平手打ち
…っつ!これは強烈な一撃ですね。確かに私があなたにしてしまったことを考えれば、どうしてあなたがここまで怒るのかも理解できます。ただし、私にはひとつ納得のいかないことがあるんです。どうして私に平手打ちなんかしたんですか?いや、わかりますよ?あなたが怒りのあまり暴力衝動に駆られてしまうのは当然ですし、これは私に責任があります。ただ、どうして平手打ちだったのかな、と。ほんとうに怒りに駆られた結果の平手打ちなのかな、と。だって、平手打ちって、よし、いまから平手打ちするぞ、って思わないとしなくないですか?いまからこいつ平手打ちをくらわせようって思考があって、手を一回横に振りかざして、この最短距離じゃなくて横にっていうのが、怒りの衝動で振るう暴力にはおもえないんですよ。いまから平手打ちするぞーって助走になるわけじゃないですか。で、横に振りかざして相手の頬を鳴らして、それで終わり。終わるんですよ。追撃しないんです。平手打ちをしようって考えて、で平手打ちをして、平手打ちが終わったで終わってるんですよ。こうやって考えている時点でとっても冷静ですし、とても怒りに身を任せた行動とは思えないんですよ。それに、平手打ちってなんかベタすぎませんか?漫画とかフィクション作品でこすられまくってるじゃないですか。なのでいまから平手打ちをするぞ!っていう自意識っていうんですかね?なにか物語的なものへの自己投影ができてないと、咄嗟にとはいえ、平手打ちなんて恥ずかしくてできないと思うおぅ!!!急に胸ぐらを掴むなんてびっくりするじゃないですか。いや、私が胸ぐらを掴まれるのは仕方ないことだとは思うんですけど、胸ぐらを掴むだっておんなじことですよ。さっきの話の「平手打ち」の部分を「胸ぐらを掴む」にそのまま置き換えるだけです。あ、横に振りかざすくだりはそのままはつかえませんけどね。現にあなたは胸ぐらを掴んで未だ掴んだだけじゃないですか。あ、殴るんですか?もちろん殴ってもいいですよ?もともとは私があなたを怒らせた、まあ実際はいま話してる通りほんとうには怒ってはいない訳ですけれど、まあここは便宜的に怒らせたということにしましょう。わたしがあなたを怒らせた、うん、怒らせたのが悪いですから。でもいまからあなたからでた暴力は、もはや衝動的な怒りから出るものでなくて、私に対して怒りを示すための、いわばワンクッション挟んだ暴力になってしまいますね。私がこう説明する前に殴れなかった時点であなたは思考をしてしまっているんです。あなたの暴力は衝動的な暴力ではなくて、しっかり理性の下で考えた結果です。イライラはしているかもしれませんが、真に我を忘れるほど怒ってはいないんですよ。もちろんここで殴らないのもあなたが怒っていない証拠です。いまあなたは暴力を振るおうが振るわまいがっっっ…!そう、そういうことです。ほんとうに怒ったときは手が「出ちゃう」んですよ。グーでもパーでも、もちろんチョキでもない、名もない形の手が最短距離で顔面をめがけるんです。そしていまあなたがそうしているように、とにかく追撃の手が止まない。あなたの怒りがおさまるまでわたしはこうして後遺症が残るような部分をタコ殴りにされるというわけです。いや、ほんと、すいませんでした。
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