400字で分かる落語「入れ札」
112:入れ札(いれふだ)
【粗筋】 悪代官を斬って赤城山に籠った国定忠治、「赤城の山も今宵を限り、生まれ故郷の国貞村や、縄張りを捨て国を捨て、可愛い子分の手前たちとも、別れ別れになる首途(かどで)だ」と子分と別れて赤城山を離れることにした。
全員が一緒に行きたがるが、子分同士で入れ札をして3人だけを連れて行くことにする。一番古い九郎助だが、人望はない。結局1票しか入らなかった。弥助が怒って、「兄ぃに入れたのが俺一人とは情けねえ」と言う。こいつ叩っ斬ろうと思った……九郎蔵、自分で自分の名を書いたのだ。これを見抜いたのか、忠治親分がこの札を渡して、「これは俺からの入れ札だ」と言ってくれた。
話し終えた九郎蔵は、これから名乗って出ると言う。話を聞いていた女が、死刑になるからやめろと言うが、
「親分は地獄への長旅だ。それを守るのは、入れ札をもらった俺だけだ」
【成立】 菊池寛の同名の小説を、春風亭小朝が噺に仕立てた。原作は弥助を斬るのを我慢して暗澹たる気持ちで終わる。後の入れ札が効いている。最初の名台詞は行友李風の『極付国定忠次』にあるもので、私が勝手に入れたことをお断りしておく。