいればいいなと思いますが、
それがいるのです。「オヒョウ」という魚がそうです。
オヒョウは体長2メートルを超えることもある巨大な魚です。
北極海やオホーツク海などの冷たい海域に棲息しています。
漢字では「大鮃」と書きます。大きなヒラメという意味です。
しかしオヒョウはヒラメではありません。カレイの仲間です。
「左ヒラメに右カレイ」の通り右側に両目が寄っています。
通常のカレイの体長の数倍から十数倍の大きさですから、
もちろんエンガワの部分もたっぷりあります。
何人前でもエンガワの握り寿司を作ることができます。
エンガワ好きにとってありがたい魚です。
オヒョウは、回転寿司のエンガワによく使われるそうですが、
エンガワに使われるのはオヒョウだけではありません。
じつは「アブラガレイ」や「カラスガレイ」も活躍しています。
味の違いはあまりないと言われています。
こうした魚たちが使われるときは、なぜか名前が示されません。
単に「エンガワ」とだけ称されます。
ときどきエンガワという名前の魚かと勘違いされることもあります。
何ともかわいそうな魚たちです。
一方、ヒラメを使うときは「ヒラメのエンガワ」と表記されます。
やはり魚の格が違うのでしょうか。
オヒョウはヒラメに比べるとたいへん庶民的な食材です。
エンガワだけでなく、切り身やフィレでも売られています。
さすがに豊洲市場のような大きな魚市場でもない限り、
オヒョウが丸ごと売られるということはありませんが。
オヒョウの調理方法は他のカレイとあまり変わりません。
やはり煮付けにするのが無難なところです。
ただし、オヒョウは他のカレイに比べると大味です。
やや濃い目の味付けが必要です。
欧米では、ムニエルやソテーやフライにするのが一般的だそうです。
イギリス名物「フィッシュ・アンド・チップス」にも使われます。
むしろバターをたっぷり利かせたり、タルタルソースを使うのであれば
大味の方が好まれるのかもしれません。
ところで、なぜオヒョウは巨大に成長するのでしょうか。
それは長寿だからです。100年以上生きることも珍しくないそうです。
長生きするということは、それだけ成長の速度が遅いということです。
平均すると1年でわずか数センチメートルしか成長しません。
ですから、養殖にはまったく向いていません。
自然の海の環境の中でのびのび育つのを待つしかありません。
逆に言えば、自然の海の環境を守らなければなりません。
しかし、ヒラメやカレイの大敵はIUUです。
違法、無報告、無規制の漁業のことです。
法律を無視して密漁したり、漁獲量について虚偽の報告をしたり、
船籍を明らかにせずに規制を逃れる漁業が横行しています。
ヒラメやカレイは、サケやマスと同じくらい被害に遭っています。
将来的にまったく獲れなくなってしまうかもしれません。
無責任な漁業のために海の豊かさが脅かされているのです。
成長の遅いオヒョウであればなおさら深刻です。
これからも持続的に美味しいエンガワが食べられるように
消費者もIUUに関心を持っていかなければなりません。
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