名誉毀損ってなんなんだ〜??
こんにちは〜
弁護士法人えそらの弁護士の鹿野舞です。
さて〜今日は名誉毀損についてお話したいと思います。
木村花さん、元KARAのク・ハラさん…名誉毀損によってお亡くなりになった芸能人の方のニュースも記憶に新しいのではないでしょうか。
今はちょうど香取慎吾さんがアノニマスというSNS誹謗中傷問題に焦点を当てたドラマをテレビ東京でスタートさせましたよね。少しでも誹謗中傷に対する危機意識を皆さんにもっていただけたらいいなという気はしますね。
余談ですが、私の好きなCreepy Nutsというアーティストの『教祖誕生』という歌の歌詞の中で
1Tap, 1Kill, 1Click, 1Kill 指先ひとつで鬼退治
という表現があります。
いかに容易に誹謗中傷によって人を傷つけることができるかを言い得ている歌詞だと思いませんか(深い。。)
さて、そんなわけで法律第2かじりは名誉毀損!はじまりはじまり〜
さっそくですが、名誉毀損って何と戦ってるかご存じですか?
名誉毀損は、表現の自由と戦っています🔥🔥
🔥名誉毀損 VS 表現の自由🔥 です!!
表現の自由といえば、憲法で保障される最強の権利です!
要するに表現の自由が原則無敵、やり過ぎた場合だけ名誉毀損になるっていうのが原則の形です。
んなわけで、これを踏まえて、今日はロス疑惑訴訟夕刊フジ事件を見ていきます。
みなさん、この事件ご存じですか。
ロス疑惑ってのは聞いたことがある方も多いかもしれませんね。私は全く世代ではなかったので(若さアピールw)、司法試験の受験勉強の時に初めて勉強しました。
最高裁平成9年9月9日第三小法廷判決ロス疑惑訴訟夕刊フジ事件
【ストーリー】(すべて仮名かつ判例を元にしたフィクションです)
仲良し夫婦のヒカルくんとヨシコちゃん。
ある日ヨシコちゃんがホテルに出かけると見知らぬ人に殴られるという「殴打事件」が起きました。幸いヨシコちゃんは重傷には至りませんでしたが、そこから3ヶ月くらいした後、今度はヒカルくんとヨシコちゃんが2人で出かけていると、ヨシコちゃんは銃撃され死亡、ヒカルくんは足を怪我するという「殺人事件」に遭いました。このときヨシコちゃんには保険金がかけられており、その受取人はヒカルくんになっていました。
最初の殴打事件から3年くらいたったのち、ヒカルくんは殴打事件の殺人未遂で逮捕勾留されました。そしてそんな中、ある雑誌が
ヒカルくんの元彼女と名乗る女性が「ヒカルくんは極悪人、死刑よ」、「ヒカルくんの妻も知らない話…警察に呼ばれたら話します」と言っているという見出しをかかげ、ヒカルくんの記事を掲載しました(※当時ヒカルくんは再婚してヨシコちゃんの次の奥さんがいました)。
ヒカルくんは、この見出しや記事の内容は自分がまるで殺人犯だと断定するもので、それによって自分の評価が低下し、名誉を著しく毀損された、として慰謝料500万円の請求をしました。
ちなみにこの時期ヒカルくんは、殴打事件・殺人事件のそれぞれにおいて保険金目的の殺人容疑で刑事裁判にかけられていました。
経緯と結論は以下のとおりです。
・殴打事件第1審有罪→控訴
・殴打事件控訴棄却→上告
・殺人事件第1審有罪→控訴
・殺人事件控訴審で無罪
・殴打事件上告棄却→殺人未遂の有罪確定
・殺人事件上告棄却→殺人罪の無罪確定
(ストーリー終わり)
ざっとこんな事件です。ちなみにこの主人公ヒカルくんとヨシコちゃんがロスにいた際に起きた事件だったのでこの事件はロス疑惑事件と言われています。そして、晴れて殺人罪が無罪になったのち、ヒカルくんはロスに戻るのですが、ロスで再び逮捕され、その後自殺をしてしまうのです。。。
さ、この事件ではヒカルくんに対する名誉毀損が問題になりました。
裁判所の判決文は非常に読みにくいので、判例の言葉はすっとばしていきなり解説します!笑
解説
名誉毀損には種類があります。
その1 事実の摘示
「お前のかーちゃんでーべそ!」(事実母ちゃんがでべそだった場合)
その2 意見論評
「お前の母ちゃん、ちょっと不気味」(母ちゃんの顔色が青白い場合)
どちらも名誉毀損として問題になり得るのですが、意見論評の方がある程度許されます。
なぜか…それは表現の自由があるからです。事実の摘示よりも意見論評の方が、表現者の意思が介在されているので、一層表現の自由の保護の対象になるんです。
要するに、事実の摘示か意見論評かで名誉毀損がされるかどうかの判断基準が違うということです。
したがって、まず名誉毀損かどうかを考える時には、
STEP1 事実の摘示か意見論評か
証拠などの証明になじまない物事の価値、善悪、優劣についての批評や議論等の価値判断に基づくものが意見論評!
・事実の摘示か意見論評かの判断は一般読者を基準にする
・記事の前後の文脈やその記事を読んだ時に一般読者が持っている知識から事実の摘示か意見論評かをチェックする
STEP2 意見論評だった場合
・「ある事実」を元にした意見論評は、その「ある事実」が公共の利害に関わることで、公益のためにしている発言ならば過激すぎない限り違法にならない
・ただし「ある事実」が真実である証明がない、あるいは真実であると信じる相当の理由がない場合には違法
※ちなみに一般的に広まっているから、というだけでは「真実だと信じる相当の理由」にはなりません。
それが許されたら後追い報道はたとえ間違った内容でも流したい放題、言いたい放題になっちゃうからね(みんなが言ってるから何を言ってもいいわけじゃないってこと)
STEP3 事実の摘示だった場合
・公共の利害に関わることで、公益目的の発言であることを前提として
・その事実が重要な部分について真実だった場合には違法にならない
・真実ではなくても、真実だと信じる相当の理由がある場合には違法にならない
…なにが違うの???
ですよねw
要するに
事実の摘示の場合、真実かどうかの対象は「母ちゃんがでべそ」か否かです。
他方、意見論評の場合の真実かどうかの対象は「不気味」じゃなくて、母ちゃんが青白いかどうかなんです。
表現そのものが真実かどうかの判断の対象になるのが事実の摘示
前提事実が真実かどうかの判断の対象になるのが意見論評
これによって意見論評の方が表現の自由が強く保護されることになります。
で、判例の結論。ヒカルくんがどうなったかというと
編集者「この事件はうちの雑誌以外でもたくさん報道してたし、一般的に誰でも知ってる話題です!それが真実だって信じる相当の理由がある!」
裁判官「それは無理がありますね」
編集者「なんで…」
裁判官「一般的に誰でも知っている話題であることが、それが真実だって信じる相当の理由になっちゃったら、後から言う人は言いたい放題じゃない!!」
編集者「ぐぬぬ。。でも!意見論評です〜!!!」
裁判官「それも無理だよ」
編集者「なんで!?」
裁判官「今回の記事の前後の文脈とか見てみると、これは意見論評とはいえない。一般人が見ると事実の摘示に見えます。ヒカルくんが殺人犯だと書いているようです。そうなると事実の摘示として真実でもないし、真実だと信じる相当の理由もないからもちろん名誉毀損です」
まとめ
名誉毀損と一言でいっても、種類があって、それぞれによって判断基準が異なるわけです。
ただ、上記のとおりその線引きは結構難しいと思います。
が、今日はとりあえず名誉毀損って表現の自由と戦ってるんだ〜事実の摘示と意見論評ってのがあるのか〜ってことを覚えておいてください。
名誉毀損についてはこれからも何度か取り上げる予定だから焦らなくてダイジョブ^^
悲しい事件がたくさん起きていて、SNS等での発信に臆病になりがちです。
色々なことに気を遣うことはもちろん大切なことですし、あんな事件は二度と起きてほしくない…明るみに出ていない悲しい事件もたくさんあると思います。ただね、情報発信も同時に私たち国民に認められた権利です。
何が良くて何がだめか、みんなが良識をもって判断できたら、素敵な世の中になるな〜って思います。
今日もありがとうございました〜
弁護士法人えそら
代表弁護士 鹿野舞
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