【魚食と科学】カツオの味噌漬について
私「かにへー」が論文を読んだりして得た、魚食の科学的知見を整理していくコーナーです。
(科学者では無いため、分かりやすさを優先した表現で整理しています。詳しい根拠や結果を知りたい方は下部記載の参考とした論文をご確認下さい)
材料
カツオ肉:南太平洋産1本釣り船上凍結カツオの、背側のロイン約500g
※恐らく歩留りを考慮すると元の魚体は3-4kgあったと思われる
味噌:麦すり味噌(キンコー醤油製)成分は水分46%、塩分10.5%、pH5.0
カツオの味噌漬:上記カツオのロインと同量の味噌で漬けた
※市販の味噌を希釈せず、そのままたっぷり塗っているイメージ
冷凍味噌漬けガツオ:上記味噌漬けを味噌を除去し-20℃で冷凍したもの
まとめ
・カツオ肉は塩分10%程度の味噌漬けにより、筋組織が良好に保持され保存性が高まる。30日間冷蔵保管しても腐らず美味しく食べれる。
・味噌漬けは、3日や、30日漬けたものより、「10日漬けたもの」が一番美味しい。
・10日で急速に味噌から多くの必須アミノ酸※がたくさんカツオ肉にうつるが、時間がたつほど香りは揮発し抜けてしまうため、そのバランスが良かったからと思われる。
※スレオニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、グルタミン酸
・赤身肉に多いとされるアミノ酸であるヒスチジンは、カツオ肉でも多い。しかし味噌漬けにより10日でカツオ肉からは大幅に減少。一部は漬け味噌に移行していた。
・味噌漬けでは、ヒスタミン中毒で知られるヒスタミンは30日後でも全く見られなかった。(今回の条件での)味噌漬けでは、ヒスチジンがヒスタミンに変換されないことが分かった。
・カツオ肉中の、質量約60, 200kDaのタンパク質は味噌漬けして20日たつと分解されていることが分かった。
※約200kDaのタンパク質は筋肉の主要なタンパク質である「ミオシン」の可能性が高いため、ミオシンは味噌漬けしたとき味噌床には流出しにくく、分解されやすいということが推測された。
・味噌漬け後に味噌を除去して冷凍しても、漬けている間に細胞内の自由水が無くなるため、氷結晶が出来ない。そのため、細胞間の水は氷ると膨らみ隙間は広がるが、細胞損傷は余りおきない。よって、若干、味噌漬けは冷凍すると食感が固くなるも劣化は少ない。
・冷凍してもカツオ肉中のタンパク質組成はほぼ変わらない。
【用語説明】
スレオニン:最後に発見された必須アミノ酸。動物性タンパク質に多く含まれ、肝臓に脂肪が蓄積されるのを防いでくれる。
バリン、ロイシン、イソロイシン:筋肉のエネルギー代謝や合成に深くかかわる必須アミノ酸。筋肉中のタンパク質の分解をおさえ、運動のときにエネルギーとして使われる。BBCA(分岐鎖アミノ酸)とも呼ばれる。マッチョが筋トレ前後にとりたいやつら。特にロイシンとりたい。
フェニルアラニン:必須アミノ酸。脳内で神経伝達物質のノルアドレナリン、ドーパミンを合成する材料として知られる。
ヒスチジン:必須アミノ酸だが、実は大人になると体内で合成できるようになる。
ヒスタミン:ヒスチジンがヒスタミン生成菌により変化したもの。血管収縮性物質なので、アレルギー症患者は症状を悪化させる可能性がある
ミオシン:筋原線維の60%を占めるタンパク質。駆動タンパク質(分子モータータンパク質)としても知られる。ATPの化学エネルギーを利用して運動エネルギーを発生させる。
kDa:キロダルトン。分子の質量を表す単位
プロテアーゼ:タンパク質をより小さなポリペプチドや、単一のアミノ酸への分解速度をあげる(触媒する)加水分解酵素の総称。
※タンパク質の分解は本来非常に遅く、プロテアーゼなどの助力が無いと何百年とかかるらしい…。by wikipedia
【余談:味噌ってなんで美味しいの?】
発酵・熟成の工程中にペプチド、アミノ酸、褐色物質メラノイジン(メイラード反応生成物)が生成されるので美味しいらしい。
私的な結論と感想
塩分10%の味噌で漬け魚を作る時は、試しに10日寝かせてみよう
※切り身など、薄いものを漬ける場合はもっと短縮して良いと思います
最近、塩分約3%の西京味噌の漬け床で、
生と冷凍のアトランティックサーモンを漬け比べしたのですが、
2日目の生が香りと食感のバランスが良く美味しく、
3日目の冷凍が一番身に味が馴染んで美味しかったです。
8日目に当論文と同じ効果を期待して食べたところ、生は香りが無くなり味も染みておらず微妙。冷凍は味の染み具合は3日目とあまり変わらず風味の劣化がより強くなり微妙でした。
恐らく原因は、以下2点と思いました。
①根本的に味噌の添加量が少なかったこと(当論文は魚肉の同量ですがコスト的に厳しいので私は添加量ケチりました)。
②生サーモンは脂が強いために、時間が経過しても味が染みにくいこと。
また作ってみたいと思いますので、良ければあなたの鉄板西京味噌漬けレシピを教えてください!
私的な疑問と不明点
ヒスチジンの味が好きな人向けに、カツオ肉のヒスチジンを減らす味噌のアミノ酸だけをカツオへ移行させる方法はないだろうか
無処理のカツオ肉にたくさんあったヒスチジンは味噌に移行したとはいえ量がかなり減っていた。どこに行ってしまったのか。ヒスタミンにならず、何になったのか。
参考論文にはプロテアーゼの阻害効果についての考察もありましたが、私がよく理解できていないため省きました。
参考資料
山﨑歌織「味噌漬魚肉に関する研究」『日本調理学会誌 Vol.42』2009年
山崎 歌織, 外西 壽鶴子, 御木 英昌「味噌漬カツオ肉の保存の延長と美味しさの保持について」『日本調理学会誌 Vol.38』2005年
サポート頂けたら勿論ありがたいのですが、出来たらそのお金でご自身で魚を買って捌いてみたり、居酒屋でプロが作る魚料理を食べてください~~!!