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大壹神楽闇夜 2章 卑 3賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) 1

 周国が衰退し既に二百年が経とうとしていた。名も無き島には大きな国、小さな国が点在する様に迄発展していた。其の中でマカラの作り上げた集落も例に漏れる事無く国に迄成長していた。
 国の名はハナ。意味は無い。ただ何と無くでつけた名前である。国となり長の呼び方も変わった。今では長を主と呼んでいる。賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ)はハナ国の主である。後を継ぐ娘を主子(ぬしこ)と呼び主子の名は丕実虖(ひみこ)と賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は決めていた。
 さて、このハナ国。人口は二千に迄増えていたが、此処までの道のりは簡単では無かった。理由は厳格な掟である。
 集落を滅し領土を手に入れても男を迎え入れない娘達は子作りに使った後は無罪放免で逃していた。女は迎え入れるが戦う事を知らない女は兵士としては使えないし、娘達の厳格な掟を守ろうとはしない。ましてや男子が産まれたら捨てるなど持っての外であった。だから、仲間にすると言うよりも奴婢として使うしかなかった。勿論、掟を守る女は仲間として迎えいれた。
 まぁ、奴婢と言っても仲間かそうで無いかだけの事だ。基本的に奴婢としての女には農作業等を任せた。だが、余り離れた場所で作業をさせると逃げ出したり、男が助けに来たりとナンジャラホイである。
 しかも、人口の割に治める領土が広かった為、知らぬ間に国を作られていたり、集落が出来たりと中々に落ち着く暇が無い。
 つまり、ハナ国はとても強い国だったのだが、其れを娘達だけで国を維持する事が困難だったのだ。
 其れでも何とか人口は二千人に迄増えた。しかし、既にその頃、海の向こうの島には大きな国が建国されていた。

 八重国である。

 建国者は迂駕耶(うがや)、島の名前になった男である。

「お、わ、り…。」
 と、伊都瀬(いとせ)は麃煎(ひょうせん)を見やる。麃煎(ひょうせん)は目を細め伊都瀬(いとせ)を見やった。
「伊都瀬(いとせ)殿…。意地悪は駄目だ。」
「いけんか…。」
「駄目だ。」
「続きが聞きたいじゃかぁ ?」
「聞きたい。」
 と、麃煎(ひょうせん)は伊都瀬(いとせ)の乳を揉んだ。
「これこれ…。そんな事をしよっても駄目じゃかよ。」
「なら、こうだ。」
 と、麃煎(ひょうせん)はくすぐった。
「うひょひょ…。わ、分かりよった。分かりよったじゃかよ。」
 と、伊都瀬(いとせ)は続きを話し始めた。


         大壹神楽闇夜

          二章 卑

     三 賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) 

 八重国が建国された話はたちまちに広まった。賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は先を越されたとプンプンであったが、皆は仕方ないでは無いかと思っていた。
 理由は矢張り掟である。国を治めるには男も迎え入れなくてはならないし、掟を守らぬ女を無理に引き入れても役に立たない。つまり、領土を奪い人を迎え入れるのでは無く、国が国を支配すると言う考えが無かったのだ。
 だから、ハナ国は大きくならなかった。
 否、この当時はそもそも其の様な概念が無かったのだ。
「しかし、迂駕耶(うがや)がとうとうやりおったじゃか。」
 八重国の方を見やりながら賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) が言った。
「じゃよ…。」
「つまり、次はコッチじゃ。」
「じゃよ…。」
「ムムムム…。此れは一度同盟を結びよるか。」
「同盟じゃか。」
「じゃよ…。巨大国家に対抗するには其れしかないじゃかよ。」
「じゃなぁ…。なら、朝廷を開きよるか。」
「頼みよる。此の戦、其方等将軍に掛かっておる事を忘れてはいけんじゃかよ。」
 と、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) が言うと千佳江はパタパタと皆を呼びに行った。
「賈具矢…ら、ら、ひ…。」
 賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) を呼びに来た娘は舌を噛んだ。
「何を焦っておる。」
「否、其の長い名前何とかなりよらんか ?」
 葉沙希(はさき)が言った。賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) …。此れは賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) が自分で付けた名で本名は夏夜蘭(かやら)である。
「これでええんじゃ。長い方が偉く思われよる。」
「じゃかぁ…?」
「じゃよ…。其れでどうしよったんじゃ ?」
「そうじゃ ! 産まれよったんじゃ !」
「な、な、なんと…。とうとうじゃか。」
 と、言うやいなや賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は大慌てで詩花妹(しかめ)の所に走って行った。
「其れでどうなんじゃ ?」
 賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) が問う。
「何がじゃ ?」
 後を追いかけ乍ら葉沙希が聞き返す。
「分かりよらん。」
 と、二人は集落の中をパタパタと走り詩花妹の下にやって来た。
「詩花妹 !」
 賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は竪穴式住居に入るなり詩花妹の所に駆け寄った。
「お〜。夏夜蘭(かやら)」
「違いよる。賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) じゃ。」
「夏夜蘭(かやら)で良いではないか。」
「いけん。」
「あれは舌を噛んでしまいよる。」
「其れよりベイビーは何処じゃ ?」
 と、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) はキョロキョロと周りを見やる。
「此処じゃよ。」
 と、赤子を洗い終わった娘が赤子を賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) に見せた。
「お、お〜。その子が霊夢の子じゃか。」
「じゃよ。其方が夢に見よったお告げの子じゃ。」
 と、娘は赤子を賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) に優しく渡してやった。
「な、な、な、なんと不細工な子じゃ。」
 と、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は優しく抱き寄せる。
「其方、目が腐っておるんか ? カワユイではないか。」
 詩花妹が言った。
「う〜。じゃよ。ブサカワユイ子じゃ。」
 と、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は嬉しくて堪らなかった。夢に見たお告げの子。此れは代々の長から主だけが見る夢である。其れは偶々かも知れないし、ただの思い込みかも知れないが、娘達が世継ぎを夢任せにしていた事だけは確かである。
「矢張り当たっておった。我の霊夢は確かじゃったんじゃ…。」
「じゃよ…。」
「カワユイじゃか…。良い。其方の名は丕実虖(ひみこ)じゃ。」
 賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) が言った。其の命名に周りにいた娘達は眉を顰め賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) を見やった。
「何故、丕実虖(ひみこ)なんじゃ ?」
 詩花妹が問うた。
「じゃよ。詩花妹の子じゃからシミコじゃか。」
 葉沙希が言う。葉沙希が言う様に既に此の時代から娘達の数が増えたので、初めの字は産みの親の字を使う様になっていた。
「ダサイからじゃ。丕実虖(ひみこ)の方がカワユイじゃかよ。」
 と、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は強引にその子の名を丕実虖(ひみこ)にした。
「まったく…。」
「ええんじゃ…。此の子は国を守る英雄になる子じゃ。じゃから、ええ名を付けてやらねばいけんのじゃ。」
 と、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は丕実虖(ひみこ)を詩花妹に渡した。詩花妹はニコリと笑い賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) を見やる。
 ふざけて言っている様に見えるが、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) が何日も考え抜いた名である事を詩花妹は知っている。だから、丕実虖(ひみこ)で良いと詩花妹は思った。
「夏夜蘭(かやら)ここにおったじゃか。」
 パタパタと竪穴式住居に入って来た娘が言った。
「これ、静かになされよ。天子が寝ておるんじゃ。」
 賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) が言った。
「天子… ? ひょっとして産まれよったんか ?」
「じゃよ…。」
 と、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) はチロリと丕実虖(ひみこ)を見やる。
「な、な、な、何と…。カワユイじゃかぁ。」
 と、娘は丕実虖(ひみこ)に顔を近づけジッと見やった。
「其れより何がありよったんじゃ ?」
「それじゃ…。南の集落で反乱じゃ。」
「又じゃか…。この前は西の集落、今度は南じゃか…。」
 と、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は溜息を吐き外に出て行った。賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) はテクテクと歩き乍ら南の方を見やる。集落や国をどれだけ攻めて制圧しても、統治が出来なければ国は大きくはならない。
 反乱、反乱、又反乱…。最近反乱に振り回されている。
 どうにかならぬかと賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は考える。既に迂駕耶(うがや)は大きな国を作ってしまった。此のままでは奪われてしまう。集落の中をテクテク、テクテクと歩き考える。

 矢張り…。

 実行するしかありよらんか。

 と、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は兼ねてより考えていた策を実行する事にした。

 賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は公務を行う竪穴式住居に行くと木の筒を叩いた。招集の合図である。そして、中に入り将軍が集まるのを待った。
 ハナ国には城が無い。否、どの国にも城何て物は無い。そもそも都が無い。都が無いから店や商業施設も無い。だから、文化も無い。有るのは竪穴式住居と田畑である。そう言うと唯の集落では無いかと思うかも知れないが、其の集落の集まりが国なのだ。
 海の向こうの国には必ず都があり、城がある。だから、店や商業施設があり文化がある。だが、此処には無い。そもそも国と言う概念其のものが違うのだ。
 昔の記憶が今に残る。だから、都を作り発展させる何て余裕が無かった。兎に角国を纏めて大国を作らなければならなかったのだ。だから、武器や技、戦略が発展しても生活は発展しなかった。 
 つまり、領土を奪い其処に新たな集落を作り、又領土を奪い集落を作る。そうやって国を大きくしていくのだ。だから、一つの集落を奴婢に任せてしまうとある日突然誰も居なくなった何て事もある。安易に奪われる事もある。だから、勝手に国を作られたりもするのだ。要するに領土を広げるには人が必要なのだ。
 賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) はチョコンと座り皆を待った。暫くして将軍職を担う二十人の娘達がパタパタと集まって来た。賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は皆が集まるのを見計らい言った。
「皆に集まって貰いよったんは…。」
「分かっておる。同盟の話を進める為じゃな。」
 李梨花が言った。
「違いよる。」 
 賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は即答した。
「違いよるんか ? さっきそう言うておったじゃかよ。」
 千佳江が問う。
「我はさっきの話をしよる為に呼んだわけではない。」
「違いよるんか…。」
「じゃよ…。我は新たな機関を開設しよる為に皆を集めよったんじゃ。」
「新たな機関 ?」
「そうじゃ。右主と左主じゃ。」
「右主と左主 ?」
 皆が口を揃えて言った。
「じゃ。皆も知っての通り、此の国の地盤は豆腐じゃ。直ぐに崩れてしまいよる。反乱に次ぐ反乱が後を絶ちよらん。其れに幼子の教育も親任せじゃ。今迄は其れで良かったかも知れよらん。じゃが、この先は違いよる。我等は一つにならねばならん。それと、我等には情報も無い。此れでは相手の動きが分からず後手に回ってしまいよる。」
「じゃよ…。」
「じゃから、右主と左主じゃ。」
 と、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は自分の横を指差し乍ら言った。
「其れで、具体的に何をしよるんじゃ ?」
 煤女(すすめ)が問う。
「先ず、右主には国の治安維持と幼子の教育を任せよる。今迄は娘達に役割はありよらんかった。じゃから、役割を持しよるんじゃ。各集落の反乱を未然に防ぎ此れじゃ。」
 と、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は首をかっ切る仕草をして見せる。
「成る程じゃ…。」
 葉月が言う。
「其れから、幼子は共同生活をさせよる。親から離して厳しく育てねばいけん。我等が歴史、我等が技を同じ様に学びブレを無くしよるんじゃ。」
「其れはええ案じゃ。其れで幼子はいくつから共同生活を始めさせよるんじゃ ?」
「五か六か七か八じゃ。」
「分かりよった。其れで誰が右主を務めよる ?」
 千佳江が問う。
「其方じゃ。」
「わ、我じゃか ?」
「じゃよ…。」
 と、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は自分の左に座る様に指差した。
「そこは左じゃかよ。」
「良い。我が此処じゃぁ言うたら此処なんじゃ。」
 と、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) が言ったので千佳江は賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) の左に座った。
「其れから、左主には情報収集を主にして貰いよる。左主は実儺瀨(みなせ)、其方に任せよる。」
「我じゃか。」
「じゃよ…。」
 と、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は右に座る様に指差した。実儺瀨は賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) の右横に座る。
「其れから将軍には主、右主、左主の三つに分かれて貰いよる。娘達も同じじゃ。して、此れからは各々の役目に対して行動する様にじゃ。」
「其れで、娘はどの様に振り分けよるんじゃ ?」
 千佳江が問うた。
「右主には責任感の強い娘、教えるのが上手い娘を選ぶと良い。左主には強かな娘が適任じゃ。」
「なら、皆が左主になってしまいよる。」
 実儺瀨が言った。
「其の中でも更に強かな娘を選ぶんじゃ。」
「分かりよった。」
 と、言うと賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は朝廷を終わらせてテクテクと竪穴式住居から出て行った。残された娘達は誰がどの機関の将軍になるか議論を始めた。

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