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#27 大きくなったし(※本の感想あり)

こんにちは、神無です。
まだまだ暑い日が続いていますね。
「○○の秋」と言いますが、秋が楽しめるのはまだ先になりそうです。


私は本が好きなわけですが、これは両親の影響を強く受けています。
両親が読書家で、家にはたくさんの本があり、本に触れる機会が多かったので、自然な流れの様に思います。
母との会話で、本の話になることも少なくありません。
母が読んだことがあり、私が未読のタイトルであれば、
「面白いよ。読んでみたら?」
と勧められ、大まかなストーリーや面白いポイントを教えてくれます。
しかし、中学生か高校生の頃だったか、唯一読むことを止められたタイトルがありました。

それは、スティーブン・キング著の『ミザリー』です。

有名な作家さんですし、タイトルも有名ですから、ご存じの方も多いでしょう。
「本当に怖いから」と止められ、それに臆した私は、今まで律儀に『ミザリー』を1頁も捲ることをしませんでした。
最近、有名だけど読んでこなかった作品に触れることにハマっていました。
そこで、ふと『ミザリー』の存在を思い出しました。
今こそ読むときかもしれない。大きくなったし。
思い立ったがなんとやら。実家にあった文庫本を借りました。
そして、私は何年か越しに『ミザリー』のページを捲ることになったのです。

結論から言えば、私は大変充実した読書体験をしました。
なので、慣れないことですが、読んだ感想などを書いてみようかと思います。
以下、内容に触れますので、まだ読んだことのない方やネタバレが気になる方は、飛ばしていただくか、ここでお別れです。
いつものnote更新より大分長くなってしまいますが、お付き合いいただけますと幸いです。


【『ミザリー』感想】
物語は、小説家のポールが大怪我をし、意識が朦朧としているところから始まります。
後に、ポールは雪道で交通事故を起こし、そこに居合わせた彼のファンであるアニーという女性に助けられたことがわかります。
しかし、どうにもおかしい。
医療機関での治療を必要とするほどの状態にもかかわらず、病院へ連れていくどころか、連絡をいれている様子もない。
ポールはアニーに監禁され、彼女のために小説を書かされていく……。
といったお話です。

事前に、サイコホラーであることは予備知識としてあったので、アニーの異常行動に対しては心の準備をしていました。
しかし、最も印象に残っているのは残酷描写より、臭いや汚れの描写です。
ポールが人工呼吸をされたときのアニーの口臭、バケツの中の汚れた水、アニーが食い散らかした食べ物だらけの室内など。
思わず、読んでるこちらがえづいてしまいそうでした。
特に食べ物に起因する臭いなど、日本では馴染みのないものでも不快感が伝わってきたときは、その文章に感動しました。

また、ポールは鎮痛剤を飲まされるのですが、強い薬のため服用後は朦朧とし、そのまま寝てしまいます。
寝ているときに見ている夢なのか、単なる過去の回想なのか、ポールの想像なのか。
今読んでいるのがそのうちのどれなのか、わからなくなることが度々ありました。
読者が現在地を見失うとき、それがストレスになることもあると思いますが、その不安定さがポールの精神状態を表しているようで、むしろ面白くもありました。

ポールは監禁状態で執筆をするのですが、そのなかで度々“原稿用紙の穴”といったような表現をします。言い換えれば《没頭》《没入》といった言葉になるのかもしれません。
この“穴”という表現が、驚くほどすんなりと私の中におさまりました。
私も、時間を忘れるほど没頭して読んでしまう作品に出会うことがあります。
緩やかに集中していくことがほとんどですが、ごくたまに、高所から踏み外すように、没入状態に入り込むことがあります。
これも、ポールが言うところの“穴”を見つけたということなのかもしれません。
そして『ミザリー』は、そんな“穴”がある作品でした。


母は「怖いから、もう二度と読みたくない」と言っていましたが、私にとっては怖さよりも面白さが勝る作品でした。
もちろん怖いし気持ち悪いのですが、表現なのか構成なのか、なにかが私に刺さったようです。
これを表現する力がないのが、なんとももどかしい……。
評論や解説を書いている方って凄いですね。
では、また。