400字で分かる落語「一杯のかけそば」
「い」の64:一杯のかけそば(いっぱいのかけそば)
【粗筋】 大晦日の蕎麦屋、小学生の兄弟を連れた母親が、一番安い掛け蕎麦一杯だけを注文した。主人が蕎麦を半人前多くしてやったが、これを子供が半分ずつ食べた。毎年続いたが、4年目に注文が2杯になった。父が事故死し、借金を返していたことを知る。弟の書いた作文がコンクールに入選したと言う。それきり親子は来ないが、絆を大切にしようと親子の席は空席にしている。そこへ、10年振りに親子が現れた。兄が医者になって帰郷して来たのだ。「かけを3つお願いします」「はい、かけ3ちょう」
「あ、おじさん、蕎麦の玉は1人前で結構です」
【成立】 栗良平の作品を小佐田定雄が脚色し、桂文枝(6)の第74作目として平成元(1989)年に初演した。数年後、原作が創作だと分かると熱が冷め、実話だから価値があるのだという訳の分からない人々によって、作家ではなく嘘つきにされてしまう。日本の読者のレベルの低さが露呈した。今でも時代劇で事実と違うと投書する人が多い。
最後の台詞が落ちとして加わったのは、書いた物と話芸の違いが感じられて面白い。
映画になったが、私は二度と見ない。