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【社長交代対談「小兵を、つむぐ。」vol.05】次の100年に向けて

カネコ小兵製陶所は、1921年(大正10年)に、初代の伊藤小兵が創業した美濃焼の窯元です。主に神仏具をつくっていた初代・伊藤小兵の時代、そして徳利生産量で日本一になった二代目・伊藤皓美の時代を経て、小兵ブランドが世界に広がるきっかけになった「ぎやまん陶」「リンカ」をつくった三代目・伊藤克紀の代で2021年、創業100周年を迎えました。
 そして2024年9月1日、四代目・伊藤祐輝が代表取締役社長に就任します。100年続いたバトンを、次の代へとつなぐ節目に、三代目と四代目が、カネコ小兵製陶所のこれまでとこれからを語る対談記事を、全5回でお届けします。

【 社長交代対談「小兵を、つむぐ。」 】
対談vol.1 カネコ小兵製陶所のなりたち
対談vol.2 ものづくり 
対談vol.3 伝統、産業
対談vol.4 小さなしあわせ
対談vol.5 次の100年に向けて (本記事)

前回の対談はこちら


社長交代対談vol.5 次の100年に向けて


三代目(新会長) 伊藤克紀 ・ 四代目(新社長) 伊藤祐輝

伊藤 克紀
カネコ小兵製陶所の三代目。1979年に大学卒業後、日立系商社に就職。1985年カネコ小兵製陶所に入社し、1996年二代目の逝去により社長就任。ぎやまん陶・リンカをはじめとした小兵を代表するシリーズを数多く生み出す。2024年9月1日より会長に就任。
伊藤 祐輝
カネコ小兵製陶所の四代目。伊藤克紀の長男。2012年大学卒業後、自動車部品メーカーに勤務。2019年にカネコ小兵製陶所に入社。このたび、2024年9月1日より社長に就任。 

次の世代にバトンをつなぐために

四代目・伊藤祐輝 (以下、祐輝) 
カネコ小兵製陶所は、2021年に創業100周年を迎えたわけだけど、この100年の歩みを振り返る中で、改めてやきものの可能性を実感できたような気がする。父さんは三代目として会社を引っ張ってきた中で、どんな未来を描いてきた?

三代目・伊藤克紀 (以下、克紀) 徳利の時代から脱却して、夫婦二人三脚でオリジナルのものづくりを始めた時は、今のように小兵の商品が世界に広がるなんて、夢にも思わなかった。「私たちはやきものづくりを通じて、暮らしの中に小さなしあわせを届けます」という企業理念を作ってから20年。その時に思い描いた、「お客さんの暮らしの中に、小さなしあわせを届けられる企業になりたい」という未来には、ある程度近づいたような気がしているよ。

祐輝 地道にコツコツとものづくりを積み重ねてきた結果、今があるということだね。

克紀 ものづくりを通じて、信じられないような嬉しいことがたくさん舞い込んだ。うちの商品をこんなに喜んでくれる人がいる。それは何よりの励みになる。小兵の商品が、世界に行けたんだ。夢があるってこんなに楽しいかと思ったよ。これからの祐輝の代も、努力することを忘れずにいたら、思ってもみなかったような可能性がたくさん広がっていると思う。

祐輝 未来への可能性を感じられる状況でバトンを受け取れることは、とてもありがたいと思うよ。三代目、四代目というと、自分で起業するわけではなく、先代からのバトンを受け継ぐ。だからこそ重みがある部分もある。次の世代にどう繋いでいくかということも考えながら、いろんなことに挑戦していきたいと思う。

克紀 これからの時代を見据えて、祐輝も新しい窯を作る決断を迫られる時が遠からず来るだろう。今の窯になってから30年が経ち、そろそろ新しい窯に替えてもいい時期に差し掛かってきているからね。

祐輝 そうだね。父さんが新しい窯を作ったのも、今の僕ぐらいの年齢の時だったんだよね?

克紀 1992年だね。窯元にとって窯選びは、経営、ものづくりを左右する要だ。カネコ小兵製陶所の窯の歴史は、登り窯、石炭窯、重油の窯、今はガス窯。二代目の高度経済成長の時代は、大量生産に対応した連続窯(トンネル窯)が主流だったけど、二代目は窯を止める対応が可能で、危機管理ができる窯(トラックキルン)を選んだ。これはリスクマネジメントを考えた二代目の英断だったと思う。それがひいては、自分のリスクマネジメントの意識にもつながった。
 

祐輝 何が正しいか分からない中で、時代を読むことが求められるね。

克紀 そうだ。やきものは、窯が命。やきものの最終工程は、焼成であり、その焼成をするのが窯だ。せっかく成形して素焼きをして細工をして、最後の焼成で失敗するとすべて台無しになる。窯は生き物と考えて、メンテナンスはもちろん、毎回焼成後の製品の色や変化を確認することが大事だ。
 僕は二代目の時代のトラックキルン窯より、もう少し規模が小さく、ガスを燃料としたシャトル窯を選んだけれど、結果的に正解だったと思う。窯選びは、経営、そしてものづくりを左右するものだと改めて実感するよ。

祐輝 温暖化が世界中で深刻な問題になっている今、僕はこれからの窯選びにはサステナブル(持続可能)な視点が必要だと思ってる。燃料をどうするかも含めて、地球環境を考えながら続けられるやきもの作りについて考えないといけない。 

克紀 そうだね。窯選びも含めて、経営というのは、何が正しいかわからない。一方で会社というものは、社会から認められないと存続できない。生き残る会社になるには、世の中のためになり、社会に貢献できる会社であること、そして時代とともに変化していくことが大事だ。世の中の人も、社会構造も変化していく中で、何を持って貢献して、存続していくか。常に考えることが大事だと思う。

祐輝 そうだね。創業から100年超という長く続いた企業だからこそ、これからいろんなことに挑戦していく中でも、これまでの歴史や原点に立ち返らなければいけない時が何度もあるのかなとも思う。時代の流れに合わせるのも大切だけど、流行りを追いかけたりするのではなくて、今まで大事にしてきたことや原点に立ち返って、都度どう続けていくかを考える。歴史が教えてくれることって、これからまだまだあると思うから、もっと勉強しないといけないと思ってるよ。

克紀 いろんなことを勉強しよう、吸収しようという姿勢は大事だ。経営をどうやって勉強するかは、試行錯誤の連続でもある。

小さなしあわせの連鎖を生み出せる存在になりたい

祐輝 父さんはこれまでたくさん本も読んできてるけど、僕が入社した時に2冊の本を渡してくれたね。「課題図書だから読め」と渡してくれたんだけど、当時の僕は、全然読書をしないタイプ。親への反骨精神もあって、渋々受け取ったのを覚えてるよ(笑)

克紀 ハハハ。そうだったね。ナポレオン・ヒルの『成功哲学』と、デール・カーネギーの『道は開ける』の2冊だね。僕にとって、経営の軸になった大事な本だ。



 祐輝 最初は嫌々読み始めたんだけど、読み進めてみたら、すごく面白かった。いまや、僕の経営に関する価値観の原点になっていると思う。あの時に無理にでも渡してくれてありがとうとお礼を言いたいよ。
 今は、本を読んだり、経営について勉強してると、どこか安心できるようになった。得た知識がきっと何かの役に立つと思えるから。父親の背中を見てじゃないけど、そういうことは30歳を過ぎてからようやく分かるようになったかもしれない。

克紀 今思うと、僕は苦労を乗り越えるために、常に何らかの夢を持っていたと思う。それが辛い時も明るくいられるコツだった。本からもたくさん学んだし、自分のモチベーションを上げるために、NHKの朝ドラから勇気をもらうことも多かった。祐輝も、本を読む時間が安心に繋がっているというのは良いことだね。何か自分を前向きに励ましてくれるものは大事だ。

祐輝 価値観の共有って、親子とは言え、世代が違うと難しい部分もあるけれど、父さんがバイブルとしてきた本から学べるところは大きい。例えば『成功哲学』では、成功の定義とは、目標とか願望に向かって突き進む“過程”だという風に書いてある。今、まさに僕はその過程にいる最中で、こういう会社になりたいと思い描く目標や願望に向かって努力をしているところ。その過程こそが成功なんだと捉えると、心がぐっと明るくなるし、努力する過程そのものが幸せだと思える。

克紀 そういう心の持ちようが良い仕事につながると思う。
 僕がもう一つ伝えたいのは、“良い会社とは何か”ということを常に考えながら行動すること。“良い会社”という言葉からイメージするものはそれぞれ違うし、時代によっても変わってくる。それでも、自分なりの“良い会社”とは何か、という軸を持って行動していれば、道は開けると思う。

祐輝 そうだね。会社として“何をしていくのか”ということを考えると同時に、“どうあるべきか”ということは常に議論していかなくてはいけないと思ってる。
 “どうあるべきか”ということについて、僕が今思うのは、誰かを喜ばせることができる会社であることと、お客さんはもちろん、関わる人みんなが喜んでくれる会社であること。商品を作って届けて終わりじゃなくて、何か小さなしあわせの連鎖を生み出せるような、そんな存在になれたら良いなと思うよ。

克紀 何事も、行動あるのみ。チャレンジすることで、失敗もあれば成功もある。これから未来に向けて、いろんな課題があると思う。僕もいろんな失敗があったけど、時にしんどい思いをすることもあるだろう。時代によっても環境が大きく変わってくるけど、軸がしっかりあれば乗り越えられるはずだ。周りへの感謝の気持ちと、常に挑戦する姿勢を忘れず、これからの道を切り拓いていってほしいと願ってるよ。頑張ってくれ。

祐輝 ありがとう。30年後、次の世代にも「継ぎたい」と思ってもらえるような会社になることを目指して頑張るよ。まずは身近なところから、小さなしあわせを広げられるように、そしてその輪が少しずつ広がって、波打つように響き合うような連鎖を作っていきたい。いろんなつながりを強くしながら、そんなしあわせの輪を、少しずつ広めていきたいと思う。
 

取材・編集 松岡かすみ
対談写真 野村優
コピー 松岡基弘

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