【物語の現場031】キービジュアル・狩野隨川岑信筆「菊慈童図」(絵画紹介)
「狩野岑信」の第二十九章で、主人公・狩野吉之助が「隨川岑信」という筆名を使うに至る経緯を書きました。
物語上、吉之助は、御前様・近衛熙子の注文で菊慈童を描きます。ここで紹介するのは、そのモデルとした作品。本作の書影画像としても使っています。
狩野隨川岑信筆「菊慈童図」(絹本・着色、自己所蔵)
岑信の絵師としての評価は、父親の常信などと比べ、正直、低いです。しかし、この作品を見れば、確かな技術を持っていたことが分かります。さらに、ひときわ上品で美しい菊慈童の表情を見ると、この画を描いた背景やその時の心情を想像したくなります。
一方、彼の他の作品もそうですが、筆致や構図については、よく言えば基本に忠実、悪く言えば独創性の欠片もない。彼の描く画はなぜそうなのか。彼は何を目指していたのか。この物語は、そうした疑問を持ったことから始まっています。