砂の付いたおにぎりを食べる幼稚園児
みなさんはどれくらい、昔の記憶が残っていますか。
人間とは良くも悪くも、忘れる生き物。 だからこそ、より良く生きていけるとも言われています。
辛かった記憶というのは、いつまでも心の中に残っているように感じます。 でも、その大半はいつか忘れちゃうんでしょうね、きっと。
そういう僕は、一昨日食べた晩御飯を思い出せないくらい、記憶力が弱々です。 そして、ふと思いました。
「自分が覚えている、一番古い記憶って何だろう。」
最近考えてみた結果、思い出せた最古の記憶を書き記してみます。 それは、幼稚園時代まで遡ります。 こんな大きな成人男性にも、幼稚園時代があったんですね。
僕が通っていた幼稚園である日、園庭でピクニックをすることになりました。ということで、お弁当は各自持参です。 みんなと同じく僕も、親に持たせてもらったお弁当を持参しました。
4、5歳の子供にとって、こんなゲリラピクニック、ワクワクしないはずがありません。
普段は栄養バランスの良い給食が毎日出てくる幼稚園でした。嫌いな食べ物が目の前に現れても、目の合ったポケモンのライバルかのごとく、ほぼ強制で食わされます。とうもろこしに対して「私はもう、あなたを食べることはできません…」と、涙ながらに降参を表明した苦い日々もありました。でも今日はお弁当。その心配はありません。わ〜い!そんな非日常感に気持ちが高揚していました。
レジャーシートを広げ、園庭でお弁当をパクパク食べていると、なんとここで、小雨が降り始めます。せっかくのピクニックなのに。悲しすぎます。園児の悲哀な心模様は、雨となって園庭を濡らします。
先生の指示により急遽、幼稚園の建物の中に避難します。園児のみんなはレジャーシートとお弁当を慌てて片付けて、教室内に向けて走り出しました。 当然、園児の僕も同じ行動を取ります。お弁当とシートを持って、みんなに続きました。
しかし、園児の僕は慌ててしまい、濡れた玄関でつまづいて転んでしまいました! その直後、お弁当箱は手から離れ、 食べかけのお弁当の中身は玄関の床に落ちました。 慌てて片付けたので、お弁当箱の蓋が閉まりきっていなかったのですね。
お弁当の残りの食べ物が一部、砂で汚れてしまいました。 申し訳のなさに、泣きそうになっちゃいました。
しかし、ここで泣いては、男の子は強くはなれません。大人の階段を数段登った園児の僕は、空席の出来た自分のお弁当箱に、床に落ちたおにぎり、砂の付いたおかずをちょいと詰めて、靴を脱いで館内に入りました。こんな切ないお弁当箱の歌は、聞いたことがありません。
そして、室内でピクニックは再開されました。 他の園児はみな、先生たちが見守る中、それぞれのお弁当を食べ始めます。
しかし、僕のお弁当の中身は、砂にまみれたものの詰め直し。 昨夜の残り物のお弁当、とは訳がまるで違います。このまま蓋を開けずにお家に持って帰ろうと考えましたが、 普段から「残さず食べること」を大切している幼稚園。 先生は、僕のお弁当がまだ完食されていないことに気がつきます。
「どうしたの、早く食べちゃいなさい?」 という先生の言葉に、僕は何も言い返せません。 なんででしょう。とてつもない大失敗をしてしまったと思っており、言い出すのが怖かったというのもありますが、 自分がここで黙っておく方が、事を荒げないで済むと思ったのかもしれません。「落としたんです!」と説明をして、これは食べられないという事を説得するのが、園児ながらに面倒くさかったのかもしれません。普段から給食を完食していなかった自分も悪い。
そんな僕は、先生の言葉に屈した結果、わずかにじゃりじゃりするおにぎりを食べ始めました。 そして完食し、何事もなかったかのように、その後の園児生活を全うしたのでした。
過去の辛い記憶は、いつまでも残り続けるものなのかもしれません。そんな過去の傷を背負って、生きていくしかなさそうです。 みなさんも、最古の記憶を思い起こしてみてはいかがでしょうか。
ちなみに、2番目に古い記憶は、同じ幼稚園で友達と遊具で遊んでいる時に、友達の耳からすっごい量の耳垢が見えていて、「耳垢すげ。」って思ったことです。