秋田のクラフトジン「AKITA CRAFT GIN 岑 No.65」で秋田の森の香りに酔いしれる
最近は落ち着きを見せ始めているが、ここ数年クラフトジンのブームがきていた。
ジンをご存知のない方向けに説明すると、ジンとはジュニパーベリーという針葉樹の果実を中心とした様々な植物の香りをつけた蒸留酒の一種だ。
よく売られているものの度数は40°以上と強めで、ソーダで割ったジンソーダやトニックウォーターで割ったジントニックなどは居酒屋でもよく売られている。
少し前まで日本でよく飲まれていたものといえばビーフィーターやタンカレー、ボンベイサファイアなどといった海外産のものだったのだが、ウィスキー・ハイボールブームの後を追う形で2020年にサントリーから販売された国産ジンの翠が大ヒット。現在はこれを炭酸水で割った缶入りのRTDの翠ジンソーダや、アサヒ飲料から東北地方で先行発売された後にその反響から全国販売に至ったジンサワーの GINONなどが大手各社から販売され新たな定番として定着しつつある。
そしてこういった大手メーカーの後を追う形で、日本各地でオリジナルのクラフトジンが作られるようになった。
蒸留酒の種類は様々であるが、ジンが一気に全面に出されるようになった理由はその手軽さと拡張性の高さにあるだろう。
前述した通り、ジンはジュニパーベリーの香りがついた蒸留酒だ。つまり蒸留酒にジュニパーベリーの香りさえつければ、それはジンなのだ。
ウィスキーのように長期間熟成させる必要もなく、シードルのように使える材料が限られているわけでもない。
そして元々前述した海外の様々なジンも、それぞれジュニパーベリー以外にも独自のハーブやフルーツといった植物の香り、すなわちボタニカルをつけている。ここで地域特産の植物な香りをつけることで、独自性や地域ならではの個性を出すこともできる。
以前つぶやきで言及した秋田杉GINもまさにそういった流れで、地域の個性を全面に出したクラフトジンの1つだ。
そういった性質もあり、様々な地域でクラフトジンが作られたのだがブームから数年が経ち、現在は徐々に淘汰されつつある状態だ。
そして淘汰されるクラフトジンがあれば、逆に非常に高い評価を受けるものも出てくる。
そんなジンの1つが秋田県潟上市にある小玉醸造株式会社が製造しているAKITA CRAFT GIN 岑 No.65だ。
小玉醸造は1879年に創業し、味噌や醤油、日本酒と幅広い分野の醸造を行ってきた企業だ。
そしてこのジンは2023年に行われた東京ウイスキー&スピリッツコンペティションでは金賞、今年もあきた食のチャンピオンシップ2024にて総合グランプリの秋田県知事賞を受賞するなど、まさに今波に乗っているジンだ。
米どころ、そして酒どころと名高い秋田県の新たな名物となりつつあるこのジン。
しかし、賞を取っているから必ず美味しいという訳ではない。ここは実際に飲んで確かめてみよう。
まずは味と香りがわかりやすいように、常温のストレートでいただく。
瓶を開けた瞬間に、すっきりとした木々の香りがふわりと広がる。クロモジの香りだろうか、丸みのある広葉樹の木の香りである。正直真っ先に「これを部屋に撒いてルームフレグランスにしたい」と思ったくらいだ。とにかくわざとらしさはない範囲ながらも木々の香りが非常に強い。
液色といい既にかなり面白いお酒だ。
口にふくむと柔らかな甘さがまず舌に来るのだが、この甘さのおかげで非常に口当たりが良い。
喉の奥から立ち上る爽やかな刺激と香りは、香りだけで感じていたものよりもより爽やかさながらも鋭さはなく、間もなく再び最初に感じたクロモジ (多分)の香りが戻る。
思った以上に白樺樹液と思わしき甘みが非常にいい仕事をしており、ストレートでも非常に飲みやすいジンだ。
とはいえ流石にこれ単体で勧めるわけにはいかない。という訳で飲みやすく炭酸割りも飲んでみよう。
良いウィスキーなどは水などで割った方が香りが立つが、このジンもまさにその類だろう。口に含んだ後に感じる香りについては炭酸水で割った方が長く、しっかりと感じられる。
ナイトキャップに1杯嗜むならストレートだが、食事と共に味わうならば炭酸割りを強くお勧めする。
そして以前にジンと相性がいいと紹介したこの飲
み物との組み合わせも試してみよう。
岩手県久慈市にある佐幸本店から販売されている山のきぶどうだ
山のきぶどうは岩手県各地のスーパーなどで販売されている、とにかく濃い山ぶどうジュースだ。最近はゼリーなどが岩手の土産物の定番になりつつある。また、東北地方のセブンイレブンでは今年もこの山のきぶどうをつかった山葡萄サワーが販売されておりこちらも美味しい。
みつ入以外は甘さが控えめで比重も極端ではないので度数の高いアルコールとも比較的混じりやすく、何より強い個性を持っているので自分はカクテルの割材として非常に高いポテンシャルを感じている。なお前回の記事を投稿して1年経った現在、特にこれを使ったカクテルが流行っているとかそういう話は聞いていない。
岑2に対して山のきぶどう1の割合で割ってみると、野生みの強い和のボタニカル同士のが見事に噛み合った。また、甘さのバランスについてもちょうどいい。
山のきぶどうの味がメインで岑の風味はあくまで引き立て役に徹しているので人によっては勿体なく感じてしまうかもしれないが、試して欲しい組み合わせの1つだ。42°の蒸留酒で3倍に薄めた状態で何を言っているのか思われるかもしれないが、自分は少なくとも山のきぶどうストレートよりはかなり飲みやすく感じる。
岑は濃厚なフルーツジュースの引き立て役としてもいい仕事をしそうだ。というわけでもう1つ北東北らしい飲料を用意した。
シャイニーの金のねぶただ。
リンゴが盛んに生産されている青森県だが、全てのリンゴが生食用として出荷されているわけではない。サイズが規定の大きさに合わなかったり傷物だったりするリンゴは、流通の際に無駄が発生したり痛みやすかったりすることから産直などで地元向けに消費されるのはもちろんのこと、県内各地にて様々な加工品に用いられている。(もちろんこれは青森のリンゴに限ったことではなく多くの農作物に言えることだが)
リンゴ加工品の代表格であるリンゴジュースも勿論青森県内各地で作られているのだが、そんな青森のリンゴジュースの中でも二大巨頭と呼べるのがシャイニーとアオレンのリンゴジュースなのである。
北東北以外の人に通じるように例えるならば、福岡県民にとってのウエストと資さんうどんと牧のうどん、宇都宮市民にとってのみんみんと正嗣のようなものだと思うと分かりやすいかもしれない。
組み合わせこそ定番だが、果物の風味や味わいをしっかりと味わえる濃厚なリンゴジュースと岑のボタニカルの組み合わせで生まれる味わいは、皮付きのリンゴを丸齧りしているかのようだ。これもまたおすすめの飲み方である。
さて、ワインの話なのだが、つまみと酒を合わせる場合は産地を合わせるというのが基本になる。
というわけで今回岑に合わせる秋田のつまみということで、潟上市からは秋田市を挟んで南東に位置する、大仙市にて作られているポルミートのソーセージのから今回はフロマージュ、ビアマイスター、ノンモークホワイトの3種類を用意した。
ポルミートのソーセージは社長であるタベルノスキ・マイケル氏 (本名)の母国ポーランドの味を再現したソーセージだ。
日本ではあまり馴染みがないが、実はポーランドの豚肉生産量は世界第10位。当然加工品も伝統的に様々な種類が作られている。今のところ自分はポーランドに行ったことはないのだが、kiełbasa (日本ではキウバサと書かれることも多いが、ポルミートの屋台などではキェウバサと表記)と呼ばれるソーセージは訪れた日本人が口を揃えて絶賛していた。
ポルミートのソーセージは秋田県では多くのスーパーに並んでいるが、最近は東北地方のマックスバリュやファミリーマートでポルミートのソーセージを使用した商品が販売されたり全国のやまやで取り扱われていたりと、同じく大仙市で作られている味どうらくの里と同様に秋田を飛び出し全国へと販路を拡大しつつある秋田のローカルフードの1つだ。
個人的にはスーパーの肉加工製品コーナーにポルミートの商品があるかプライフーズの商品があるかで、自分が今奥羽山脈の西側にいるのか東側にいるのかを実感する。
今回買った3種類を岑の様々な飲み方と共に食べ比べた感想が以下の通りだ。
【ビアマイスター】
皮の食感がピカイチで良く、スパイスとスモークの香りが効いている。食感、香り、口に入れた直後の味はしっかりとあるのだが、不思議なことに後にあまり味が残らない。(味に奥行きがない訳ではない。一口目の印象に対して後味が非常にスッキリしているという表現が正しい)
そのため単品で食べた場合は正直他の2つと比べると単品としてのやや物足りなさがあるが、酒と合わせることで完璧に噛み合う、まさにつまみに特化したソーセージ。今回用意した中ではソーダ割のと相性がいいが、苦味のある炭酸の酒、つまりは名前の通りビールとの相性が良いだろう。また、今回は手元に用意がなかったために試せなかったが、辛口のどぶろくとも相性が良さそうだ。
【フロマージュ】
こちらはパッケージに書いてある通り、秋田県仙北市にある安藤醸造の醤油を使用したソーセージだ。
名前こそフロマージュだが、その味わいの芯は醤油の主張が強い……と思っていたところ、どうやら公式サイトを見るに商品名としては醤油チーズフロマージュが正式なものらしい。チーズとフロマージュで意味が被っている気がするが、多分気のせいだろう。なおポルミートではこれとは別にチーズ入りのその名もハイチーズというやかましい名前のソーセージも販売している。勿論そちらは醤油抜きで、ストレートかつ癖のないソーセージとチーズの味わいを楽しめる。
対して醤油チーズフロマージュの方は醤油の香ばしさに加えて醤油由来かチーズのものかわからないものの、強い麹感というか発酵食品らしい風味があり、ハイチーズとはかなり明確に好みが別れそうである。自分は断然醤油チーズフロマージュ派だ。
このソーセージ自体は本当に美味しいのだが、あまりにも美味しすぎるというか味が単品で完結しており、ジンと合わないこともないがこちらはできればご飯やパン、あるいは日本酒と合わせたい味だった。
【ノンスモークホワイト】
こちらはスモークされていないおかげか食感はうってかわって柔らかめ。ハーブの香りはもちろんのこと、肉の風味と旨みを特にしっかりと感じる。食感も含め日本人向けというよりもヨーロッパの味わいに近いタイプの旨さであり、人によって好みは分かれるかもしれないが私は大好きだ。米というよりもパン、日本酒というよりもビールやワイン、そしてジンだ。
酒のつまみにぴったりながらも、甘い酒にも合わせやすいのが非常に嬉しい。しかと豚肉+ハーブということで、リンゴとの相性は特に良い。ジンアップルには絶対にこれだ。
北東北では伝統的な料理や長く続いている定番の地元の味が深く根付いていることは勿論のこと、それらを発展させた、あるいは完全に未知のものを新たに取り入れた新たな名品もまた次々と生まれている。
情報の発達が盛んな現代。当ブログがそれらの素晴らしさを知るきっかけの一助になれば幸いである。