見出し画像

米株は許されるのか?答えは「NO」だ

市場が米インフレとその対策で揺れている。インフレの先行きを示す"期待インフレ率"も揺さぶれている真っ最中だ。

NYダウは7週間連続で下落し、その間に最高値35516.0、最安値31218.8、終値で32149.2と大幅に値下がり。最近の週末に、6月利上げリスクの低下により、ようやく反発した。

とはいえ、まだまだ先行きは不透明。そこで期待インフレ率(Break Even Inflation rate:BEI)を手掛かりに今後の展開を占う。

期待インフレ率の”おじぎ”で安心感

2020年3月からの期待インフレ率の推移

まずは期待インフレ率についてだ。細かくは、市場で取引される米国債と米物価連動国債の利回りの差で、市場がどの程度の物価上昇を見込んでいるかを示している。

つまり、期待インフレ率が上昇し続ければ、インフレが昂進し続けると、下落に転じれば落ち着くと、市場参加者が見ているということだ。

直近の推移を見てみよう。2月半ばから大きく上昇し、5年2.8%(2月1日時点)、10年2.43%(2月1日時点)だったところ、5年3.59%(3月25日時点)、10年2.95%(3月25日時点)と1%以上もの高騰を見せていた。

さらに高止まりしていたが、株式市場の下落に伴い、5月12日には2.89%、2.59%まで低下。適正といわれる2.5%近辺へ向かい、グラフでは”おじぎ”する動きを見せている。

転じて、期待インフレ率は下落基調にあり、その点ではインフレ抑制も効いてきており、米株市場も下落局面を脱しようとしている安心してよい環境に向かいつつあると見れなくはない。

期待インフレ率に働く2つの”見えざる手”

しかし、期待インフレ率からの見通しに盲点がないわけではない。

説明しよう。期待インフレ率はそもそも、あくまで”市場がどう見ているか”を示しているのであって、インフレを退治しきれるかを示しているわけではない。

また、現在は実体経済のインフレの動きを、FRBとマーケットが追いかけている[1]のであって、”マーケットの答えありき”の環境ではないのだ。

そのため、アメリカ経済がインフレをうまく退治し、FRBの利上げプロセスもつつがなく進行する、株式市場にとって見通しのよい展開を約束しはしない。

加えて、期待インフレ率を決めるマーケットも、将来については、あくまで”不確実”なもの。より踏み込んでいえば、期待インフレ率は市場の動きしだいで、再び激しく上昇したり、あるいは下落し続けて景気後退に進行するリスクも当然にありうるのだ。

いわば、期待インフレ率は、上げようとするマーケットの圧力と、下げようとする圧力の2つの見えざる手のせめぎあいの中で、いったん好転しているにすぎないということだ。

米株式市場に関連づければ、市場の神の見えざる手で、期待インフレ率が大きく上昇すればFRBの追加利上げで株式市場は下落、もしも下がりすぎれば景気後退入りし、そうなればもちろん株式も下落…ということになるだろう。

QTは”始まってすらいない”

さらに言えば、株式市場に下落圧力となる”金融引き締めはまだピークではない”。そんな見方も十二分に成立する。

その裏付けの一つは、米FRBの金利引上げはまだ序盤。現在は0.75~1.00%のところ、3%程度まで上昇するのではないかとみられている。もちろん、それに伴い、市中金利も上昇するのではないかと見通せる。

さらに、FRBは、金利引上げに加えてもう一つの金融引き締めを準備しており、忘れてはならない。量的引締め(QT:Quantitative Tightening)だ。

今回のQTの影響のほどは、0.25%の利上げ相当といわれることもあるが、わからない。一方で、社会に出回るお金の減少は間違いなく、金利上昇・株式市場下落の圧力として働く。

しかもこのQTについては、まだ始まってすらいないのだ。現在の値動きにすでに織り込まれたと見る向きもあるかもしれないが、前回のQTでは開始後に2度の下落局面を経験した前例もある。

であるならば、今回も同様のリスクが当然に想定され、米株式市場についても安心できるものではないだろう。

※FRBのバランスシート縮小(QT)については、広瀬隆雄さんや岡崎良介さんの解説がたいへんわかりやすい。[2][3]

”中国”が引き続きボトルネックに

さらに、現在の米株式市場の下落局面の根源的な原因でもある、インフレについても、先行きの不透明さが強まっている。

端的にいえば、中国の動向だ。

それは、FRBのパウエル議長も、「ソフトランディングできるかどうかは、我々のコントロール外の要因にかかっている。コントロール可能なのは需要であって、供給には働きかけられない」[4] との発言からも読み取れ、供給のボトルネックを解消するには中国経済の正常化も必要[1]なのだ。

少し詳しく書けば、コロナ禍からの復帰の過程で、中国がインフレのボトルネックになっていたのも記憶に新しいが、現在もゼロコロナを抱え、都市ロックダウンも実施。なかなか正常化への道筋も明確化されてこない。

一方で、アメリカ政府もFRBもこの中国の国内問題については、外部からあれこれ言うしかできず、直接は影響力を行使できない。

つまり、米株を正常化に向かわせるサプライサイドのボトルネックの解消も、視野には入ってこないのだ。

以上を踏まえれば現時点では、米株が救われるか?と問われても”No”と答えざるを得ない……それが正直なところだ。

投資界の同僚諸氏も上記の要素にも留意しつつ、100%納得でき、成果に結びつく投資をしてもらえれば幸甚だ。

Notes&References

[1] 岡崎氏によれば、現在は、経済のファンダメンタルズが先に走り、FRBはその後ろから全速力で走って追いかけており(利上げ幅を広げつつFFRを引き上げている)、マーケットもその動きについていこうとしているところだ。
岡崎良介, これまでのシナリオ(2021年8月策定)を修正すべきかどうか?〜ニュータイプの危機〜 [岡崎良介の投資戦略], https://www.youtube.com/watch?v=UZ5HyVO0Zwg (14th May 2022)
[2]
岡崎良介(なるほど!投資ゼミナール), 【FRB:金融政策のリスク】政策金利は怖くない/バランスシート縮小は怖すぎる(岡崎良介さん) [マーケットディーパー], https://www.youtube.com/watch?v=014FVY2HKz8
[3]
 広瀬 隆雄, FOMC議事録で、かなり大胆な今後の方針がハッキリしたhttps://media.rakuten-sec.net/articles/-/36758
[4]
 Kai Ryssdal and Marketplace Staff, https://www.marketplace.org/2022/05/12/fed-chair-jerome-powell-controlling-inflation-will-include-some-pain/


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?