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営業×データサイエンス ~スキルの掛け算の重要性~

文系営業職の筆者が、業務を通じデータサイエンスに出会い学んだことで生じた身の回りの変化について述べる。

はじめに

日鉄ソリューションズ(株)という企業に所属している私は、数年前まで「DataRobot」というAI系のプロダクトを中心としたAIソリューションの営業推進に従事していた。
一般的に言われる「DX」を「業務効率化(デジタルシフト)」と「新たな価値創造・イノベーション(デジタルトランスフォーメーション)」とに大別した場合、AIソリューションの導入を通じて後者をお客様と共に推進するのが我々のミッションであった。
2016年のDataRobot社との販売代理店契約締結以降、我々のビジネスは順調に成長を続け、数年後には累計導入社数100社以上となり、国内シェアNo1の事業に成長した。お客様の中には、DataRobotを全社DX推進の中核に位置づけ、人材を育成し、日常的に業務革新を行う体制を整えることで継続的に数億円規模のビジネスインパクトを叩き出すという事例も出てきた。
2021年にはこれまでの我々の功績が認められ、弊社は国内唯一のDataRobotプラチナパートナーとなり、私個人としても「DataRobot Partner of the Year Sales Award」を受賞させていただくことができた。
私の根幹には、これらの活動を通じ、日本企業をもっと盛り上げたい、自分が幼少の頃に感じていた元気な日本を子供たちの世代に残していきたい、という素朴な想いがある。
以下にこれまでの経緯と、私が取り組んできたことについて述べる。

DataRobotおよびデータサイエンスとの出会い

私がDataRobotに出会ったのは2017年のことである。"データサイエンティスト"という職種がHarvard Business Review誌にて「21世紀で最もセクシーな職業」と紹介され、AlphaGoやDeepMindが有名になった第3次AIブームの真っ只中、弊社がまさに国内への拡販に本腰を入れようとし始めた頃である。
DataRobotというソリューションの素晴らしさについては改めて解説するまでもないだろう。正解となる教師データさえ準備しておけば、ノンプログラミングでデータモデルを作成し、それを元に未知のデータを予測したり、要因分析を行うことが可能となるAIプラットフォームである。
取扱い当初から大変多くの引き合いをいただき、早い段階でこれまでのIT部門へのソリューション提案とは異なる、お客様の現場部門へのアプローチの面白さに魅力を感じていた。また取り組みを続ける中で、幾つかの理由から、私の中にDataRobotの中核技術であるデータサイエンスについて真剣に学んでみたい、という気持ちが芽生えはじめた。
まず、営業としてITや経営企画、DX推進組織といった一般的なお客様側の各部門への対応はできたとしても、金融におけるアクチュアリーやR&D(研究開発部門)のデータサイエンティストなどいわゆる分析専門家と渡り合うことはできず、社内のコンサルティングメンバーをアテンドして頼らざるをえないこと。表面上取り繕うことはできても、本質的な会話ができず技術面の差を感じていた。
次にAIソリューションを業務適用するにあたりコンサルティングメンバーがやらなければいけない範囲があまりにも広いという点。詳細は後述するが、単にソリューションを導入すればいいというわけではなく、そもそもAIを何に活用すればよいのかという企画から業務整理、実導入、定着支援などやるべきことは多岐に渡るにも関わらず、役割分担は細分化・明確化されていない。そんな状態だからこそ、技術陣に任せっきりではなく、営業が強くなることで補える部分があるのではないか、営業にもできることがあるのではないか、と考えた。
そして一番大きな理由が、かねてより抱いていた、自分の子供達の世代のために日本を元気にしたい、私が幼少の頃に感じていたような活気ある日本を子供達に残したい、日本の未来に何か影響を及ぼしたいという気持ちである。
日本政府が注力しようとしているように、AIは閉塞した今の日本が挽回するための鍵といわれている。そんな中でAIを活用し、本気で会社を改革しようというお客様側のAI推進者達が実際に私の目の前に現れた。彼らの活躍を目の当たりにしているうちに、同じように大企業とAIを結びつけ改革を進めていけば、未来にもっと直接的に貢献できるのではないか。またそれは優秀な社内メンバーと優れたソリューションに恵まれた今の私のポジションでしか成し得ないことではないかと考えた。データサイエンスの学習が、「学びたい」ものから「学ぶべきもの」として自分事に置き換わったのである。

当初は書籍やオンラインスクールなどを活用し自習を継続していたが、一つ大きなターニングポイントとなったのがDataRobot社が提供するデータサイエンティスト養成講座「AI Academy」第一期に入学させてもらったことだ。これは、Pythonや数理統計理論を中心とする一般的なデータサイエンスの研修に加えて、ビジネスの場においてAIプロジェクトをどのように興し、どのように価値に結びつけていくかを学ぶ、AI中核人材育成のための短期集中プログラムである。
本来はエンジニア向けである同研修を営業が受けるためには相当の理由が必要な気もするが、当時上長に対してどのような説明を行ったかは正直よく覚えていない。ただ私の学びに対する気持ちを否定することなく、快く許可を出していただいたことだけは鮮明に覚えており、このことに今でも感謝している。
AI Academyでは、毎週8時間の講義に加え、PythonやSQLなどのコーディング、kaggleを活用したモデル精度を競い合うコンペティション、客先での講義を想定したファシリテーション準備など、数多くの課題が課される。プログラミング知識が全くゼロの状態からのスタートだったため、土日だけでは課題対応時間が足りず、通常業務をこなしながら業務開始前や昼休み、終業後を含むほぼ全時間を学習に費やした4ヵ月間であった。
卒業課題発表を終えた結果は、ボーダーラインギリギリではあったものの、晴れて合格となり、営業として唯一の認定データサイエンティストになることができた。
このAcademyの卒業後も、業務を進める中で改めて数理統計の知識不足を痛感させられる場面が多く、現在もオンライン講座などを活用し、高校の数Ⅰ~Ⅲ、大学の線形代数や微分積分の学習を継続するなど、絶賛発展途上中である。

AIを実務に適用するということ

ところで、DataRobotは大変優れたソリューションではあるものの、それを導入しただけでお客様の業務課題が立ちどころに解決していくということはありえない。多くの企業において「データ分析」や「予測」という業務は形式知化されておらず、現場の分析者が属人的に対応していることがほとんどである。ひとえに「AIを導入する」といっても一般的なITシステムとは違い、既存業務のどこにどうやってこれを当てはめれば良いか、お客様としても試行錯誤しているのが実情だ。
このような状態からAIを導入し、定着させていくには幾つかのポイントがあることが分かってきた。以下に普段我々のチームがプロジェクト立ち上げに際して注力していることを簡単に紹介する。

AI導入のモチベーションを醸成する

まずはお客様担当者と共に社内を盛り上げ、各部門の仲間を増やし、AI導入のモチベーションを高めることが重要だ。好奇心旺盛な方や、こういった領域に苦手意識を持たないやる気のある若手を発掘し、チームを組むことで、組織としてのAI導入のモチベーションを高めていく。多くの企業でAI人材の不足が叫ばれてはいるが、弊社のお客様である大企業であれば才能を持つ人材は必ず眠っている。まずは全社的な勉強会などのイベントを企画することで、その才能を掘り起こしてあげる必要がある。

AIを企画する(テーマの創出とブラッシュアップ)

次はAIを活用するテーマの洗い出しである。各業界・業務領域において比較的成功しやすい鉄板テーマは存在するものの、その企業におけるユニークなテーマを洗い出すために「テーマ創出ワークショップ」を行っている。部門を限定せず多くの従業員からテーマを集め、そこから良案を厳選していく取り組みだ。各部門・多様な職種からアイデアを出してもらうことで、現業におけるリアルな課題を抽出することができるだけでなく、AI導入を自分事ととらえるメンバーを増やすことができ、その先のチーム作りがスムーズなものになる。
またAIを活用する業務を特定し、その部門の現場のメンバーを早くから巻き込むことで、予測の結果をしっかりと実務に使ってもらえるようにすることも重要である。データ分析でビジネスを変革する3つのプロセス「見つける、解く、使わせる」といわれるように、精緻な予測モデルを作ることと、実際に現場にそれを信じてもらい使ってもらうことの間には一段のハードルがある。早くから現場を巻き込み当事者意識を持ってもらうことで、「使わせる」までを確実なものにする。
ワークショップにて創出されたテーマについては「ビジネスインパクト」と「実現性」の2軸で評価し、優先順位付けを行ったうえで個別テーマの業務を整理していく。そもそも形式知化できていない「予測」「データ分析」という業務にAIを当てはめるためには、まずは業務フローを見える化する必要がある。またその予測を行うと誰が嬉しいのか、どのレベルの精度が出ると誰がどんな行動を起こし、その結果どんなインパクトをもたらすのか、などの意志決定プロセスの可視化も必要だ。

上層部を巻き込む

お客様企業の上層部の巻き込みも欠かせない。役員層は「AI」や「DX」といった単語に期待する。しかし役員層に過度な期待を持たれると現場のクビが締まる可能性が高まるため、期待値をうまくコントロールする必要がある。こちらもプロジェクトの初期から適切なお客様上層部のキーマンを巻き込み、定期的なステコミを実施し、プロジェクトの実施合意や成功定義の合意を進め、ありがちな「総論OK、各論NG」の状況に陥らないようにする。

小さく成功し、徐々に広げていく

これらのプロジェクトを進める上で重要なのが、いきなりチャレンジャブル、センセーショナルなテーマに取り組むのではなく、まずは手堅く小さく成功し、その成功の輪を徐々に広げていくことだ。AIは使えるという評判をお客様社内で広げ、上層部にもPRしていくことで、現場層と共に継続投資を勝ち取っていく。
いつの時代も新しいものには反発が付き物であり、それを乗り越えるには社内根回しが大変重要となる。そのためお客様にはAIに詳しい専門人材を外部登用するより、社内人脈がありプロジェクト推進スキルに長けた生え抜きの社員にAIを実践的に教育することをおすすめしている。社内調整力は、AIプロジェクトを推進する上で最も重要なスキルの一つといえるだろう。

学びの先に待っていた世界

営業としてこれらの取り組みに関わったことを通じて、受注を積み重ねAwardを受賞させていただいた以外にも、自分の中で大きく変化した点が2つある。

営業が技術に明るくなることで、組織が強くなるという気づき

様々な階層の社内タレントを活用しプレゼンスを向上させていくのが一般的なSIerの営業スタイルであるが、お客様との接点の最前線である営業自身が技術的なやり取りまでをパーフェクトにこなすことができるようになると、自社のプレゼンスを一気に高めることができる。さらにその営業が業界内でユニークな人材とあれば、お客様側の担当者も自社内に紹介をしやすく、最短ルートでキーマンに辿り着くことができる。社内の技術陣や上層部の貴重なリソースを温存できるばかりではなく、それを受注を決定づけるピンポイントのダメ押しにありがたみを持たせつつ活用することができるようになる。
更にAI導入・定着を進める上で必要となるのが、データサイエンススキルに加えて、計画を立ててそれをお客様と合意し、着実に進めていくプロジェクト企画力と推進力である。ここにSI営業が得意とするアカウントプランの考え方が大きく役立っている。お客様の中長期の経営計画やIT投資計画を元にプランを策定し、合意し、共に進めていくという、社内資料としてのアカウントプランではなく、お客様と共創する取り組みだ。大変ハードルの高い取り組みであり我々もまだまだ道半ばではあるものの、この取り組みで成果を出すお客様は着実に増え続けている。

社内外ネットワークの広がり

もう一つは、一連の取り組みを通じて社内外の多くの方々と知り合えたことだ。社内においてはDataRobotというプロダクトに依るところが大きいものの、お客様先への同行や案件推進を通じて各事業部門の営業を中心に、様々な立場の方々と知り合うことができた。また事業部横断の分科会や営業企画部門のメンバーには「大人しい、お堅い」といった自社の営業イメージを覆された。広報の皆さんからは、社内外発信の面白さや大切さを教えてもらった。表面上では分かりづらいが、実は内なる熱い想いを秘めている若手や経営層と知り合えたことも嬉しかった。連結社員数数千名の弊社において、これは中途入社の私にとってかなり大きな資産となった。
また、私がこの取り組みを勉強会や講演などを通じて社外発信することで、社外の方々に興味を持っていただき、声をかけていただく機会が増えた。普段の仕事や生活では接することのできない新たな価値観との出会いは、自分自身の世界や視野を大きく広げてくれただけではなく、人生における仕事の位置づけや考え方についてアップデートするきっかけを与えてくれた。

若手に向けて言いたいこと

これらの経験を踏まえ、主に若手に向けて以下2点を提言したい。

リスキリングの重要性

数年単位で大きな変化が起きている今の時代において、「これさえ学んでおけばOK」といった恒久的なビジネススキルは存在しない。できれば今後は5年~10年おきに自らの歩みを見直し、その時流に合ったスキルを身に着け直すことをおすすめしたい。
特に足元の数年においては、デジタル世代の読み書きそろばんである「数理・データサイエンス・AI」の習得を避けては通れない。業界や職種、年次や文系理系に関わらず、統計検定やG検定(日本ディープラーニング協会ジェネラリスト検定)といった資格は、現在のTOEICや基本情報技術者試験レベルにスタンダードなものになっていくであろう。
もちろん、この歳になって今さらプログラミングなのかという意見はあるだろうし、人によって向き不向きもあると思う。しかしこれらのスキルを当然のように身に着けた学生が社会に解き放たれる時代がすぐそこまでやってきている。業務知見と商慣習を知り尽くした我々がこれら「数理・データサイエンス・AI」のリテラシーを高めることは、彼らと共創し、彼らの能力をビジネスの場で存分に発揮してもらうために不可欠となるはずだ。

スキルの掛け算の重要性

ある一つの分野を突き詰めることができれば素晴らしいビジネスマンになれる。しかしそれだけでは組織内でトップになれても世界80億人のトップになれる確率は極めて低い。それよりも100分の1に入れるような特技を相性を意識しながら5つ作って掛け合わせることで100億分の1の人材を狙うほうが圧倒的に可能性は高いし、市場において「自分」というブランドを確立させやすい。営業やSE、マネージャーといった従来型の職種を一本足打法で突き詰める道ももちろん素晴らしいが、多様化が進むであろうこれからの時代においては、多芸に秀でた生き方をするほうが組織の枠組みを超えて活躍できる可能性が高まり、多種多様な世界や色んな人に出会えて、ワクワクする人生を送ることができるのではないだろうか。
現在日本は国を挙げてリスキリングに力を入れている。正社員として数年勤務し雇用保険を払えば教育訓練給付金の恩恵に与かることができるので、これを自分自身のレベルアップに活用しない手はない。ぜひ制度を有効活用し、様々な特技を習得しつつ、それらを掛け合わせた結果を社内外に発信して欲しい。組織に依存しない「自分ブランド」の立ち上げを一緒に目指す仲間ができたとしたら、これ以上嬉しいことはない。

現在私は前述の社外ネットワークを通じてとあるコミュニティに参画し、少し大げさではあるが「残すに値する未来を創る」というキャッチフレーズのもとに人材育成活動をしている。主に学生に向けた読書会やディスカッションを通じて、各々が日本の未来に向けてどんなことができそうかを考えてもらう取り組みだ。立ち上げ1年で100名を超えたコミュニティメンバーは、著名人や政治家、経営者や教師、競合ITベンダーの社員や主婦(主夫)、学生に至るまで多種多様。それぞれがそれぞれのやり方で全国で精力的に活動している。AIソリューションの営業推進とこれらの取り組みを通じて、少しでも元気な日本を子供たちの世代に残していきたいと、そう考えている。

参考文献

  1. 河本 薫(著)『会社を変える分析の力』,講談社,(2013).

  2. 安宅 和人(著)『シン・ニホン』,NewsPicksパブリッシング,(2020).

  3. NSSOLニュースリリース:『AIでのビジネス価値創出と継続的な成功の実現をめざしDataRobot AI アカデミーをNSSOL社員5名が卒業』https://www.nssol.nipponsteel.com/press/2019/20191007_160000.html

  4. NSSOLニュースリリース:『NSSOL、DataRobot社初の「プラチナパートナー」に唯一選出、あわせて「DataRobot Partner of the Year」を4年連続受賞』https://www.nssol.nipponsteel.com/press/2021/20210212_110000.html

  5. 『シン・ニホン』アンバサダーズコミュニティ
    https://shinnihon-ambassadors.studio.site/

著者紹介
狩野 慎一郎
2008年 日鉄ソリューションズに中途入社
2011年 ITインフラソリューション事業本部
2018年 デジタルプラットフォーム営業部
2023年 営業総括部 全社マーケティング・DX営業推進担当

DataRobotを中心としたAIソリューションの営業推進に従事後、現在はグループ全体のマーケティングや営業力強化(DX営業推進)を担当。プライベートでは「NewsPicksパブリッシング認定アンバサダー」として学生や若手に向けての読書会を通じた啓蒙活動を続けている。


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