NISAは魔法の杖ではないさ
職場の同僚とランチに行ったとします。
となりのテーブルの会話が聞こえてきて、「なんかよく知らないけど、ニーサという商品がお得らしいよ」という声が・・。もしかすると、具体的な投資信託の名前も聞こえてくるかもしれません。
わたしは職業柄、NISA(ニーサ)という制度が呼び水となって、投資に興味を持つ人が増えていると実感しているひとりです。
ちなみに、NISA(ニーサ)は金融商品の名前ではありません。ここの理解は意外と重要です。また、みなが話題にしているから、自分もそれ(NISA)をやらないと!と焦る必要もありません。
流行り物については、まずはその全体像を知ってから、自分に向いているかどうかを三周くらい回って吟味しても、ぜんぜん遅くはないと思います。
ズバリ申し上げると、NISA = 投資という行いに付随する、特典の付いた箱(はこ)のことです。特典の付いた箱なので、投資商品そのものではないわけです。
投資という行いでは、個別株式や投資信託を「道具」として利用します(もちろん他にもたくさんの投資対象がありますがここでは割愛します)。
あなたが仮に、投資を始める決意をしたとしましょう。その場合、あなたは「道具」と、それを入れる「箱」と、少しの「お金」を用意する必要があります。
ざっくり言うと箱には2種類あって、「特典がない箱」と「特典がある箱」に分かれます。NISA(ニーサ)は特典がある箱ですが、じゃあ「特典がない箱って何なの?」と思われるかもしれません。
投資の世界では、特典のない箱のことを「課税口座」といいます。ネット証券などに証券口座を開設すると、まずはこの「課税口座」が付与されます。―特定口座とも呼ばれます。―
整理しておきましょう。
あなたが個別株式や投資信託などを用いて「投資」を始める際、
1 特典がない箱「特定口座」の中で運用する
2 特典がある箱「NISA口座」の中で運用する
1か2の選択肢があるということです。
(もちろん両方の箱を利用することも可能です)。
ここで重要なのは、
〇投資という行いが「メイン」であって
〇箱は「おまけ」である。という理解でしょう。
特典がある「箱」のことをいろいろ調べるよりも、投資そのものを知ることのほうが8倍くらい大事です。「ニーサ、ニーサ、すごいよ」という巷の声が大きいので、ついつい、“なんかNISAが良いらしいから、投資を始めてみよう”と思ってしまう人が多いのではないでしょうか。
(実は)“NISAが良いから、投資を始めよう”という発想は、中身を見ずに、箱(はこ)だけに注目して行動してしまうようなもの。これではまるで、中身を確認しないで、重箱の豪華さだけを見て「うな重」を注文するようなものです。
あなたがたまたま投資に興味を抱いたのなら、あなたが知らないといけないのは「投資という行い」(中身)そのものです。
なぜなら、
1 特典がない箱「特定口座」を利用しても、
2 特典がある箱「NISA口座」を利用しても、
個別株や投資信託を購入すれば、その値動きの仕方(リスクの現れ方)はまったく同じであるためです。どの箱を用いても、投資の中身は1ミリも変わりません。
NISAは魔法の杖ではないのです。
投資とは、今と将来の「時間差」を利用して、己の資産価値を増大させようとする行為。
1 あなたのお金
↓
2 リスク資産に変換
↓
3 ひたすら価値の上昇を待つ
けっこう忍耐力が要ります。
リスク資産である個別株や投資信託は、どの程度の時間を掛ければ、どのくらい価格が上昇するのか、事前には全く分かりません。時間を掛けたとしても、ひたすら価格が逓減していく場合もあります。
規則性なくその価格が上下し、特に短期では「損」が出るか「益」が出るかが、まるで予想できないのがリスク資産の特徴でしょう。
ゼロの地点に戻ってみましょう。
プラスの収益を求めるのが投資という行為の本質です。しかしその裏では、不確実性の連続を甘んじて享受する必要があります。
"投資とは、不規則な価格の「振れる幅」(=リスクの大きさ)を許容して、プラスの収益を粘り強く求める行為なのです。"
あなたがNISAという箱を用いて、投資を始めるかどうかは、ひとえに、あなたが不規則な価格の「振れ」(リスク)を許して、それと付き合う「覚悟」があるかどうかにかかっています。
快適な温度内で、羽毛にくるまれて、プラスの収益だけが得られるなんて、そんな都合のよい話は(残念ながら)この世には存在しません。
誤解がないように申し添えると、わたしはNISAという「特典」が大したことはない。と言っているのではありません。
NISAという特典は非常に大きなものです。リスク資産を保有する中で、どれだけ大きな利益が出ても、その利益に対して課税されないわけです(そして、その「非課税期間」は無期限なのです)。
しかし、です。よくよく考えてみると、大きな利益とは、長い年月、不規則な価格の「振れ」(リスク)を許容し続けた結果生じるものです。
「具体例」を挙げてみましょう。
あなたがNISA口座で、株式ファンドを月5万円積立投資し、20年後に2000万円まで資産が育ったとします(投資元本は1200万円です)。20年が経って、この株式ファンドを全額売却すれば、利益が800万円含まれますが、それにはいっさい課税されません。
定番の大逆転物映画のようなもので、本当に上記通りファンドを売却できれば、2000万円のお金が戻ってきて、あなたは爽快な気分に浸ることが出来るでしょう。
しかし、20年後の、その至福の瞬間を迎えるまでは、特に何もメリットは落ちていないわけです。たとえ特典がある箱(NISA口座)を選んだとしても・・。