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一人旅

一人で旅行するのが好きだ、と話したら上司と同僚に怪訝な顔をされた。
商談帰りの電車内、扉にもたれた上司の向こう側に神田川を臨みながらあぁこれはこのひとたちにとって一般的な感覚でないんだな、と一拍遅れて気がついた。

彼女と行く旅行とか、家族で行く旅行とか、旅行は誰かと何かを一緒に見て過ごすことが目的で、見たもの聞いたものを隣で共有し合える(し合おうとする)ということが彼らにとってきっと大切なことなのだろうと今なら思う。その感覚も少なからず私も持ち合わせていると思うのだけど、一人でする旅行は、とにかく自由でいいのだ。

相手の好みもペース配分も体力も優先順位も、何も考える必要がない。ただ自分の思うまま、感じるまま、行き当たりばったり歩き回ったり回らなかったりしていい。予定になかったことを入れたり、行くはずだったところに辿り着かなくてもいい。
朝行ってみた場所がとても気に入ってしまったら、後の予定を全部取りやめてのんびりそこで過ごすことだってできる。気に入ってしまったからと、残りの数日も毎回足を運んだっていい。
誰かと何かをすることよりも、私が今何を感じて私は今何をしたいのか、常にそれを問い続けることのできる一人旅行が、とにかく私は好きなのだ。

もちろん一人で感じたこと見たことを、誰かに伝えたい、聞いてほしいと思うことはある。当時お付き合いしていた相手に長い旅行録を送ったこともある。だけどそれは、誰かと行っていたら聞こえなかったかもしれない自分の声だ。
誰かと一緒だったら誰かの声を聞いてしまう。それが楽しいし、いいのだけれど、その分私の声に耳を傾ける時間と余裕は少なくなるだろう。

全身で見て、感じて、自分のしたい通りに過ごす。せっかく来たのだからと外に出て日を浴びる。とにかく歩く。せっかくだからと好きなものを軒並み食べて、せっかくだからと地酒もいただく。たくさん歩いて、たくさん自分の声を聞いて叶えてやった後だから、夜はぐっすりすぐに寝入ることができる。
そうして、この一日はどんなことをしてやろうか、どんなことに出会えるだろうかとわくわくして朝目が覚める。
そういう、一人旅行が好きだ。

そして日常もまたそうして過ごすことができたなら、私は幸せに生きていると言えると思う。


#雑記

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