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日産フェアレディZについて内田 誠社長に呈した苦言

 日産とホンダの経営統合が騒がれていますが、渦中の内田 誠社長と新型フェアレディZについて話したことを思い出しました。

 一昨年にフェアレディZが新登場することになって、その前に北海道陸別の日産のテストコースで試乗し、開発陣とはまた別に内田社長と一対一で感想を伝えることになったのです。

 こうした、トップ中のトップには余計な気を使わずに思ったことをストレートに伝えるようにしています。時間も限られているからお世辞や余計な気遣いは不要で、たとえ耳に心地良くないことであっても真剣に会社のことを考えているトップならば本当のことを聞きたいはずだからです。

 僕が最初に伝えたのは、「商品企画における“守りの姿勢”が強過ぎてしまって、新鮮味に欠けて退屈であること」でした。

 具体的には、まず消化不良気味のスタイリング。各ディテイルは歴代フェアレディZから引用し、現代風にアップデイトしようとしていましたが、チグハグで統一感がありません。

 また、プラットフォームを更新せずに流用しているのは構わないのですが、大きな給油フラップを開くと旧型のボディの一部が丸見えになっていたりして、雑な仕上げも眼に入りました。

 MT版とAT版をテストコースで走らせてみましたが、抜きん出た長所も短所も感じられませんでした。テストコースは特殊な状況なので、一般道で乗ったら何か得られたかもしれません。

 失望されたのが操作系統です。インターフェイスがわかりにくいだけではありませんでした。新型フェアレディZのダッシュボードの中央には、ドライバーを向いた小型メーターが3個並んでいます。デジタル表示ではなく、プラスチックの針が振れて動くリアルなメーターです。左から電圧計、ターボチャージャー回転数、ターボブースト計。

 ここにメーターが3個並んでいるのは、これまでのフェアレディZに倣ったものです。「伝統を大切にする」という趣旨のことが説明されていました。それは大事なことで、良いと思います。

 しかし、右端のターボブースト計がドライバー正面のメーターパネル左端にも現れるのです。同じ機能のものがダブッているのです。

 ハンドル上のスイッチで切り替えながら、その他のG-Force、タイヤ空気圧、シフトアップインジケーター(MT版)などを表示することができますが、ここには要らないターボブースト計が現れてしまうのです。

 同じ内容を示す、見た目もほぼ同じものを重複してリアルメーターとデジタル表示で表してしまっています。無駄で、愚かです。ただでさえ最近のクルマは多機能でその働き具合をドライバーに伝えなければならないから、各車それぞれの方法で大きなパネル内に階層構造で整理したりして苦労を重ねている時代です。

 ドライバー正面のスペードメーターの左横という“一等地”を無駄に使ってしまっています。メーターパネルに何をどう表示するかは多機能時代の現代のクルマにとっては重要な課題だと僕は考えていたので、とても驚いてしまいました。

 どう考えても、二つ必要な理由はありません。開発陣やテストグループなど何十人ものスタッフが確認したはずなのに、誰も気付かなかったのでしょうか?

 そんなことはないと思います。何人も気付いた人が報告したのに、それが上司や他部署などに伝わらず、改められなかっただけだとするならば、いったいどんな組織なのでしょうか。デジタル画面ですから、ソフトウェアから消去するのは簡単なはずなのです。

 簡単に消せるのでディーラーに出荷する前に簡単に消すようになっている、というのならば良いのですが……。

 小学生でも見付けられるような簡単な瑕疵すら改まらずに僕のような外部の人間に指摘されるなんて、どんな仕事の進め方をしているのかと余計な心配をしてしまいます。

 いくら美辞麗句を重ねられても、これでは最初から聞く耳を持てませんよね。

 ということを内田社長に正直に話しました。彼は自分でメモを取りながら、真剣に聞いていました。ターボブースト計のところで、表情がちょっと険しくなったようにも見えました。理由を教えてもらいたかったのですが、時間切れでした。

 内田社長が難局を乗り切って、日産から魅力的なクルマが発売されることを願っています。

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金子浩久書店
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