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【フランス妊婦生活】教育学の視点から子どもの語学学習をどうすればいいか考えるあれこれ

現在、フランスで妊婦生活を送っています。フランスでは妊娠初期・中期・後期の1回ずつしかエコーをしてくれず(月1でドクターには会いますが、血圧と体重測って、血液検査して終わり)え、大丈夫?ほんとに育ってる?とそわそわする日々です。次のエコーが待ち遠しい…。

まだまだ産まれてくるのは先ですし、今は無事産まれてきてくれたら何でもいいですという気分ではあります。とはいえ、このままフランスで子育てとなると考えないといけないのが子どもの語学学習、特にどうやって「母語」を確立するかということ。

一応、教育を専門にしている身ではありますが、教える側、特に言語習得なんて門外漢なので、勉強しなければということで、たまに論文を漁っています。その中で興味深かったものを自分の備忘録兼ねてまとめたいと思います。


幼少期は「母語(家庭内言語)」優先にすべき?

Schwartz(2013)によるThe impact of the First Language First model on vocabulary development among preschool bilingual childrenという、イスラエルでの研究が興味深かったです。
これは、4,5歳の子どもを対象としたもので、彼らはロシア系の家庭出身です。なので、母語(家庭内言語)はロシア、母国語(その国で主に使われる言葉)はヘブライ語となります。
この論文では、グループ1) 1,2歳から3歳まではロシア語でのコミュニケーションが優先され、その後徐々にヘブライ語を導入する幼稚園(= First Language First model)と、グループ2) 最初からヘブライ語メインでコミュニケーションを取る幼稚園において、4,5歳時点(学年の始めと終わり)でロシア語・ヘブライ語それぞれの言語能力がどう違うのかを比較していました。

私なりに簡単に結論をまとめると、

1. ロシア語に関しては、グループ1で大きく向上が見られたが、グループ2では向上が見られなかった。

2. ヘブライ語に関しては、以下のグラフが分かりやすいと思います(図内BP = 上記で言うグループ1; MP = グループ2)
2-a. ボキャブラリーに関して、学年始めではグループ2が優位だったが、統計的に有意な差ではなかった。グループ1,2共に学年始めから終わりにかけて伸びが見られた。
2-b. Paradigmatic Knowledge(※1)に関しては、学年始め・終わり共にグループ2が優位だった。しかし、学年始めの差は統計的に有意だった一方で、学年終わりの差は統計的に有意なものではなかった。また、学年始めから終わりにかけて、グループ1では統計的に有意な伸びが見られたが、グループ2では見られなかった。
2-c. Syntagmatic Knowledge(※2)に関しては、学年終わりにかけてグループ1のみで統計的に有意な伸びが見られた。

Schwartz(2013, p.17)

※1 Paradigmatic Knowledgeとは、「犬は動物である」「犬には〇〇、××という種類がある」といった言葉の同士の階層的な関係性に関する知識を指します。抽象的に物事を理解したり、カテゴリーに分けたり、文脈から取り出して言葉の意味を理解するなど、高次認知能力の向上に関係しています。

※2 Syntagmatic Knowledgeとは、「犬の耳は短かったり長かったりする」「犬は家を守る」など言葉同士の直線的な関係(短い・長い)や、情景を描写することにより言葉が繋がること(犬・家)への知識を指します。豊かな語彙を持っているかを反映します。

グループ2でロシア語が伸びていないのは自明なように思いますが、彼らも家ではロシア語を使っているんですよね。なので、まず、家庭内での母語の使用のみでは母語の伸びに限界があることが分かります。
また、1歳から3歳にかけて、ロシア語のみで幼稚園を過ごし、その後、ヘブライ語を2年しかやっていない子どもでも、ずっとヘブライ語で幼稚園で過ごしてきた子どもと比べて、4,5歳の学年終わり時点でのヘブライ語力には遜色がないようです。筆者はMaturation Hypothesis(Paradis, 2007)(成熟化の仮説とでも訳せばいいでしょうか)に言及してこれを説明しています。グループ1ではロシア語が成熟していたので、ロシア語で学んだ語彙をヘブライ語に応用させることができたのではないかとのことです。例えば、ヘブライ語で「果物」という語彙を学んだ際、既にロシア語で「果物」が何かを知っているので、結び付けて学ぶことができるということ…だと思います。
逆に、グループ2ではこの現象(ヘブライ語で学んだことをロシア語に応用する)は起きていないようなので、きちんと教授法に基づいたサポートが必要なのではないかと提起されています。

※とはいえ、研究手法の限界的に、幼稚園での教授法が影響を及ぼしたと言い切れないところもあるので解釈には注意が必要です。

となると、私たちの場合、最初の数年は日本語(母語)をちゃんとやろうということになるのでしょうか。
前の記事でフランス人夫との言語問題について書きましたが、なんせ私がフランス語を全然できないので(もちろん努力はしますが、あと数ヶ月でぺらぺらになるのは無理…)どうしても母語(家庭内言語)は日本語になると思っています。
個人的に、日本語を喋れるようになってほしいという願望はそこまでないのですが、言語によって考える力に制限がかかってほしくないなという気持ちが強いです。いわゆるダブルリミテッド問題ですね。

バイリンガルの言語の発達3段階

Cummins (1979)によると、バイリンガルの言語の発達は3段階あるそうです。

1) Semilingualism(日本でいうダブルリミテッド):第一言語(母語)も第二言語(母国語)も能力的に低く、思考力にも影響がある状態
2) Dominant bilingualism:どちらかの言語がネイティブレベルにはできる状態。思考力への影響は可も不可もなく。
3) Additive bilingualism:どちらの言語も高いレベルで、思考力にプラスの影響がある状態

3までいけると理想的ではありますが、まずは2ですね。正直、フランス語は自然と身に着くとは思ってしまっているのですが、要はフランス語ががっつりスタートする3歳(フランスの義務教育スタート時)までに言語能力を上げる土台を日本語で作っておくべき、ということになるでしょうか。その後も、どうしても私がフランス語をサポートするには限界があるので、それによってダブルリミテッド問題が起きないかが不安です。パートナーがんばれ…いや、私がフランス語を頑張れなのかな。

また、この論文で取り上げられたような母語(日本語)で3歳まで預かってくれるようなところはないので、3歳までもフランス語の保育園かベビーシッターになってしまうのですが…家庭内だと十分でないという胸に痛い言葉はありましたが、家庭内で頑張るしかない。

「母語(家庭内言語)」を使い続けるモチベーション


あとは家の外に出る時間が長くなればなるほど、どうしてもフランス語のインプットが増えるので、日本語は消えがちになってしまうのかなと。パートナーみたく、日本語のアニメにはまって、日本語を勉強するモチベーションになればいいのですが(笑)
ちなみに別の論文より、もし片方の親のみが多数派言語(母国語)を話す場合、子どもが少数派言語(母語)を話す確率は90%以上、両親ともに両方の言語を話せる場合、子どもが少数派言語を話す確率は80%に下がるそうです(Houwer, 2007)。

単純にインプット時間の問題(両親ともに母国語を話す場合、家庭内で母国語を使いがちになる?)なのかは分かりませんが、日本語を使わざるを得ない環境を作るという意味では、私が、家ではフランス語話せませんモードの方がいいのかな(実際、現時点では話せませんが…あれ、結局私はフランス語を頑張るべきなの?どうなの?)。

色々考えたらよく分からなくなってきました。一番の解決策は私のフランス語がぐーんと伸びて、フランス語のみでやっていける状態になることな気もしていますが、それはそれで、私の言語能力の限界もありますし、何より子どもが自分の残り半分のアイデンティティを考えるようになった時に、「日本」の何かにアクセスできる日本語というツールがないのも惜しいなと思います。
日本ではあまり日本人ぽくないとも言われたことがある私ですが、海外に来ると自分って日本人だなとしみじみ感じるので、絶対子育てもそれが出ると思うんですよね。そうすると多かれ少なかれ、私たちの子どもも日本人(日本の文化に触れて育った自分)としてのアイデンティティを考える日も来そうだなぁと…。

ぐるぐる考えつつ、また面白そうな研究があれば紹介したいと思います!

参考文献
Cummins, J. (1979). Linguistic Interdependence and the Educational Development of Bilingual Children. Review of Educational Research, 49(2), 222–251. https://doi.org/10.3102/00346543049002222

De Houwer, A. (2007). Parental language input patterns and children’s bilingual use. Applied Psycholinguistics, 28(3), 411–424. https://doi.org/10.1017/S0142716407070221

Schwartz, M. (2014). The impact of the First Language First model on vocabulary development among preschool bilingual children. Reading and Writing, 27(4), 709–732. https://doi.org/10.1007/s11145-013-9463-2

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