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ベンケイガニ 〜我が家に現れるカニその1〜

2019年の春、引っ越した先の家には、たくさんのカニが出入りしていた。それがきっかけで、わたしのカニ旅がはじまった。我が家で確認できたカニは、今のところ3種類だ。図鑑やネットでいろいろ調べたので、1種類ずつ紹介していこう。

我が家で、いちばんよく出会うのは、ベンケイガニだ。

家に現れるのは、手のひらに乗るくらいの大きさのものが多い。時に人差し指の爪くらいの小さなものもいるが、稀だ。甲羅が筋肉のようなデコボコで、目の横の甲羅の縁に、鋸歯のようなギザギザがあるのがベンケイガニの特徴らしい。

夏の満月の時期など、多い時は、一晩に家の中で16匹も捕まえたことがある。

風呂場や台所で見かけることが多いが、夜寝ているときに布団に潜り込んできたり、朝起きたら蚊帳にとまっているカニと目があうなんてこともある。寝起きにカニと目が合う人生、夜中にカニに起こされる人生、、、なぜ、わたしの人生がこんなことになっているのか、皆目見当がつかないが、貴重な機会をいただいていることは確かである。感謝しよう。

茶色くて小さなカニ、赤くてハサミが大きいカニ、筋肉質で貫禄のあるカニ、長い手足をよく伸ばすカニ、、、最初は、色々な種類のカニがいるのだと思っていたら、みんな同じ種類のベンケイガニであるとわかってきた。

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発達による大きさの差や、形の個性だけでなく、ベンケイガニは、身体の色が、周囲の明るさや個体自身の活性によって変化するらしいのだ。暗い場所で活性が下がって茶色くなったり、繁殖期は活性が上がって真っ赤になったりするらしい。そもそも活性とはなんなのだ。コーフン度みたいなものだろうか。

人間に例えると、状況によって、髪型がストレートロングになったり、パンチパーマになったり、美しい銀髪になったりするようなものだろうか、、、。周囲に混乱を招きそうだが、もうお互いにそんなもんだと思えばやっていけるものだろうか。外見によって、その人の状態が分かるのだから、便利かもしれない。

「あ、きょうは、課長が坊主頭だから落ち着いてるみたいだわ。例の件、今相談しておこう!」などと、仕事もスムーズに進みやすいのかもしれない。ベンケイガニもそんな風にやりとりしているのだろうか。

ベンケイガニについて調べて、もうひとつ、ホホウ!と思ったことがある。彼らは、家の中をうろついているだけあって、殆ど陸で生活している。水に入るのは、外敵がやってきた時と、呼吸が苦しくなった時なのだという。

呼吸は口の近くにある穴から水を吸い込んで、その水を顔のあたりで循環させて身体の中に酸素を取り込むのだそうだ。水の中に含有する酸素がなくなってくると、水に粘りがでて泡になるらしい。カニが泡をふいている時は、呼吸が苦しくなっている時だから、水に入れてあげるといいのだそうだ。

それを知っていたら、あの時のあのカニもこのカニも、水に入れてあげたのに。後悔ばかりだ。今度泡をふくカニにであったら、すぐに水に入れてあげようと思う。苦しみから解放されたカニが、お礼にと玉手箱か何かを持ってきてくれるかもしれない。いや、そんな下心はすぐにカニに伝わってしまいそうだ。そんなこと思わないで、すぐに水にいれてあげよう。

冬の間は、穴の中で眠っているらしいベンケイガニ。
そろそろ、ざわざわと姿を現す季節である。


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