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「クラクション」誌に寄稿した4ページの記事

 12月23日に創刊された「クラクション」誌に4ページの「10年10万kmストーリー物語」を寄稿しました。

 同誌は「NAVI」誌の編集者だった河西啓介さんが企画し、元編集長の鈴木正文さんが中心となって編集されたものです。

 僕は1990年3月号から「10年10万kmストーリー」を連載し始めました。それがどのように始まって、どう取材して、何を書きたかったのか?
 読者からどんな反応があって、少しずつ広がっていったのかなどを明らかにしました。何か所か引用してみましょう。

「10年10万kmストーリーを書きたくなったのは、一般の人が乗っている普通のクルマにこそ物語や真理が宿っているのではないかと考えていたからです。クルマそのものではなく、オーナーとクルマの関係性に興味がありました。
 有名人でなく、名車と呼ばれるような希少なクルマでなくても、10年なり10万km以上乗られたクルマならば、きっとオーナーしか知らない体験があるはずです。自動車メーカーの開発者ですら想定していないような悲喜劇が、きっと起きているに違いない。丁寧に取材すれば、必ず面白い記事になるような予感がしていましたし、自分で読んでみたかった。
 今から振り返ってみると、その頃に良く読んでいた沢木耕太郎や柳田邦男、猪瀬直樹(政治に携わる前)、トム・ウルフ、ハンター・トンプソンなどのニュージャーナリズムと呼ばれるノンフィクション作品の影響が強かったのだと思います。大きな主語ではなくて小さな主語による、名士ではなく市井の人々の物語。」


「文章構成の不備、取材不足、未熟な認識、稚拙な表現などが理由で徹底的に赤字が入ってくるのです。それほどではないところには鉛筆で他の選択肢が提案されます。
 そんなにダメなのかと全否定された気持ちに陥ります。駆け出しライターであっても手加減はされません。駆け出しだからこそ、厳しく指導されたのだと思います。NAVIのハードルの高さ、鈴木さんの求める原稿の質の高さを思い知った瞬間です。
 原稿に書かれた取材相手の言葉が曖昧で、それに続く僕の描写も甘かった時には再取材を命じられたこともありました。鈴木さんがまだトラッドファッションの時代で、腕にはロレックス・デイトナを付けていました。」

「例えば、取材記事は必ず取材に出掛けたアクションと取材で得られた内容の両方を書くこと。そして、内容を説明して終えるのではなくて自分なりの解釈を必ず添えること。その結果として、10年10万kmストーリーは二重構造を成しています。オーナーに「どう10年なり10万km以上乗り続けてきたのか?」をさまざまな角度からインタビューして思い出してもらうのを聞きながら、もう一方で“それを聞いている、撮影している、思い出しているオーナーと取材者である自分”のアクションを客観視して描いているのです。
 インタビューで耳から入ったものをテキスト化するだけでなく、五感を使ってその時のオーナーの様子、持ち物、クルマのコンディションなどを描写し、臨場感を出していきます。自らアクションを起こして描き、ストーリーを転がさなければなりません。大きなアクションもあれば、小さなアクションもあります。」

「シーン(scene)を意識して描くことの重要性を教わりました。そのためには、取材のきっかけや経過、場の説明、取材相手に関係するものごとの固有名詞や日時などの具体的情報が欠かせません。長く乗り続けているクルマに関係しなさそうなことであっても、ストーリーに重要な役割を果たしていることもあるので、インタビューではそこも掘り下げる必要があります。シーンを描くためにディテイルを疎かにはできません。クルマのことだけを聞いていては書けないのです。」

 連載終了から6年が経ったある日、編集部の青木禎之さんから連絡をもらいました。
「こんど編集長が代わるので、10年10万kmストーリーを再開しませんか?」
 とてもうれしい申し出でしたが、同じ企画にこだわり過ぎるのはライターとして仕事の幅を自ら狭めることにならないかという危惧も併せ持っていました。
「そう言わずに、新たに連載を続けて単行本のパート4を出しましょうよ」
 時代の移り変わるスピードは速いから、以前からの読者には飽きられ、新しい読者にはピンと来ないのではないか?
 再開するにしても取材相手を探すところから始めなければならないので、青木さんが募集記事を作って2006年5月号に載せてくれました。驚いたことに、発売直後から編集部に葉書や封書、電話やメールなどでたくさんの応募が寄せられたのです。その数260通!
 そんなにも多くの人が連載再開を喜んでくれたことに感激しました。“仕事の幅を狭めるかも”なんて訝しんでいた自分の了見の方がよっぽど幅が狭かったわけです。読者は広く大きく待っていてくれたのです。

 今まで、「10年10万kmストーリー」について短い文章は単行本のあとがきなどに書いてきましたが、総括するのは初めてです。読んでみてください。

「クラクション」誌はWebから購入できますが、何軒かの書店にも置かれます。
 2025年1月10日には、神保町のシェア書店「PASSAGE」で僕と河西さんが「1日店長」(12~19時)として店番しますので、ぜひ、こちらで買ってください。来店記念として、オリジナルポストカードとステッカーがプレゼントされます。買わなくても、遊びに来てください。

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金子浩久書店
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