Web小説の歩みをパソコン通信時代から大コミカライズ時代まで ④2016年~2019年 アニメ化・レーベル増編
これは2015年8月に刊行された『このWeb小説がすごい!』で書いた、インターネット上で書かれ/読まれてきた小説群にまつわる流れをまとめたものです。
約5年前に書いたものなので、そこから情報をアップデートしたり、情報を追記するなどしていきました。
第1回目の記事はこちら。
第4回目以降は2015年には書いていなかった、2016年以降のお話です。Web発小説のアニメ化からの大ヒットが続き、そこから大量の読者がWeb小説に流入し、さらにはコミカライズが激増していく流れを見ていきます。書籍化のバブルが続いた2010年代からどのように変化したのでしょう。
Web小説はどこから来て、どこへ行くのか④
■アニメ化から一気に認知度が上昇
Web小説の書籍化が一気に増え始めた2010年代中頃、同時にアニメ化の企画も増えていった。Web発小説の先駆的な作品である『ソードアート・オンライン』や『ログ・ホライズン』は先行してメディアミックスがなされた。
2012年7月には『ソードアート・オンライン』1期放送開始。2013年10月には『ログ・ホライズン』1期放送開始。いずれもゲームを題材にしている作品であり、この頃はオンラインで繋がったゲームのあり方が浸透していった時期でもあった。両方ともパソコンでプレイするネットゲームを元にしているが、2010年代はコンシューマーゲーム機が常時オンラインに繋がるようになった時期でもあった(PS4の発売が2013年11月)。
2014年4月には『魔法科高校の劣等生』がアニメ化する。この時点で同作は「小説家になろう」からは削除されてしまっていたので“元”Web小説として認識されていたように思う。アニメで気に入っても、Web掲載分を読むことはできない状態だった。
2015年7月にアニメ化された『オーバーロード』は主人公が骸骨の姿をした悪の組織の王、というダークな設定と、最強主人公の爽快な冒険がアニメ視聴層にもウケた。アニメ放送前は累計60万部だった発行部数が、放送後約ひと月半で累計150万部にまで伸びた。
余談だが、急激な売れ行き(+スミベタとニスのカバーや別紙中扉を立てる豪華な装丁)で、重版分の印刷が遅れてしまった、なんて話も聞いている。元は印刷機回していた経験から、ブロッキングが心配。
Web版は元々「Arcadia」に掲載されており、その後「小説家になろう」へも転載(「Arcadia」が閉鎖されるかも、という騒動の中だった)。しかしWeb連載版の内容は書籍版と大きく異なるものになっている。書籍版は巻の中での起承転結を調整し、キャラも追加され、ストーリーも変更になっており、リメイクと言ってもよいくらいだ。
このヒットからすぐ、2016年1月にアニメ放送開始された『この素晴らしい世界に祝福を!』も大ヒット。こちらも「小説家になろう」からは削除されてしまった“元”Web小説で、主人公の年齢設定なども文庫ライトノベル用に変更されており、こちらもリメイクに近い。
アニメ放送後、『このすば』も約ひと月で累計150万部を突破。スニーカー文庫という既存の文庫判レーベルから出たこの大ヒットは、Web小説作品の持つ力を示すことになった。
そんな『このすば』のヒットからまもなく、2016年4月には『Re:ゼロから始める異世界生活』のアニメもスタートする。異世界に転移した引きこもり青年ナツキ・スバルが、『死に戻り』という死ぬと時間が巻き戻るループの中で、ひとりの少女を救うために奮闘するという物語。アニメ放送後にこちらも累計150万部を突破した。
さらには「SUGOI JAPAN Award2017」では原作もアニメも部門賞を受賞する、と評価も得た。Web小説、というものがアニメ化を通して広く一般的に認知され、評価されるようになった。
ここでひとつ注目すべきは、『リゼロ』は小説本編が(書籍化に際して改稿がされているとはいえ)「小説家になろう」に残され、連載も続いていたこと。書籍版の売り上げが伸びる中で、「小説家になろう」へ新規に流入してきたユーザーも多かった。この時期に『オーバーロード』や『リゼロ』のポイントが伸び、上位へ上がっていた。
ここまでで面白いのは、上記の作品たちはいわゆる「Web小説のお約束(テンプレ)」からは外れたイレギュラーな作品であるということだ。『このすば』はテンプレを揶揄したような「トラクターにびっくりして死ぬ」という導入。『リゼロ』は作者はそもそもWeb小説を意識せずに異世界転移を書いていた(『このWeb小説がすごい!』インタビュー。『オーバーロード』は誰も書かないなら自分が書こうと、高二病的な軍団ものの極北を目指した、と言っている(『このラノ2015』インタビュー)。
新興レーベルであるヒーロー文庫からも、初のアニメ化『ナイツ&マジック』が発表され、ついで『異世界食堂』もアニメ化が発表された。
出版社が鉱脈として発見したWeb小説は、2016年には「出版不況の中でもヒット作が現れる場所」として注目されていく。
この時期までのWeb小説の状況を分析し、ケータイ小説、ボカロ小説、フリーゲームのノベライズにも触れている本としておすすめしたいのが飯田一史さんの『ウェブ小説の衝撃 ネット発ヒットコンテンツのしくみ』だ。
こちらもインタビューを通して状況を掴んでいけるのでおすすめ。
■新たな小説投稿サイトの増加
2016年頃になると、これまで個人運営も多かった小説投稿サイトから切り替わり、企業が運営するサイトが乗り出してきた。「小説家になろう」はもっとも巨大で力を持った小説投稿サイトとして地位を築いていた。「アルファポリス」も老舗として、自社のコンテンツを着々と増やし、安定したヒット作を提供し続けていく。
そんな中、2016年9月から「小説家になろう」内での“ダイジェスト化”が禁止となった。
これはアルファポリスがWeb小説を書籍化する際、「小説家になろう」に掲載されている作品はダイジェスト版に書き換えるよう作家に指示していたものだった。これを受けてアルファポリスから作品を出していた作家たちに混乱が生じ、ダイジェスト化していた作品を「小説家になろう」から削除する事態になっていった。
異世界系ファンタジーと別の流れで展開を続けているのが「E★エブリスタ」(現・エブリスタ)だ。元はモバゲータウン(DeNA)の小説コーナーとしてスタートし、2010年にNTTドコモとの共同出資企業として設立。初期は『王様ゲーム』や「通学」シリーズといったケータイ小説の流れを汲んでヒット作を出していった。
『サバンナゲーム』のようなデスゲームもの、『奴隷区 僕と23人の奴隷』のようなバイオレンスな人間ドラマや、得体のしれない化け物から逃げるホラーの『カラダ探し』などケータイ小説の流れが感じられる。
ライトノベルとしてはKCG文庫と組んで作品を出していたが、ライトノベルのジャンルではあまりヒット作は出なかった。方向転換として、現在のライト文芸に繋がる作品群が多く書籍化されるようになっていく。
2012年から「電子書籍大賞」(のちに「スマホ小説大賞」)の受賞作の刊行を始めた。ここから出てきたのが『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』の太田紫織や、のちに『京都三条のホームズ』などのヒット作を書くことになる望月麻衣、『謎好き乙女と奪われた青春』の瀬川コウなどが輩出されている。
KADOKAWAが直接運営する小説投稿サイトとして登場したのが「カクヨム」だ。2015年末からプレオープンし、2016年2月末日から正式オープンした。「小説家になろう」の対抗馬として注目されていたが、書籍化作品は苦戦していた。第1回カクヨムWeb小説コンテストでは様々なジャンルの受賞作が書籍化されたが、その中で一番注目されたのは増殖する横浜駅という奇抜な設定のSF『横浜駅SF』だった。
「カクヨム」は初期の頃から異世界ファンタジーに寄り過ぎないような書籍化ラインナップを揃えていき、文芸作品や女性向け作品も手広く拾っていく。大澤めぐみの『おにぎりスタッバー』、トネ・コーケンの『スーパーカブ』、赤野工作の『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』、碌星らせんの『黄昏のブッシャリオン』、七瀬夏扉の『ひとりぼっちのソユーズ 君と月と恋、ときどき猫のお話』など、ジャンルバラエティーに富んでいた。
「カクヨム」ラブコメや青春系に舵を切り、波に乗り始めたのは『ひげを剃る。そして女子高生を拾う』の登場あたりからに思う。元々ライトノベルが得意としていたラブコメ、恋愛、青春ジャンルの作品が注目されるようになっていく。
その後、「ツギクル」というWeb小説のポータルサイトができたり、新規参入として「マグネット!」や「ノベルアップ+」などが登場。こういったWeb小説の盛り上がりを受けて、ほとんどのライトノベルレーベルがWeb小説用のサブレーベルを創刊していく。
2019年には大手メッセージアプリの「LINE」が、ストレートエッジの代表となった編集者三木一馬を統括編集として「LINEノベル」を開始。「令和小説大賞」の募集を開始した。同時にLINE文庫とLINE文庫エッジを創刊した。
そういった中でも小説投稿サイトは、やはりファンタジーのジャンルで言えば「小説家になろう」が最大手であり、ライト文芸に向けた作品も多く書籍化している。「カクヨム」は文庫判ライトノベルに向けた作品でじわじわと力をつけ始めている、といった印象だ。
Web小説とライトノベルの現状をまとめた記事はこちらも参考になる。
■まだまだ増えるWeb小説レーベルの進退
2016年以降もWeb小説をメインとした四六判・B6判レーベルは増え続けていった。以前の文庫判ライトノベルのブームでレーベルが増えていったときの比ではないほどに、既存レーベルがサブレーベルとして立ち上げたり、中小出版社が参入してきたりと、かなりの群雄割拠となっている。
SBクリエイティブのGA文庫は、サブレーベルとして2016年「GAノベル」を創刊し、Web発小説を刊行していっている。元からライトノベル作家として活躍している森田季節は『スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました』を中心とした作品を多数刊行していった。
『魔女の旅々』はKindleでの自費出版だったものを、加筆修正の上で書籍化したもの。広義のWeb小説にあたるとは思うが、他とは少々出自が異なっている。上記2作はGAノベル初のアニメ化作品となった。
他にも、ガガガ文庫が「ガガガブックス」、講談社ラノベ文庫は「Kラノベブックス」と文庫と異なるサブレーベルを立ち上げた。ファミ通文庫も時折単行本での刊行をしていたが、そこからWeb発作品を出している(エンターブレインのロゴが入っているのだが、ファミ通文庫編集部なのかホビー書籍部なのかがわかりにくい)。
2019年にはついに電撃文庫が「電撃の新文芸」としてWeb小説レーベルに参入。個人サイト時代から掲載されていた名作『Unnamed Memory』や、怒涛の異種格闘技戦『異修羅』など、枠に囚われない作品を出している。
この他新興レーベルとしては、新紀元社の「モーニングブックス」、GAノベルと同じくソフトバンクグループのツギクルが刊行する「ツギクルブックス」、ぶんか社のBKブックス、マンガがメインだが小説も出す「マッグガーデン・ノベルズ」や幻冬舎コミックス、歴史系を扱う、宙出版の「ヒストリアノベルズ」など、多くのレーベルが刊行を続けている。
刊行レーベルが多すぎるのでこの解説だけで膨大になってしまう。ここはあとから個別にまとめたい。
こういったレーベル増は市場が活発化する半面、大量の書籍で溢れるようになり、玉石混交がさらに進むことになる。新興レーベルは出版の体力が続かなかったり、思った業績が出ず早々に撤退する場合も見受けられる。
リンダパブリッシャーズの「レッドライジングブックス」は2016年10月に創刊したが、翌年9月には新刊出版を取りやめると発表し、刊行を予定していた作家たちから不満が出た。
主婦と友社の「プライムノベルス」もヒーロー文庫のようにはいかずに刊行停止。作品はヒーロー文庫から再刊行されたのが救いだ。その他、KADOKAWAの「L-エンタメ小説」、株式会社Gzブレイン(現・株式会社 KADOKAWA Game Linkage)の「Gzブレイン」、三交社の「UG novels」、など刊行が止まってしまっているレーベルも出てきている。
2020年になると、新規参入のレーベルはなかなかに厳しい状況のようで、刊行点数も月に1~2冊。シリーズとして続刊が出せるのも一握り、というように小説書籍化バブルは落ち着いてきたように感じられる。
■つづき
長くなってしまったので以下次号。
2017年頃から徐々に増加し、2019年には数えるのも大変なほどに増えたコミカライズについてと、小説の書籍化の現状や、女性向け作品のパワー増大について書いていく予定。
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