【エッセイ】『今色づいた世界へ。』
僕はずっと2次元の世界に依存して生きてきた。
近所トラブル、しょうもない喧嘩やいじめ。現実は正直ごみのようだった。
「なんで僕がこんな思いをしなくちゃいけないんだろう」と何度も思った。
そのたびに現実から目を向けず、ずっと逃避していたんだ。
でも今は前よりも現実に目を向けられるようになった。
実は前に進めるようになったきっかけがある。
それは「推し」というものを失ったことである。
今日はその話をしていこう。
「推しを失う」ということから学び色づいた僕の世界を見てほしいと思う。
最初にこれだけは知っておいて。
2次元の世界は今も大切な居場所だ。あと推しのことは今でも好きだ。
これを忘れずに読んでくれると助かる。
僕が推しを失ったのは少し前のこと。
その推しとは知っている人もいるだろうか。
元にじさんじ所属ライバーの「黛灰」である。
推しがいるだけでごみのような現実でも生きていられる。
僕にとって彼は生きる希望だった。
しかしある日いつものようにTwitter(現X)を見ていると、僕の目に移りこんできたのは推しではなくある文章だった。
「この度、2022年7月28日をもちまして、当社所属ライバーの「黛灰」が卒業することとなりました。」
その瞬間思考が停止した。何が起きたのか理解することは不可能だった。
卒業?意味が分からない。
きっと間違いだ。ドッキリだ。そうか、エイプリルフールか。
そう思いカレンダーを見ると女の子がのんきそうにアイスを食べているイラストに「7月」と書いてあるだけであった。
僕はなにか変な感覚に襲われた。
鳥肌がブワっと立って体が寒くなった。
ティッシュを何枚も出しては意味もなく鼻をかみ、花が切れて赤くなったところでやっと正気に戻った。
正気に戻ったといってもまだ精神は安定していない。
何とも言えない気持ちが心の中で渦を巻いて、その日は夜の7時に寝た。
そしてその気持ちの正体が分かったのは彼が卒業してからだ。
知らせ告知配信、3回にわたる生前葬、そして卒業配信配信。
ファンの人なら泣くであろう配信において、僕は泣くことができなかった。
僕がこみあげてきた感情はただ一つだけ。
「恐怖」だ。
推しを失うことが怖かった。
さっきも言った通り僕にとって彼は、「黛灰」という存在は、生きる希望になっていた。
「その「黛灰」という存在が消える、という事は生きていられなくなるという事ではないか?」
そう思って怖くなったのだと思う。
黛灰の卒業にのコメントには
「寂しいけど頑張れ」という趣旨のコメントであふれていた。
少し暖かさを感じたが僕は一層怖くなった。
皆強い。前を向いている。推しの希望を願ってる。その明るさが、その時は怖くてたまらなかった。
その時僕はハッとした。
僕は「黛灰」を「生きる希望」としか見ていなかったのか。
自分で自分に問いかけ、考えた。
確かに彼は僕の生きる希望だ。
しかし僕は彼の内面が好きで「生きる希望」としていたのだ。
彼は「生きる希望」である前に「推し」である。
でも「推し」を「生きる希望」として自分のために扱っていたのか…?
どんどん考えが出てくる。
もうよくわからない。すべて言い訳な気もしてきた。
またなんだか怖くなってきて、ふううと大きいため息をついた。
すると僕のほほを何か生ぬるいものが伝った。
これは…涙?
その時「恐怖」が「罪悪感」に変わった気がした。
僕は泣いてしまった。自分のことで泣いてしまった。
黛灰の卒業で泣きたかったのに。黛の卒業で泣いて前を向いた人たちのように自分も黛の卒業があっても生きていきたかったのに。
…生きていきたかった?
今自身が思った言葉がもう一度頭の中でこだまする。
そしてようやく自分の言葉を理解した。
そうだ、僕は。
生きていきたかったんだ、
僕が2次元の世界にいる理由をもう一度考えてみた。
それは「生きていくため」であった。
2次元に生きていくための理由を見つけないと現実で生きられない。
僕は弱く、もろいから希望を見つけないといなくなってしまわないといけない気がして。
でも今、「黛灰」という生きる希望を失っても涙も流さず生きているじゃないか。
2次元の世界に、黛灰に、僕は救われたんだ。
もうとっくに救われていたんだ。それに僕は気づいていなかった。
そう思ったとき、ふいに窓の外に目を向けた。
僕は大きく目を開いた。
世界がどんどん色づいていくのだ。
赤、黄色、緑….。世界はこんなに美しかったんだと初めて思い知る。
でも同時にまた「怖さ」がこみあげてきた。
世界に色がつくたび、灰色が…「黛灰」が消えていく。
また現実が嫌になった時、僕はどうしたらいいのだろう。
少し考えて僕は黛のyoutubeチャンネルを開いた。
その時僕は「黛灰」の存在が消えていないことに気づいた。
そっか。つらくなったらまた戻ってくればいい。ここに「黛灰」は存在しているのだから。
そう思いスマホを見るともう午後3時を回っていた。
今日は出かけてみようかな。
僕はスマホの中に灰をしまい、色づいてきた世界に一歩足を踏み出した。
面白いな…と思ってくれたらスキしてくださるととてもうれしいです。
ついでに感想などをコメントしてくださるともっと嬉しいです。
つたない文章ですがここまで読んでいただきありがとうございました。
2024 June 29. 歌ノ儚