松山勘十郎【大衆プロレス松山座・座長】
語り:松山勘十郎、構成:佐野和哉 座長・松山勘十郎が率いる大衆プロレス松山座。その源流となった異世界の存在「松山家」。松山座を彩る怪優奇優達、松山勘十郎の思想世界のルーツに初めてメスが入る。
3人は越後と陸奥の境となる御神楽岳より漂う異様な瘴気、 猛烈な血生臭さを感知した事を受け、 この越後山脈に連なる豊かな山へと向かった。 異界に在って現世を観る松山家では、 人間には見通せぬ気や波動と言ったものも感じ取る事が出来た。 そしてこの鬼の潜む御神楽岳から漂っていたのは、 この上のない憎悪・この世の全てを忌み嫌い続ける呪詛。 もはや留まるところを知らぬ殺意そのものであったと言う。 それは道の鋭い第六感にも大いに訴えてきた。 「篁殿、河内殿……この戦、拙僧の命に代えても勝
それから約半年後。 遅い春を迎えようとする越後国のあちこちで不気味な噂が流れ始めた。 山間の村から子供が連れ去られ、また山に入った子供が戻らなくなり、 数日後には屍となって発見される事件が多発している……。 それも獣のように獰猛に襲い掛かられ、 しかし刀で切ったように鋭い切り傷を浴び、 そして全身の肉や腸は食い荒らされていたという。 その凶行は鬼の仕業とされ付近の住民に恐れられた。 麓の住民達は子供を決して山には近付けず、 夜には外に出さないように用心を重ねた。 すると暫く
忘れもしない、瞼の奥で白い閃光と共に浮かび上がる影。 車座になって上機嫌で酒盛りをしている賊どもは全部で4人。 その長らしき男は長髪に濃い髭を生やしており右目が刀傷で塞がっていた。 手下同士は名前ではなく暗号で呼び合っており 甲、乙、丙という3人組は些か若く長の息子のようであった。 間違いない、俺の家族を皆殺しにした賊どもは彼奴らだ……!
村の衆が弔ったのだろう。 しかし自分達の墓所とは隔てるように、 こんな人里離れた山の中にぽつりと埋められているとは。 まるであの忌まわしい出来事の記憶と共に、 善吉達の存在まで忘れようとしているかのように。 「自分達だって必死で生きているんだ」 家族を皆殺しにされた少年に 誰一人として救いの手を差し伸べようとしなかった。 そんな自分達を正当化するための、 せめてもの自己弁護行動であったとは想像に難くない。
文治五年。 出羽・陸奥での奥州合戦終了後も続く混乱は越後の国にも深く及んでいた。 人々の暮らしは困窮し、土地は荒れ果て、 厳しい冬を前に文字通りの暗雲が立ち込める。 そんなこの地で貧しい農民の長男として育った善吉は、 近在の集落では少々知られた存在であった。 貧困と少ない食糧事情故、 摂取した栄養は全て無駄なく取り込もうとする体質。 それに加えての日々の重労働が彼の肉体を鍛え上げ、 齢十二歳にして大人顔負けの膂力(りょりょく)と子供ならではの 敏捷性を備えていたのだ。
座長・松山勘十郎はそこまで語った後、彼の目はさらに輝きを増す。 物語はいよいよ佳境に入って行くのだ。 それらを書き纏めたものを記し、この章を終わりたいと思う。
身長と体重等の規定はなく、 あくまで本人の熱意と素質を重視してした校風は 拙者にとっては渡りに船だった。 創始者であり校長でもあるウルティモ・ドラゴンの存在は 拙者にとってどれ程大きかった事か。 闘龍門出身のレスラーは今も数多くの団体に現存している。
当時の分類の仕方で言えばメジャー、インディー、女子と 観戦に行った団体も様々。 また今となっては貴重な観戦経験となった団体も少なからず存在し、 その事も現在公演を行う上で大切な一期一会の心掛けとなっている。
子供相手には正直難しい内容だったと思う。 それでも母上は根気強く拙者が理解できるよう根気強く諭してくれた。 「[人を呪わば穴二つ]という諺があります。 あんただって人間だもの、友達の中でも憎い奴だっているわよね。 子供だって大変よね。 でもね、一族からの期待を背負って生まれた勘十郎がそんな事では駄目。 安易な方法で自分の憂さを晴らすようでは駄目って事よ。 もっと違う形で方法で現状を打破できる時は必ず来る。 あんたは特別な星の下に生まれたのよ、 一緒に頑張って歩い
全てを見透かされるような気がする日光よりも、見て見ぬフリをしてくれているような気がする月明かりが好きだ。 必要以上に急き立てられる気がする青い空よりも、一時的にしろ全てを包み隠してくれるような穏やかな黒い空が好きだ。 人為的な灯りも、完全なる闇も、全てはソノ手の中。
松山家のDNAに備わる探求気質がそうさせたのかな。 内側の世界形成に気付き始めたのもこの頃からだった。 俗世で言うところの「典型的なオタク気質」。 それも原因だろうか、まぁ所謂イジメを受けた経験もある。 そうそう、一度こんな事があってね。 小学校四年生ぐらいの頃に、 憎いイジメっ子を呪ってやろうとした事があった。
コチラを覗いてるつもりでイタデショウ? それは同時にコチラからも 覗かれているというコト。 この世はどこまで行っても覗きカラクリ。 覗き覗かれ生きていき魔性。
1984年4月、13日の金曜日。 一人の男児が産声をあげた。 のちにプロレスラーとなり 大衆プロレス松山座を旗揚げする松山勘十郎である。 その全ての始まりが、この日だった──
絶え間なき芸能への愛一時は枯れ果ててしまったと思われた幸乃の妖力も 長い年月をかけて再び蓄えられていったが、 それを争いの為に使う事は滅多に無かった。
己の中に「狂気」という引き出しが 備わったのを最初に自覚したのは、 拙者が幼稚園から小学校に上がるぐらいだったと記憶している。 そこに「残酷」や「猟奇」といった要素が追加されて行くのは もっとずっと後の事で、 「狂気」の引き出しに最初に収納されたのは 意外にも「おそ松くん」だった。 アニメもリアルタイム視聴者だった拙者だが原作の漫画本の方ね。 タイトルこそ「おそ松くん」であるが後半の主役の座はすっかり イヤミに奪われてしまっていた印象が強い。 拙者が幼少の頃初めて目にしたエ
幸乃の変身そしてもう一人。 今や墨辰の最愛の女・幸乃は醜い巨体にみるみる変化した。 谷底より這い上がったその姿は、鳥にあらず魚にあらず獣のようでもなく。 真におぞましい未知なる生物となった。 燃え盛る炎に照らされて粘液に覆われた銀の鱗が光る。 真っ赤に引き裂けた口から無数の牙が並び、 爛々と輝く瞳が宝玉のように輝く。 これこそが幸乃の持つ力の一つ、妖魔の姿だった。 「化け物め!!」 同じくその場に集まっていた落ち武者狩りの農民達は 鎌や竹槍を武器に雪乃へ立ち向かう。