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高齢ドライバーの暴走事故はペダル踏み間違いが原因なのか? 専門医師の見解が一冊に

 高齢ドライバーの暴走事故がテレビで報道されることはあっても、その原因を探ろうとした番組を観たことがありません。どんな場合でも、「アクセルとブレーキのペダルの踏み間違い」で済まされてしまっています。

 果たして、そうなのでしょうか?

 個々の事例に違いはないのでしょうか?

 他に原因はなかったのでしょうか?

 踏み間違いだったとしても、その理由は何なのでしょうか?

 いつもは正しく踏み分けていたかもしれないのに、その時だけ間違えた理由は?

 ブレーキとアクセルの違いを認識できなかったのでしょうか?

 それとも、フィジカルに脚が動かなかったからなのでしょうか?

 いったい、“踏み間違い”の背景には何があって、痛ましい事故が起きてしまったのでしょうか?

 警察や医師などの調査では、何か明らかになっているのでしょうか?

 メディアも調査報道しません。

 しかし、この疑問に答えている本がありました。医師の和田秀樹氏の「薬害交通事故 免許返納を決める前に読む本」(ワニブックスPLUS新書)です。

 この本の「はじめに」には、次のように書かれています。

「高齢者をふだん診ている医師であれば、まず意識障害を疑います。意識障害というのは、なんらかの理由で、身体は起きているのに脳が寝とぼけたような状態になることです。その代表的なせん妄というのは、幻覚が見えたり急に興奮したりするために、認知症と間違えられることが多いものです。」

 意識障害、せん妄、初めて聞く言葉です。

「意識障害やせん妄では、幻覚が見え、とても怖い体験をすることがあります。後ろから襲われている感覚になっていれば、アクセルを思い切り踏み込むことも十分考えられるのです。」

 和田医師は、高齢ドライバーの暴走事故の原因のひとつとして意識障害とせん妄を疑っているのです。

「高齢者の意識障害の最大の原因と考えられるのが薬の飲み過ぎです。実は、運転に危険を生じさせるということで、運転禁止薬に指定されている薬は2700種類以上あります。医療用医薬品の4分の1です。そして、それを何種類も飲む多剤併用によってそのリスクはさらに高まります。」

 薬の飲み過ぎが意識障害の最大の原因で、せん妄を起こし、それが暴走事故の原因となっている。テレビではまったく触れられない視点です。スポンサーである製薬メーカーに忖度したテレビ局が薬害については触れないようにしていると和田氏は憤っています。

 別の観点も記されています。

「実は、高齢者の暴走事故が問題になっているのは、日本だけです。これも、欧米では高齢者にはなるべく薬を出さず、めったに多剤併用をしないことと無関係ではないでしょう。高齢者の事故、とくに重大事故を減らすためには、免許返納より、薬の見直しが大切だというのが私の提言です。高齢者が免許を返納すると、数年後に要介護になる確率が2~8倍に増えるとされています。ところが、薬を減らせば元気になる高齢者が多いのです。」

 日本の高齢者が大量の薬を処方されている姿は、薬局などで実際に何度も見てきて知っていました。そのことと重大事故が関連している可能性が大きいということが、この本を読み進めていくとよく理解できます。

 テレビというメディアの本質についても批判しています。

「“こんな悲惨な事件があるだろうか”と視聴者の心理に訴え、誰かをわかりやすく悪者にできる出来事ほど、視聴率を取りやすいのです。」

 和田氏は、この本で高齢者に大量の薬を処方することを省みない製薬会社と医学界や製薬会社に忖度して事実を追求する姿勢すら示さないテレビ局を批判するだけに止まらず、我々の自覚を促してもいます。

「医者に言われるまま薬を増やし、飲むのではなく、特に運転を続けたい人は一度考えてほしいのです。高齢者の免許返納問題は、現代社会を映す鏡のようなものです」

 他にも、薬を最小限にするための医療の受け方や暮らし方などについても書かれており、多くの人に読んで欲しい内容にまとめられています。

 僕も読み終わってから、75歳以上の知人には必ずこの本のことを伝えています。みなさんとても興味を持たれ、その場でスマートフォンから注文した人もいれば、和田氏の他の本をすでに読んだことがある人もいました。

 好んで薬をたくさん飲みたがる人はいないでしょうが、漠然と薬の飲み過ぎは避けたいと考えている人が少なくないようです。自分のこととしても大いに考えさせられた一冊でした。

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金子浩久書店
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