【小説】あのこは元気か

あのこは元気か。父に言われて操はだれのことやらさっぱり分からなかった。思い当たる節ならいくつも、それこそ、石ころ並の存在感であるものこ存在はする。

近所に今もいるかもしれない小学の友だち。

中学校で卒業式で私たちまた会おうね、約束だけてして盛り上がって全員がそれで満足したらしくて、操とてそうで、それきりの当時の親友。

あと家に遊びに来た集団のうち、父と会ったのは、あいつ、あのひと、あのこ。けっこういる。

(誰さ?)

変なものだな、操は不快なモヤをおぼえる。

父たちの時代の方が、連絡なんてつかなくて電話の受話器の前でしか会話ができなくて? しかも受話器は、コードで電話本体に繋がってるとか。

なんて酷いプライバシーの侵害、イヤな時代だったんね、操は思う。

しかし、そんな世代の父は言う。

「あのこは元気か」
「あいつとは連絡をとっているのか?」
「……友達は大切にしたほうがいいぞ……」

(うっっざ)

操は、知らん、SNSで探せば居るんじゃない、てきとうに答えてリビングから逃げる。

変な話にしか思えなかった。

そちらの時代は不利で、連絡もろくにとれず、メールすらないのに。友だち、ともだち、連呼する。

そしてなぜか、父の友人は、確かに操よりも多いようだった。

でも、

(あのチャンネル見よ)

確実に、今のが充実した人間関係だ、操は、自信をもって言い切れる。


なんせ身近に感じる人たちなんて。
山ほど。たくさん。どこにだって、チャンネル登録者を求めて、視聴者を求めて、いくらでも、親身になれるひとたちは、居るんだ。

イイ時代だ。

操には、古き世代の慣習なんて、友情なんて。

馬鹿らしいばかりである。


END.



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