Web小説の歩みをパソコン通信時代から大コミカライズ時代まで ②2000年代~2009年
これは2015年8月に刊行された『このWeb小説がすごい!』で書いた、インターネット上で書かれ/読まれてきた小説群にまつわる流れをまとめたものです。
約5年前に書いたものなので、そこから情報をアップデートしたり、情報を追記するなどしていきました。
第1回目の記事はこちら。
第2回目では2000年代以降の、ブロードバンド時代の話なっていきます。
Web小説はどこから来て、どこへ行くのか②
■Web小説、人気作品の胎動 2000年代初頭
2000年代初頭で人気を博していたのは、吉野匠が個人サイト「小説を書こう!」に連載を始めた『雨の日に生まれたレイン』(後の『レイン』)や、2002年から九里史生(川原礫)が個人サイト「Word Gear」で始めた『ソードアート・オンライン』があった。
『ソードアート・オンライン』は現在では全世界で2200万部を売り上げる超人気作となった。近未来のフルダイブVRMMORPGを扱っており、時代を先取りした題材になっていた。
小説掲載や検索、感想書き込みなどを集約したのが、小説投稿サイトや投稿掲示板だ。「SS捜索・投稿掲示板Arcadia」は2000年8月から個人管理の掲示板として始まった。どんどん掲示板の数は増えていき、2003年にはオリジナル小説の投稿掲示板が置かれるようになった。
「SS」とはサイドストーリーやショートストーリーの略で、主にWeb上に投稿された二次創作のことを指す。時を経ると「Web上に投稿された小説」と意味が広くなっていった。
もちろん二次創作も盛んで、この頃はヤマグチノボルの『ゼロの使い魔』を元とした作品が多く書かれていた。主人公が異世界に召喚され、力を手にし、ヒロインたちとのハーレム展開に……という要素は、これ以降にもWeb小説の一部に影響を残している。
また、小説の捜索掲示板はネット上のいたるところにある小説について捜索依頼を出して、人力で回答を得ていた。
小説投稿サイトは先に挙げた「AWC」や、1998年にできた「作家でごはん!」などがあったが、これらは文学・文芸作品寄りで、本稿で取り上げているようなファンタジー系Web小説とは相性が悪かったように思われる。
Check!
個人サイトの栄枯盛衰
テキストサイトブーム
テキストサイトとは、日々の出来事やネタを個性的な文章や“フォントいじり”をして書き綴っていたWebサイトだ。『侍魂』や『Not Found』などが有名。当時「コジャレ系」として人気を博していたヤマグチノボルや桑島由一は、後に作家となっていく。ブームはブログなどへの遷移で廃れていったが、当時のテキストサイト管理人が、現在もWebライターとして活躍していることも。
2004年4月には「小説家になろう」が開設される。
PC版とモバイル版、両方ともあったが、開設初期の頃は、いわゆる「ケータイ小説」的な恋愛小説が多かったようだ。当時の「小説家になろう」は個人サイトであり、2008年にグループ運営化、2010年に法人化という流れがある。
特殊なのは「2ch文章 アリの穴」(閉鎖)という投稿サイトで、トップページには「匿名投稿・添削できる修行場所。煽り・罵倒は覚悟の上で」と書かれており、投稿作に対して、辛辣な意見と添削が交わされる場になっていた。サイト名にもある通り、、「2ちゃんねる」の創作文芸板の住人が主なユーザーだった。
■巨大掲示板2ちゃんねるも創作の場だった
この「2chちゃんねる」(2ch)は、特にゼロ年代、独特のWeb小説文化を作っていくことになる匿名掲示板群だ。カテゴリ別にある掲示板にスレッドを立てていく形式が取られており、連投書き込みによってストーリーが展開していった。
Web小説とは言えないが、有名なのは2004年の『電車男』だろう。同作は書籍化後には映画化・ドラマ化とメディアミックスが続いた。ある男の恋愛模様がリアルタイムで書き込まれ、スレッドを見た住人たちが次々掲示板に書き込みつつ、状況は進展していった。
こういった実話系の物語(実話か創作かは置いておく)はいくつも書かれ、様々な形で書籍化、メディアミックスされていった。
また、ニュース速報VIPという雑談系板を中心に、2ch的な実話っぽいSSが盛んに投稿されるようになった。キャラの会話でストーリーが進む脚本形式で書かれるのが主で、本当に実話らしきものから、完全な創作(“釣り”)まで、様々なものがあった。もちろん、二次創作として書かれるものも多かった。
2ch内で生まれた「やる夫」というキャラを主人公に、アスキーアートを用いて書かれる「やる夫スレ」もブームとなった。『ゴブリンスレイヤー』(GA文庫)も元々はやる夫スレで書かれていたもので、大幅改稿の上で書籍化された。2019年には人気のやる夫スレを連続で書籍化する企画もあった。
脚本形式のオリジナルストーリーで注目され、後に『まおゆう魔王勇者』でデビューするのが橙乃ままれだ。
元となる『魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」』がゲーム作家の桝田省治の目に留まり書籍化。後に『ログ・ホライズン』を「小説家になろう」に投稿し、これも書籍化されることになる。
■Web小説、書籍化の黎明
2000年8月に設立された株式会社アルファポリスは、インターネット上で人気のある作品を書籍化することを事業の主として始まった。現在のWeb小説ブームのパイオニアとも言える存在だ。
アルファポリス
アルファポリスは自社のポータルサイト『アルファポリス 電網浮遊都市』で小説・マンガ・エッセイなどの登録・投稿を募集。読者からのポイントで人気になったものは「出版申請」ができ、そこから書籍化検討が行われるシステムだ。また、「Webコンテンツ大賞」を毎月開催しており、ジャンルごとに募集が出されている。
ドラマ化された市川拓司の『Separation』を皮切りに、ヒット作が出てくるようになる。吉野匠『レイン』も2005年に書籍化となり、異世界ファンタジー・主人公最強系の先駆け的作品となった。
これらはアルファポリスの行っていた「ドリームブッククラブ」によって、読者の購入予約や出資、投票によって書籍化が決定していた(現在で言うクラウドファンディングに近い)。
こうした動きがゼロ年代のうちからあったのだが、ゼロ年代はライトノベルとケータイ小説のブーム真っ只中だった。
ライトノベルで言えば2004年頃に『このライトノベルがすごい!』を初めたとしたガイドブックが多く刊行され、2006年頃になると『涼宮ハルヒの憂鬱』のアニメ化など、メディアミックスも広がっていた。
ケータイ小説で言えばYoshiの『Deep Love』のヒットを始めとした作品のヒットが2002年~2005年頃にあり、美嘉の『恋空』の映画化から2006年以降のブームが続いた。これらのヒットによって、フィーチャーフォン(いわゆるガラケー)によって繋がるWebでの小説は、恋愛系やリアル系などのヤンキー的な内容が多くなる。
アルファポリスが刊行していた小説も、まだ文芸系やジュヴナイル系が多かった。ファンタジーものでは一部女性向けが先行してヒットし、2009年には大人の女性のための恋愛小説レーベル「エタニティブックス」を創刊した。
ゼロ年代、男性向けのエンタメ小説は、文庫判ライトノベルの力が強く、まだWeb小説にはあまり目が向けられていなかった。しかし橙乃ままれの『まおゆう魔王勇者』や川原礫の『アクセル・ワールド』『ソードアート・オンライン』といった、元々Web上で展開されていた作品が世に出始めたことで、徐々にオリジナルWeb小説へと目が向けられるようになっていく。
匿名掲示板から生まれた
2ちゃんねる発小説
独特な文化が生まれ、SSが多く投稿されてきた「2ちゃんねる」(現在は分裂したり「5ちゃんねる」になったりとややこしい)。ここからも小説作品が生まれている。ジャンルとしては『電車男』の流れを汲む実和風、私小説風に書かれているものが多い。その中でも珍しいのは、初めから小説として書かれた三秋縋の『スターティング・オーヴァー』(投稿時は『十年巻き戻って、十歳からやり直した感想』)などの作品群。これらはメディアワークス文庫から書籍化された。
変わり種では2ちゃんねるから生まれた投稿サイト「新都社」に投稿され、更にはコミカライズもされていた『オナニーマスター黒沢』がある。小説版は加筆修正改題し『キャッチャー・イン・ザ・トイレット!』として書籍化。コミック版も現在電子書籍として読むことができる。
■つづき
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