セルフパロディ 「わたしと隣の和菓子さま」
2022年6月富士見L文庫さま(KADOKAWA)より
「わたしと隣の和菓子さま」を発売していただきました。
どんな本? とご興味を持たれた方は、書籍名をクリックしていただくと、Amazonさんにとびます。
多くのレビュー感謝します!
話は戻り、書籍の発売を記念して、去年、セルフパロディを書きました。
X(旧ツイッター)に掲載していましたが、仕様がかわり、ご覧になれない方がいるので、noteさんに掲載します。
今回の記事の内容は、そんな感じです。
◆◆◆
もしもの世界
設定)
柏木慶子さんと鈴木学君は、同じ大学に通う同級生。
鈴木君は「和菓子屋 寿々喜」の跡取り息子。
慶子さんはアルバイトをしていない大学生。
はじまり、はじまり~
◆◆◆
大学の授業が終わるのを待って、慶子さんは鈴木君が待つ図書館へと向かった。
デパートで行われている和菓子のイベントへ一緒に行く約束をしていたのだ。
本当は、福地裕也君も来る予定だったのだけれど、急用ができたと山路茜さんから伝えられた。
「邪魔者はいないから、安心して楽しんできてね」
山路さんは慶子さんに手を振りながら「まったく、福地はなにを考えているんだか」とぼそりと言った。
慶子さんは、大学の校舎の一番端にある、レンガ造りの図書館へ足を踏み入れた。
館内は、ひんやりとした空気と古い本の独特の匂いがした。
本好きの慶子さんにはたまらない場所なのだけれど、活動的な山路さんは「なんか苦手」と言う。
鈴木君は入口そばの雑誌のコーナーにいた。
後ろ姿でもわかる彼に近づき「すず――」と呼びかけようとしたところで、慶子さんは慌てて口を閉じた。
手にある雑誌のページは開いたまま、鈴木君は眠っていたのだ。
高校を卒業したあと、彼は実家の和菓子屋で菓子作りの勉強を始めたそうだ。
大学との二足のわらじは、悩んだ末の結論だったらしい。
朝から晩まで。
「一日が四十八時間あればな」
慶子さんが「体は大丈夫なんですか?」と聞いたとき、そんな答えが返ってきた。
今日の和菓子のイベントに鈴木君を誘ったのは、慶子さんだった。
正確には、鈴木君だけではなく高校の元剣道部の仲間だ。
鈴木君に山路さん。福地君、北村君。
そこで、鈴木君と福地君が一緒に行くと言ってくれたのだ。
けれど、よく考えれば。
アルバイトもせずに学生生活だけを送っている慶子さんと、大学に通いつつも和菓子の勉強を始めた鈴木君では、生活のリズムが違うのだ。
和菓子のイベントがあるのを新聞で知り、嬉してついつい誘ってしまったけれど。
本当は迷惑だったのかもしれない。
でも、彼はとてもやさしいから、そんなこと言えずに、慶子さんに付き合ってくれたのだ。
きっと、そうなのだ――。
「――さん」
……。
今、名まえを呼ばれた?
慶子さんは、ぱっと目を開けた。
すると、なんと至近距離に鈴木君の端正なお顔が。
「え? わたし、もしかして」
「うん。寝てた。『もう、食べられません』って寝言も言ってた」
なんてことを!
立ち直れないと、慶子さんは涙目になる。
「嘘だよ」
「嘘っ??」
「うん。すーすーと気持ちよさそうに寝てた。どうしようかと迷ったけど、イベントに行きたいだろうなと思ってさ」
「もちろんです」
慶子さんはさっと立ち上がった。
「寝ていたのぼくが先だしね。ごめんね」
「毎日お疲れですよね」
「あぁ、そうだけど。でも。今回は少し得したかも」
「そうなんですか?」
得したのならいいのかな?
鈴木君がにこりと笑うので、慶子さんもつられてにこりと笑った。
その翌日。
慶子さんは山路さんに会うなり彼女に腕をひっぱられ、廊下へと連れ出される。
「昨日、鈴木と柏木さんが、仲良く頭をこっつんさせながら図書館のソファで眠っていたって聞いたけど、ほんと?」
「……えっ」
慶子さんはその日一日、高校時代のクラスメイトや元剣道部の仲間に「頭こっつん」と言われ続けた。
(おしまい)
最後までありがとうございました~
「わたしと隣の和菓子さま」
ただいま、発売中です!
とてもかわいいイラストは、pon-marshさま。
ドラマ化された「婚活食堂」をはじめ多くの作品の表紙を担当される実力派イラストレーター様です。
表紙のイラストのすみずみまで、とても繊細に描いていただき、感謝しています。
どうぞ、よろしくお願いします!