【前書き・物語の概要と登場人物】融女寛好 腹切り融川の後始末(歴史小説)
前書き
◆ 物語の概要
江戸後期の文化八年(一八一一年)、幕府奥絵師が急死する。悲報を受けた若き天才女絵師が、根結いの垂髪を揺らして江戸の町を駆け抜ける。彼女は、事件の謎を解き、恩師の名誉と一門の将来を守ることが出来るのか。
「良工の手段、俗目の知るところにあらず」
師が遺したこの言葉の真の意味は?
これは、男社会の江戸画壇にあって、百人を超す門弟を持ち、今にも残る堂々たる足跡を残した実在の女絵師の若き日の物語。
◆ 主要登場人物の紹介
小杉栄(こすぎ・えい)
本作の主人公。非凡な才能を持つ女絵師、十九歳。幕府奥絵師・狩野融川の弟子。父親は旗本高井家の家臣。「融女寛好」は、彼女が後年用いた筆名。
狩野融川寛信(かのう・ゆうせん・ひろのぶ)
栄の絵画の師、三十七歳。江戸画壇を支配する狩野派奥絵師四家の一角・浜町狩野家の第五代当主。二十二歳で奥絵師となった俊英。将軍の命で朝鮮国王に贈る屏風制作に当たり、渾身の力作を描き上げた。
狩野素川章信(かのう・そせん・あきのぶ)
融川の友人、四十七歳。表絵師・浅草猿野町代地狩野家の隠居。宮仕えを嫌い、三十代半ばで隠居し、その後は妓楼に入り浸りという変人。しかし、絵師としての腕は抜群。
阿部備中守正精(あべ・びっちゅうのかみ・まさきよ)
譜代の名門・備後福山藩の第五代藩主、三十七歳。将軍家斉の側近。幕府内の派閥争いの渦中にある。絵画にも造詣の深い自信家。
狩野伊川栄信(かのう・いせん・ながのぶ)
木挽町狩野家の第八代当主、三十七歳。奥絵師にして御用絵師筆頭。今回の贈呈屏風制作の頭取を務める。後期狩野派を代表する名手。世間では人格面の評価も高い。
板谷桂意(いたや・けいい)
栄の絵画の最初の師、五十三歳。融川や伊川と同じく幕府奥絵師を務める。大和絵系の住吉派から分かれた板谷派二代目。
町田昌豊(まちだ・まさとよ)
融川及び素川の知己。杉田玄白門下の蘭方医、二十四歳。話の分かる好青年。近江堅田藩の所属だが、ほぼ幽霊藩士。
狩野歌子(かのう・うたこ)
浜町狩野家の奥様、三十一歳。実家は高級旗本。夫・融川との仲は良好。二人の男子にも恵まれ、何不自由なく幸せに暮らしていた。
長谷川春長(はせがわ・はるなが)
浜町狩野家の家老、五十二歳。先代・閑川昆信の弟子。真面目で事務処理能力は高いが、危機対応には不慣れ。
こま(こま)
栄の妹弟子、十七歳。浜町狩野家出入りの扇屋の跡取り娘。明るいしっかり者。変事に際し、世間知らずの奥様・歌子を支える。
大久保志津(おおくぼ・しづ)
栄が尊敬する姉弟子。高級旗本・大久保家の奥様、二十八歳。結婚後も絵画の稽古を続け、融川から一字拝領を受ける腕前。
◆ 本作共通のキャッチ画像: 狩野章信筆「梅雀図」(自己所蔵)
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