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400字で分かる落語「江戸の夢」
「え」の25:江戸の夢(えどのゆめ)
【粗筋】 庄屋・武兵衛の娘・お照が、藤七と結婚したいと言い出した。藤七は働き者ではあるが、素性も分からず、浮浪者のように流れ着いたのを拾った男。母親は猛反対だが、父親は「あの男の礼儀正しさはよほどの家で育っている」と説得して結婚させる。
藤七は後を継いでも真面目でお照を大事にするので、母親も安心、後を任せて隠居すると、夫婦で江戸見物に行くことにする。これを聞いた藤七は庭に茶の木を植えて手入れを始め、葉茶屋に奉公したことがあると告白する。江戸に行ったら浅草の奈良屋という茶屋で、自分が作った茶を鑑定してもらいたいと依頼する。
年寄り夫婦には江戸の町は落ち着けず、予定を早めて帰ることにし、婿の依頼を思い出して浅草の奈良屋へ行き、そのまま帰ることにする。店に行くと主人の宗味が二人を奥へ招き、持って来た茶を入れて、婿について尋ねる。酒は一滴も飲まぬと聞いて安心し、茶の挽き方が奈良屋独特のものだと言う。奈良屋の息子は6年前に酒がもとで事件を起こして死んだ。酒を飲まぬそちらの婿がこの息子であるはずがないと言って、茶を褒め、送り出す。表に出た夫婦、「日頃の言葉遣い、行儀正しいのも……あの茶人の子なんだろうね」「うん……氏(宇治)は争えんものだ」
【成立】 宇野信夫の創作で、昭和15(1940)年に歌舞伎座で上演された。菊五郎(6)が婿と宗匠の二役で、吉右衛門(1)が地主で、茶の心得がないので宗匠の真似をして飲むのが評判になった。昭和42年に作者自身が落語に改訂し、11月16日三遊亭円生(6)が演じた。随所に茶を飲む場面があって、種類によって飲み方が違うのも面白い。初演の時は落ちがなく、茶屋を出た女房が夫に呼びかけるが、「何も言う名」と止められ、店の方にお辞儀をして退場する。アナウンサーが「おらくの心で退場しました」と説明して喝采が怒った。その後円生が落ちを付けたが、説明が長くなるので省略。