「生きる☆サブカル青年」⑥
細長くて白黒のボーダーシャツを着た藪蚊みたいなつーちゃんを早朝の薄暗い自室に招き入れると、僕は早速最近の違和感について話そうと頭をフル回転させていたのだが上手く言葉が出ずにもじもじした感じでいる。
それはそうと、ここ最近の“僕の考えに現実が合わせてくれる感じ”というのも、よくよく考えたら違和感を感じる程の事でもない。
こんな風に感じたら多少マシかも、退屈しのぎにこう感てみたら良かろう、そう考えてそうしたから、それに見合う現実が出来上がる、そんなの考えるまでもない当たり前のことで、僕はまずそんな当然の結果に違和感を覚える事に違和感を覚えるべきなんである。
いつも僕の頭の中は縦横無尽に脈絡のない雑多なものが、忙しなく飛び交っている。注射痕だらけのジズ君が中谷彰宏の本を愛読してるグロさや、向かいの家の子供が夜にシャボン玉吹く様子の機械っぽい感じ、駅前のウェンディーズのお姉さんの白い制服の健全過ぎるエロさとか・・・・・
『森君?大丈夫?今日は宇宙との交信長くね?』
思考の濁流の合間を縫って、つーちゃんのまあまあ威力のあるデコピンのようなスタッカートの効いた声が耳に刺さる。
「あ?・・・うん。話そうと思ってたこと考えてたら、いつの間にかウェンディーズのお姉さんの制服のエロさについて・・・」
『はぁ!?もう何なんそれ?やっぱ森君の事は心配するだけ無駄だわー』
突っ込む気力もないほど呆れ顔になったつーちゃんは、それでも無言でコーヒーを淹れてくれた。いつも財布に小銭くらいしか入ってない僕の家にコーヒーなんていう高級嗜好品があるはずないので、それは彼女がわざわざ持参してくれたコーヒー違いないんである。
暫くの間そのコーヒーをちびちびと在り難く頂きながら、特になんて事も無いような会話をしつつ仕事に行くつーちゃんを見送ると、部屋静かになったので早速さっきの雑念の続きをやることにした。
たぶん僕は薄々気づいていたのだ。あの違和感の正体は、僕自身と僕の雑念から出た現実が耐え難いくらい虚ろで退屈なもの以外では在りえないのだと言う事実を否応なしに突きつけるために、僕の中のまだマトモな部分から這い出てきた切実な感覚なのだろうと。
そうだとしても、それが分ったからって何かが変わるわけでもない。
現代的アナーキーだの前衛表現だの、狂ってるアウトサイダー的スタイルでありながら根源的には古典的ですらある正統派だのって、僕を取り巻く世界はやっぱりそんな誤魔化しばっかで暇潰しにもならない。
だから僕は印刷所の村元さんの謎の生命力や、あずきバーの暴力的な固さを頭の中で茶化して独りでニヤついてみたりもする。
きっと虚ろで退屈極まりないだけの勘違い屋達の作ったアートぶった実験映画みたいな現実に適当に意味付けたり茶化したりしていないとやってられないんだろうと分ってはいる。
それで僕はそんな風に行き当たりばったりに今を誤魔化すばっかりなんで、奇妙な違和感が無い方がおかしいんである。
それで僕はこれから居心地のいい場所を求めて朝昼夜と彷徨い歩くんだろうけど、僕にとって本当に居心地のいい場所ってどんなだろう?
それはそうと、最近急に雨ばっかり降るようになってきた。
それで目に入ってくるものと言えばビニール傘ばっかりだ。
コンビニで沢山売ってる少しベタベタしてる白い透明のやつ。