独りぽっちの龍(詩)
貴男を見たよずっとずっと居たのね
そこに、
でも私は一度も知らなかった、
見なかった、
考えもしなかった、
でも貴男はずっとそこにいたのね
無い天を睨み見つめるその瞳の先に見えたの、
無いものが在るのを
有限無限、それすら見失った大地の底知れなさと生きたいと叫び、その窄(せま)き夢見る人の声を、貴男はただただ聴いていた、
そして見守っていた
だってその肉体は今や無いから…
もう無いのに、
あぁ無いのに、
無いはずなのに、
いつか翠の龍は蘇る
碧い龍は空を睨み涙すら慰謝となり微笑みを惑わしその彼方へと投げ出す鐘の音(ね)…
昔信じていた神様の棲まうまだ恋しいあの逃げ去りし国の…
「よう大丈夫かい?
俺を見て見て、
こんなんなっちゃって、
登り龍なのに顔と頭しか残ってないんだぜ」
ぞんざいな笑みの下きっと幾歳
(いくとせ)醜い龍、
だれもが素通り、
気持ち悪いとさえ思うだろう
貴男はそこに造られた時きっときっと美しかったに違いない
象牙の塔の狭間の歳月に貴方は躰を失った…
冷たい塔の中、貴方は躰でつらぬく天空の、見果てぬ夢を私にもう一度見せる
「おいで君、そのくらい大丈夫だ、私が守ってやろう
ドライアイスで焼けるかのような痛みを、
ペンチで捩じ切られるかのようなその痛みを、
私が吹き消してやろう、
その痛みを誰にもいわずに耐えてきたのだから…
命を前に逃げることすら出来なかったのだから…」
「まだダメになれない、
まだ待ってと言い続けてきた、
でもでも…こんなのあんまりよ」
私は限りない弱音を龍に吐く
「君の肺になぞナニもない、
あんなのは嘘だ、幻だ、
大丈夫また立てるようになる」
「こんなに痛いのに?こんなに苦しいのに?龍、
誰も信じてくれなかった、
表立った味方が欲しかったの、
私の人生に、庇ってくれる人がひとりでいいから欲しかった、
味方だけどそう言えないと陰で嘆く密かな人達でなく」
「泣かないで、密かな人達を君は愛しているんだろう?」
「わからない、
でもすべてじゃないわ」
「それでいいんだよ」
「私、死ぬの?」
「そんなことはないよ」
「何故わかるの?龍、教えて」
「何故って、何故だか私には解るのさ」黙って涙を流す私に龍は横目で微笑む、
「俺、醜いだろう?」
「いいえ」私は龍を怖れて首を横に振る
「この塔の“偉人”達のしてきたことを俺はずっと見てきたからな、
そしてそれを仕方無く吸い取ってきたんだから醜くもなるさ、
そのための登り龍ではなかったはずなのに」
「私生きたい、まだ生きたいの、
何度も死にたいと本気で思ったわでも書きたいの、
私は書き抜きたい、
その力が私にはある、
でも貴方も自惚れるなと言うんでしょう?
でも私にはそれ以外何も無い!
生きたいのはその為よ」
「大丈夫、君はそう愚かじゃないさ、だって一回だけの人生、
自惚れもせず、慎ましく、
一体全体どう面白可笑しく生きられるというんだい?
何故、他者に遠慮しいしい、
慮って生きるというんだ?
人生はいつだって残り少ないのに」
「私いったいどうしたらいいの?
後悔ばかりの人生なのに」
「泣かないで君、
後悔ばかりの愚かな人生なら愚かついでに俺の背に乗ればいい、
不可能を可能にするんだ、
だけどいいかい?
死ぬ気で信じないと駄目なんだぜ?」
人懐っこく龍は笑う
「さぁ旅に出よう」
「旅になんか出たくない、
書きたいのわたし完遂したい」
「大丈夫少しずつ取り戻そう、
‘’君の時‘’を、
誰も信じないその時を」
「私は書きたいの!」
「大丈夫、
君の躰ももう一度取り戻すんだ」
「本当のこと言っていい?
苦しいこの躰、鬱陶しい喪服のようにもう脱ぎ捨てて楽になりたいの、
ええ!そう思うわ
ああそれでも書きたいの!
誰か助けて、死へ逃げたいのに逃げられない、
理由は書きたい!
それだけよ」
「だったら俺の背に乗れ、
たいして怖くない、
不自由な翼を持つ可愛いひと、
そんな翼など畸形の顕われに過ぎないのになんと美しいことだろう、
だが翼持たぬ人の眼にはさぞかしそれは美しいどころか、
奇妙で異形(いぎょう)ですらあったろう、
さぁ怯まずにその目を閉じて、
そのまま僕を見てごらん、
もう君は僕と共に天翔ける
生きる夢のその彼方へ
もう一度、もう一度、
壊れても、壊されても関係ない
もう一度、もう一度
さあ飛ぼう
一緒に飛ぼう
夢見よう!