ぼくらそぼろほくろだぼく
夢を見ていた。
私は、夢の中でメンタリストのDaiGoを精神的に追い詰めようとしていた。我ながら、なんて大胆不敵なんだろうか。
まず、私はDaiGoを椅子に縛り付ける。そして、映画『時計仕掛けのオレンジ』でお馴染みの、主人公アレックスがいかつい器具で強制的に目ん玉さらけ出し状態にさせられ目薬なんかもポトリポトリ落とされ、残虐な映像を見続けるあのシーンのように、とある動画を延々と見せ続ける。
その動画とは、YouTubeで大事MANブラザーズバンドの「それが大事」を53歳の一般人男性がカラオケで熱唱している、再生回数が216回の動画だ。
そして、動画を見せている間にDaiGoの使っている電子機器をすべて山積みにして、トマトソースで炒めていった。
そうして出来上がった料理をまだ温かいうちに蛍光灯のホワイト的な光の下で撮影したら、クックパッドにアップロードしよう。
明らかに撮り直す必要性を感じさせる、ひどく不味そうに映った写真を添えながら、私はレシピを打ち込む。
①まずご家庭で不要になった電子機器をかき集めます★
(見つからない場合はハードオフのジャンク品のかごを漁ってください★)
②深めの鍋に電子機器を入れトマトソースで炒めます★
レンジでの加熱は基盤が爆発する恐れがあるので注意してください!!
【ワンPOINT!】炒める前にスマホから抜き取ったSIMカードは細かくちぎってオリーブオイルに漬けておくと香りが引き立ちます★
もちろん、レシピのタイトルは
「簡単!太陽SUNSUNトマトソースの電子機器炒め★」だ。
検索数のランキングは安定して387256849位のままだったが、
1週間後「ともくんママ♪」というユーザーから
「しらすを足して作ってみました。普段はコアラのマーチしか食べない我が家の5歳児も完食です(^▽^)/」
というつくれぽ(=感想コメント)が返ってきたので、私はともくんママ♪のつくれぽをA4サイズにプリントアウトしたものを100枚用意して、DaiGoの部屋中に丁寧に張っていった。
そして私はDaiGoに
「たくさんの人の中にいると、涙がでてくるでしょう?私たちは集団に安心させられ、集団に不安にさせられるんだよ。かわいそうだね?君はとってもかわいそうだね?」
と耳元で囁く。
発信や受信するためのすべての電子機器をトマトソースで炒められてしまったDaiGoは、原始的な手段でもって耳から、私の音声を直接受信する。DaiGoはその頃には、目の際ギリギリのとこまでたぷたぷに涙を溜めはじめていた。その姿を見て(まぁ、そろそろ頃合いだろう)と考えた私は、DaiGoに骨伝導のイヤフォンをつけて、本物の大事MANブラザーズバンドの「それが大事」のCD音源を流してあげる。DaiGoの脳のわずかに空洞になっている部分に本物の音源が響く。
53歳の一般人男性がカラオケで熱唱している、再生回数が216回の動画の「それが大事」を繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し聞いていたDaiGoは、本物の音源を聞いて、その違和感に発狂してしまう。
DaiGo「これじゃない!これじゃない!やめてくれ!もう!止めてくれ!!!!!」
53歳の一般人男性がカラオケで熱唱している動画は、その時点で1万6709回の再生回数を叩き出していた。そのうち1万6477回がDaiGo、32回が投稿者の男性本人、5回が私、194回がネット中に住みつく暇人たち、そして残りの1回が投稿者の男性と数年間会話をしていない反抗期の息子が見たものだった。
私はDaiGoの涙をすべて拭いて、母親が子供に絵本を読み聞かせるようにやさしい声色で話しかける。
「君の想像力は欠如しているから、私は簡単に君の予想した(最悪のシナリオ)を飛び越えることができるんだよ」
君の(最悪のシナリオ)ってなんだ?
君が死んじゃうことか?
君のママやパパが死んじゃうことか?
君の愛してる人が死んじゃうことか?
私が君の愛してる人を刺し殺すことか?
私と君の愛してる人が愛し合うことか?
私と君の愛してる人が一緒に上野公園に行き、桜を見たり、一緒に缶チューハイを飲んでひと口ちょーだいなんて言いあったあと、近くの河原に行って、一緒にホームレスをボコボコにして、たまたまその現場を通りすがった君に「あっ、来てたんだ(笑)」と声をかけることか?
それとも、いま目の前で私が死んじゃうことか?(それはないよね)
ここで私は言語的な考えを張り巡らせたせいなのか、一旦、起きた。
なんだか、寝苦しかった。普通に嫌な夢だった。
DaiGoのことをそんなに嫌っていたのかなあと少しショックを受けて、ちょっとマジでかわいそうなことをしてたし、あ〜もう、なんかなぁ…と思いながらiPhoneで時間を確認するとまだ朝の4時前で、しばらくするとまた眠くなってきた。
・・・
眠すぎる。今、私は冬眠してるのか?もうすぐ夏が来るっていうのに?
もしかして目覚めたときには何もかもが消滅していて、焼け野原となった世界のずっと遠くに、ただ一軒ポツリとラーメン屋があって、そこに入って、ワンタンチャーシューメンを頼むと、裏技みたいに自分の赤ん坊のころの写真がでてくるんじゃないか?
ぼんやりそんなことを考えているうちにそれは頭の中でイメージとなって、そのまま夢になっていった。
私はラーメン屋で自分の赤ちゃんのときの写真をジロジロニヤニヤと眺めている。
それは無意味に白黒で印刷されていて、いやだな、これじゃあ私が昔の人みたいだ、と思いながらも懐かしむ。
小さな私を抱いているのは父親だろうか。
でも、その顔には包帯がぐるぐる巻きと巻かれている。しかも私の父親はこんな、こんなだったか?よく見ると、後ろは墓地だし、写真の隅には「1934.1.26」と書かれている。
ここで私はようやく、この写真は自分ではないことを悟った。
心臓が止まりそうになる。
写真が何かを語っている。
私はそっとテーブルに写真を置き、店を出る。
店の前には、女が仰向けになって、ZARAかどこかで見かけたような変わったデザインのドレスを着て倒れている。そして、微笑んでいた。
きっとお気に入りの服なのだろう。
お気に入りの服を着ている女は、自信に満ちているから、怖い。
私は眼をつむって、その場で恐怖を耐えた。
手をギュッと握って体中に力を入れた。
女が微笑みを崩さず「怖かったら逃げろ。でなきゃ死ね」と言った。(ように聞こえた)
私は「目には目を歯には歯を」と念じながら、その場でそのまま寝転がった女の顔を思い切り蹴りつけた。さながら、気分はやけくそになったときの碇シンジだった。
女の首は、何回も蹴りつけるうちにもげた。
すると、首の中からは「ハワイペア旅行チケット応募券」が飛び出してきた。まるでピニャータ人形みたいだ。メキシコとかで子供の誕生日などに使われる、中にお菓子やおもちゃなどを詰めたくす玉みたいなあれ。
と思っていたら、本当にそれはピニャータ人形だった。よく見るとZARAかどこかで見かけたような変わったデザインのドレスを着て倒れている女ではなく、ユニコーンを模した、ただのピニャータ人形だった。こんなことってあるんだ。
私は「ハワイペア旅行チケット応募券」を手に取りながら、ツーステップで移動する。夢の中だからか、ふわふわしてうまく移動できなかった。素敵なことをそのまま素敵と思えたらどれだけ素敵なんだろう。
きっとこれは神様の嫌がらせだ。
ハワイなんて150年前に滅びてる。