見出し画像

「ユーコンを流れる」2019 ユーコン川344km、8日間一人旅⑥

5)3日目(8/30) 「オーロラに驚嘆」

 この朝も冷え込み、5m先も見えないほどの濃霧であった。こんな濃霧は初めての経験だ。そのうちに晴れるだろうと思っていたが、朝食、テントの撤収などの準備が終わっても、まだその気配がない。危険だとは思ったが、距離が稼げていないという焦りがあって、出発した。

ユーコン川の朝霧

「朝霧の 中に漕ぎ出す 古稀ひとり」

 しかし、1時間もすると昨日と同じように霧が取れ、すっかりいい天気になった。朝の冷え込みは、いい天気の兆しなのだ。

 昼前に、昨日見たボートが止まっていたのでカヤックを寄せると、昨日のカナダ人夫妻が友人とキャンプをしていた。コーヒーをごちそうしてくれ、何か欲しいものはないかと気遣ってくれた。昨日、私が中洲にテントを張ったのは賢明だと言っていた。日本では狼が絶滅したという話をした。彼らは魚釣とキャンプであるが、犬数匹と大きな銃を何丁か持っており、私とは装備の規模が違っていた。

 連日パドルを漕いでいるので、無理がたたって、とうとう両手にできていたマメが潰れた。それでも、痛さをごまかしながら漕いだ。カヤックの旅のいい点は、自分が気に入った場所でキャンプが出来ることにある。しかし、この日は、適当なテント場がなかなか見つからず、捜しながら20時頃まで漕いでしまった。それ故、テント設営後に、夕食の準備をするには疲れ過ぎており、夕食は取らなかった。
 このテント場は広い中洲なので、クマ対策にはいいと思ったのだが、後で散策すると一方の瀬が浅く、付近に新しい熊の足跡を無数に発見した。しかし疲れすぎて、今更移動することもできない。緊張して、よく眠れなかった。

 夜中にクマを警戒して目が覚めて、食糧を置いているカヤックの方に目をやると、空に白い筋状のものが動いていた。雲かと思ったが、初めて見る者にもそれがオーロラであることが、すぐに分かった。靴も履かずに、思わずテントから飛び出した。北の中空にレースのカーテンのようなものが揺れていた。「凄い」と思わず声が出た。それがずっと東のほうに流れて消えたので、これで終わったのかなと残念な気持ちでいたら、また端の方から始まった。飽きることなく天体のショーを見続けた。

 北極圏に近いので、この付近でオーロラが見えることは分かっていたが、それは厳冬期のもので、まさか8月末に見えるとは考えてもいなかった。だから、その分、驚きと感動が大きかった。しかし、その気持ちを分かち合える人が隣にいないのが残念であった。それに加えて、もっと画素数が多いカメラを持って来なかったことも。

ユーコン川のオーロラ

「オーロラの カーテン揺れる ユーコン川」

 この体験で、今回の旅は一気に豊かなものになった。「来てよかった!」。気持ちのどこかに残っていた後悔は吹き飛んでいた。この旅でオーロラは3回見た。しかし、この時のものが一番よかった。
 ただ、カナダではイエローナイフの方が有名なようだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?