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ミツオカのクルマはサンプリングや見立て絵であり、アンチモダニズムである

 最近、立て続けにミツオカの「Buddy」を眼にしました。少し前のアメリカ車、シボレーのSUV「ブレイザー」風に縦に角形ヘッドライトが2個ずつ左右に並ぶフロントグリルをトヨタRAV4に取り付けたクルマです。
 良くできていました。ボディサイズが全然違うアメ車とRAV4なのに、イメージを上手く取り込むことに成功していて、まるで“小さなシボレー”かと不自然なところが全く感じられませんでした。

 さらに、2025年に限定100台で生産されると発表されている4ドアセダン「M55」も、細長いフロントグリル両端に丸型ヘッドライトを2個ずつ配してダッジ・チャレンジャーを彷彿とさせています。画像を見る限り、こちらもホンダ シビックの上に巧みに雰囲気を醸し出しているようです。
 以前は、もっと古い1960年代以前のジャガーやロールスロイス風のデザインイメージをフロントグリルに用いたものが強い印象を残していましたが、時代を進めてアメリカ車のデザインをサンプリングしています。

 その頃は、昔のジャガーやロールスロイス風のフロントグリルのミツオカ各車を街で見掛けると、不思議な気持ちになっていました。

「本物のジャガーやロールスロイスに乗れば良いのに、なぜニセモノに乗るのだろうか?」

 光岡進社長(当時)を取材したら、「浮世絵の見立て絵のようなもの」と答えていましたが、完全に納得はいきませんでした。
 オーナーさんに理由を訊ねてみたいと思っていたら、「ガリュー」に10年7万3000km乗り続けている大阪の男性を取材することができました。

 ガリューのオーナーさんに会いに行って、ミツオカに乗る人の気持ちが良くわかりました。ガリューが単にフロントグリルだけを取り替えたのではないことも理解できました。それはタイトル画像に表れています。

 オーナーさんを取材して、ミツオカのクルマというのは浮世絵の見立て絵であると同時にヒップホップやR&Bなどで行われるサンプリングと同じセンスで造られているのだと思い至りました。
 サンプリングは過去の曲の一部を引用して新しい曲として再構築するので、コピーやカバーなどとは異なります。それと同じように、ミツオカ開発陣は発想の元となったクルマをリスペクトしながら、そこから湧き上がってきた感情と同じものを自社のクルマからも発したいのでしょう。

 また、ミツオカの方法論は自動車に於けるアンチモダニズムを体現するものでもあります。“形はつねに機能に従う”というルイス・サリバンの言葉に代表されるモダニズムは建築の世界から始まり、今日までの各種の工業デザインを覆い尽くしてきました。現在、8代目が製造販売されているフォルクスワーゲンのゴルフは、クルマの世界でのモダニズムの最大の成功例のひとつです。

 見立て絵やサンプリングを造形の基本とするミツオカの方法論は、期せずしてモダニズムへのアンチテーゼとなっています。それはミツオカだけではなく、過去の自らの製品をセルフサンプリングしているMINIやフィアット チンクエチェント、フォルクスワーゲン ニュービートルなどでも行われていることです。機能よりも様式に立脚する自動車デザインは特別なものではなくなってきています。

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金子浩久書店
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