
食べ物の恨みは恐ろしい歴史の話 その1
焼き魚につけ合わせる生姜のことを「はじかみ」といいます。
芽生姜や葉生姜の甘酢漬けのことです。
鮮やかな赤い色が美しく、料理に彩りを添えます。
さっぱりと魚料理を食べることができます。
「はじかみ」の語源は、端っこが赤いので「端赤み」とも、
端っこだけ噛むので「端噛み」ともいわれています。
第12代将軍徳川家慶公は、「はじかみ」が大好物でした。
父の家斉公も大好物でしたから、どうやら遺伝のようです。
ところが、ある日「はじかみ」が御膳から姿を消しました。
その理由は、水野忠邦の「天保の改革」のせいです。
乱れた江戸の風紀を取り締まり、幕府の財政を立て直すために、
水野忠邦は厳しい「贅沢禁止令」を発しました。
「はじかみ」も贅沢品と見なされ、栽培が禁止されてしまいました。
家慶公は大好物が食べられなくなり、がっかりしてしまいました。
根生姜は薬用にも有用な必需品ですが、芽生姜や葉生姜は、
どちらかというと贅沢な嗜好品と考えられたようです。
もともと家慶公は、45歳という高齢で将軍職を継いだために、
あまり政治に熱心ではありませんでした。
先代の第11代家斉公が50年にもわたって将軍の座にあり、
しかも隠居後も「大御所」として実権を握っていました。
家慶公は、老中の助言や提案に意見を述べることなく、
「そうせい」という返答を繰り返すばかりでした。
そのため「そうせい公方」というあだ名がつけられました。
「はじかみ」がなくても文句さえ言えなかったのです。
ところが、あまりにも厳しく江戸の庶民を弾圧したために、
激しい反発を買い「天保の改革」は失敗に終わりました。
水野忠邦は失脚して、老中職を解かれました。
おかげで、江戸の庶民の生活は元に戻りました。
一説によると、家慶公が「はじかみ」を食べたいあまりに
水野忠邦を解任したともいわれています。
食べ物の恨みは恐ろしいものです。